第13話

「そんな訳で、屋上以外を見て回ろう」


【中庭】-


「天気の良い日に多くの生徒が集まる場所だな」

「仲良くランチタイムする?」

「そんな感じ。あとは適当にボール遊びをしてる奴もいる」

「ドッジボールですか、イイね!」


 ドッジボールとか懐かしすぎか。

 小学生ならまだしも高校に入ってドッジボールをする奴は少ないだろう。



【-プール】-


「ウチの学校は屋外プールだから授業で使うのも夏のみだけどな。時々イベントで使ったりはしてるらしい」

「夜中に忍び込んでこっそり入っちゃうドキドキ空間だね♪」

「え、プールってそういう認識?」

「日本のプールは、男女間の仲を極地的に深めるスポットだから!」


 バレたら説教待った無しスポットの間違いでは。

 

【-音楽室】-


「椅子だけであまり楽器は無いみたいだけど……」

「吹奏楽部の知り合いによると、楽器には高価な物も多いから基本的には楽器置き場に仕舞ってるんだと」


 例外として、ピアノのような簡単に運べなくて授業で使われる楽器は設置されたままだけどな。


「あ! これって大太鼓だよねッ、日本の伝統楽器!!」

「そうだな。それもデカイから端っこに置いてあるんだろ」

「……うずうず…………てぇい!」


 ドーン!

 大太鼓のいい音が一発響いた。


「わあーーーー、大きな音♪」

「あまり鳴らしすぎると誰か来るかもしれない。ほどほどにな」


 大太鼓を楽しそうに触ったりバチで叩てみるリーナは小学校低学年のようだ。オレもあの頃は大太鼓を叩くだけで笑ってたっけなぁ。


「そういえばリーナはこんな話は知ってるか? 誰もいないはずの音楽室に近づくと、ひとりでにピアノが鳴っててさ。一体どうしてと思って確認すると」

「すると?」

「天井から滴る血でピアノが鳴ってるんだ」

「えええええ!? なにそれホラーーーー!!?」


 単なる学校七不思議系の話を振っただけなのだが、リーナは満点のリアクションをしてくれた。調子に乗ってその後もいくつかの定番怪談話をしてみただのが、途中で「怖いのはお腹いっぱいだよ!」とストップが入ってしまう。

もしかして怖い話は苦手なのかもしれない。


【-部活棟】

 

 連絡通路を通って移動した先にある少し古い建物は部活棟と呼ばれている。

 正確には部だけではなく同好会も使っていたりするが、昔から色んな人が部活棟部活棟と呼んでいる内にそう定着したのだとか。

 

「ココは部活動用の教室がたくさんある建物だ。運動部・文化部、規模の違いなんかに関係なく活動で使いたい奴が使ってる感じだな」

「おおー、部活動専用の校舎なんだね!」


 部活という単語に対して、リーナのテンションが更に上がる。


「和頼は何部なの?」

「帰宅部」


「きたくぶ?」

「どこの部や同好会にも入ってない奴を帰宅部って呼んだりする。活動内容は授業が終わったらすぐに帰宅するだけ」


「えええ!? なんでどうして!!?」

「それは――」


 オレの場合は、部活動に打ち込んでいるヤツと同等以上のキラキラも情熱も見つけられなかったから。

 そう発しようとした口からは、情けない真実を暴露するのを避けるように声が出なかった。代わりに出たのは無難な答えだけだ。


「この学校の部活は、必ず入る必要がないからな。授業が終わった後にどう過ごすかは個人の自由なんだよ」

「ふーむむ? 自主性を重んじるっていうー事かな?」

「多分な」

「そっかぁ。和頼が入ってる部活ならワタシも入ってもいいなって考えてたのにぃ」


 意外な考えに少々驚く。

 リーナがそう考えるようなナニカをした覚えがオレには無い。


「リーナならどんな部活でも歓迎されるだろ」


 数多の目を惹く美少女留学生の入部希望を断る輩などいない。

 仮にオレが所属してる部にリーナが入ろうとしたら、両手でバンザイして大歓迎するはずだ。

 

「どうかなぁ? ワタシは部活動はやったことがないから上手く活動できないかもしれないよ」


 部活棟の廊下に足を踏み入れたリーナが自信なさげに呟く。


「なんだ、リーナも帰宅部だったのか?」

「ううん。そもそも学校に部活動そのものがなかったの」


 先を歩いていたオレは足を止めて振り返る。


「部活動そのものが無い?」

「いえす。いわゆる日本の学校にある部は、ワタシの故郷にはないよ。和頼風に言うなら、みんな帰宅部になるかな?」


「……リーナの故郷では、みんな灰色の青春を送っていると」

「あははは♪ 灰色の青春とは独特な言い方だねっ。心配しなくて部活動が無いだけで、住んでいる地域に習い事教室やスポーツチームはあるから。何か頑張りたいものがあるならそっちに行くの」

「あー、そういう感じなのか」


 学校の部活がないだけで、本当に何もないわけじゃないのか。

 大分焦った。危うく北欧がオレの脳内で悲しい土地になるとこだった。


「……でも、部活は無いからね。部活動が日常的に行える日本はひどくうらやましかったよ」

「そんなにか?」

「そうだよー。だって、学校の同級生やクラスメイト、先輩後輩と一緒に同じものを目指したり作ったりできるから。そういうの、とてもいいじゃない♪」


 言いきったリーナの顔は心底明るくポジティブなものだった。

 何の含みもなく、彼女のは純粋に部活動がとても良い物だと信じている。


 もう何度目になるかわからない眩しさに目がくらみそうだ。

 もし、オレが何かしらの情熱を既に見つけていたのなら……リーナはうらやましく感じてくれたのだろうか。

……わからないな。


 確実に言えるのは、リーナの考え方にはとても共感できるという事だ。


「そうだな、いいものだ」

「だよだよ♪」


「だったら気になる部活があったら体験入部してみたらいい。もう少し経ったら新入生の部員を増やすために各部活がこぞって動き出す。みんな躍起になって部の説明をするし、何が楽しいか何が出来るかなんかを教えてくれるぞ」

「ほんと!? それは楽しみだね♪」


「それはそれとして、今だったら気になった部を覗いてみるぐらいはOKだぞ。オレは帰宅部ではあるけど、そこそこ知り合いがいるからな。挨拶がてらちょっと寄ってみるぐらいは問題ない」

「おおー、和頼は顔がすごくデカいね♪」

「……もしかして広いって言いたいのか」

「そう、それ!」


 ビビった。

 いきなり真正面から『顔がすごくデカイですね』なんてガチで言われた日には、どんなリアクションを取ればいいのかサッパリわからん。


「何かしら興味のある部活はあるのか?」

「あるよ!」

「どんなの?」

「アニメ漫画研究会!」


 清々しいまでに予想のど真ん中をぶちぬく答えに、つい笑ってしまう。

 ほんとにそういうトコはブレない奴だなぁ。


「和頼なんで笑ってるの? 何か面白いことあった?」

「リーナと一緒だと飽きないなって」

「ワタシも和頼と一緒だと飽きません。とってもハッピーだよ♪」


 屈託なく言い返されてしまい、ほんのり照れる。

 そこで、校舎の方からコッチへ駆けてくる男子が窓の向こうに見えた。

 お互いに知ってる仲だったので軽く手を挙げてきたソイツに対して、オレも挙げ返す。


「どうしたどうした和頼。誰かに呼ばれてきたのか? さすがに始業式の日から助っ人を頼もうとするヤツなんていないだろ」

「特に呼ばれたわけじゃない。オレは留学生(コイツ)の案内をしてるだけ。ちょうどいいからお前さ、バスケ部の一員としてこの子にどんなことやってるか教えてやってくれないか」

「モイ~♪」


「はぁ? なんだそれ――――って、どっから連れてきたんだそんなべっぴんさん!? うちの学校にそんな子いたか??!」


 べっぴんさんて。

 何故そこで古風な言い回しをチョイスしたんだコイツは。


「べっぴんさんなんてそんな……照れちゃうよ」


 そしてその意味を理解できる北欧美少女の存在よ。


「可愛い、可愛すぎる。キミさえ良ければ、今日からでもマネージャーにならないか? プレイする方がいいなら女子バスケ部に推薦するけど」

「待て待てまーて、ステイだステイ。勢い任せに手を握ろうとするんじゃないよこのむっつりスポーツマンが」


 リーナの前に割って入り、知り合いの手をべしっと弾く。


「邪魔すんな和頼! 今いいところなんだ!!」

「おまっ、ガチトーンかよ。そんな風にがっつくから女子に避けられるんだぞお前は」

「てめえ!? 周りが思ってても口にしないような事を堂々と言いやがって。デリカシーってもんがねえのかあ!!」


「アハッ、和頼と彼はとても仲良しなんだね♪」

「男同士の付き合いなんてこんなもんだ」


 そんなやり取りがあって……。

 半ば強引に生まれた流れによって、最初に覗く部活はバスケ部となったのだが。


 バスケットボールを巧みに扱って見せる知り合いの熱烈アピールに対するリーナの返事は。


「ワタシはバスケ部には入らないかな♪」


 何一つ容赦のないズバッと切り捨て御免な代物だった。

 これこそ真にデリカシーが無いとは言うのではないか?


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