第11話
「初めまして! 北欧から来ましたヘレナ・ルオツァライネンです♪ 憧れの日本に来れて今の気持ちはとってもとってもハッピー! 日本の文化は最高です、リリンが生み出した文化の極みで一等賞。ではでは日本に来たのも留学も初めてだけど、どうぞよろしくだってばよ♪♪♪」
張りのある元気な声が、教室の後ろの壁に届くほどのボリュームで勢いよく叩きつけられる。この教室の中にいる者で聞こえなかったなんて思う者は皆無だろう。ついでに「は? 何が起きた???」とビックリ顔になってないヤツも皆無に違いない。
だが、一番驚いたのは多分オレだ。
あいつ! 初日の一発目から盛大にぶちかましおったわ。
なんという大胆不敵さか。
外国人ってみんなこんな感じのテンションなのか???
「ご清聴ありがとうだよー♪」
選挙カーの上に乗ってる候補者のようにリーナが手を振る。
唖然としていたクラスメイト達がどんな反応をするのか。これにはかなりのドキドキ感があったのだが。
そんなものは余計な取り越し苦労だった。
「う……」
「「「「「うおおおおーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」」」
机や椅子どころか天井や床がビリビリと震える大歓声が一泊置いて巻き起こる。
散々前フリをしていた先生も一緒になって声を出してる辺りノリが良すぎだ。まあさすがに他の教室から苦情がきたらヤバイので「はいはい、静かにしろー」と皆の興奮ゲージが下がり始めた頃合いに止めに入っていたが。妙に手慣れてるのは何なんだろうか。
「ある意味盛り上がる自己紹介の手本になったが、キミらは真似しなくていいからな。というか、出来るなら避けてくれ。他の先生から私が怒られる」
お茶目なジョークを交えつつ、担任がリーナに改めて声をかける。
「ルオツァライネン。キミの席はあそこだ」
「あいあいさー♪」
「ここは『はい』と返事をすると、他の先生から注意されないぞ」
「はい!」
「うんうん、その調子だ」
完全にいつもの調子になったリーナが向かってきたのはオレ――の隣の席である。
休みか何かでいないのかと思いきや、専用の席だったか。
「モイ! よろしくお願いしますね~♪」
「よろしくー」「こちらこそ」「分からない事があったら訊いてね」
こっちに来るまでの短い間にも何人もの生徒と和やかな挨拶。リーナのぶちかまし自己紹介は見事に人の心を掴むのに成功したようだ。
んで、いよいよもってオレの前まで来たかと思えば。
「モイ~♪」
もんのすごいドヤ顔気味な微笑み後に、隣りの席に座った。
一発目の挨拶に成功したのがそれだけ嬉しかったんだろう。
「よーし。じゃあ次は出席番号順でやってくぞー」
「先生。あの挨拶の後じゃハードル高いっすよー」
「飛び越えられないハードルはくぐればいいんだ。はよやれー」
名言っぽような駄文のようなことを口にした担任によって小さな笑いが起きたあと、今度こそ普通の自己紹介が進んで行く。
当然オレもやることになるわけで、佐倉崎の苗字ゆえに出番は割と前半になるわけだが、そこは何だ。
「佐倉崎 和頼です。これからよろしく」
特にウケ狙いをするわけでもなく、ものすごく無難な――言い換えるなら特徴も面白みもない挨拶でフィニッシュした。
===ホームルーム後から
「ふ~~~」
各自の自己紹介後。
やっと一息吐いたのはアレやコレやと連絡事項の多いホームルームが終わってからだった。
すぐ隣を向けば、リーナの下にはクラスメイト達が群がっている。
「さっき口にしてたモイって外国の挨拶なんだよね?」
「この学校を選んだ理由ってあったりする?」
「時間がある時でいいから! ウチの部活を見に来ないか!?」
「ほんとに可愛いし綺麗~やっぱり肌や髪のケアって外国のを使ってたり――」
怒涛の質問責めに勧誘、お褒めの言葉等々。
まだ出会って一時間も経っていないはずなのに随分な人気者っぷりだ。
「和頼」
「なんだ道晃? 訊きたい事は本人に直接訊けよ」
「悲しいこと言うな。あの輪の中に割り込むのは隠れオタクには厳しいって」
そういうお前の発言の方が悲しくない?
「ルオツァライネンさんとはどういうご関係で?」
「クラスメイトで同級生」
「へぇ? クラスメイトで同級生なだけで登校と始業式でイチャつき、果てには専用のハッピースマイルセットを貰えると」
「…………」
個人的にはそんなにイチャついた記憶もハッピースマイルセットを貰った覚えはないが、周りからはそう見えたのか。
「他に挙げるとすれば、隣の席なのがお前と決定的に違うわな」
「隣りの席にいるだけであんなに可愛い子とお近づきになれるだって!? ソレなんてラブコメだよ!」
「そんなこと言ったらお前だって、偶然同じ場所に居合わせた女の子とよく仲良くやってんだろが」
「同好の士が好きな作品について語り合うのは当たり前だよ。美少女留学生と無駄に仲良さそうなんて超レア体験と一緒にしないで欲しいな」
うん、何が違うのかオレには分かんねえわ。
よーし、ココは適当に誤魔化して後日決着をつける方向で行こう。
「あのなぁ、別にそんな大したことじゃな――――」
「ええ!? ルオツァライネンさんって佐倉崎くんと一緒に住んでるの!!?」
すぐ近くから大声が響き、オレの声をかき消す。
「和頼」
「なんだ親友」
「今、とんでもない新情報が大っぴらかつ大胆に知れ渡ったんだけど」
「気のせいかもしれないぞ。最近耳鼻科には行ったか?」
無理矢理目を逸らすのが精一杯なオレ。
「どうぞリーナって呼んでネ。友達や家族は皆そう呼ぶダカラ」
「リーナ?」
「要はあだ名でしょ」「なるほど」
「じゃあじゃあ、佐倉崎くんとリーナちゃんって……同棲してるの?」
「はい♪」
気のせいというには厳しすぎる発言が、再びリーナから発せられた。
オレに顔面を近づけてくる道晃の圧がヤバイ。
「かーずーよーりー?」
「なんだい道晃くん顔が近いよ」
「耳鼻科に行く必要がないひとつの真実が明かされただけど?」
「誤解と語弊がある」
「どこにだよ!?」
「一緒に暮らしていると同棲している。この二つは概ね同じ意味だが、聞き手のニュアンスで変わってくるんだ」
自分で言っておいてなんだが、苦しい言い訳だ。
「ええっ!? その二つには違うニュアンスがあるの和頼!」
「ココでお前が割り込んできたらダメだろ! 後で説明するから今はスルーしてくれないか」
ややこしさが倍増してしまうだろうが。
「ノンノン、間違えているのなら早いうちに直した方がいいでしょ! 何がどう違うのか教えて欲しいのダ」
「えー……あー……」
「なんだなんだどうした」
「佐倉崎がルオツァライネンさんに対して、同棲について語るらしいぞ」
「ほほう、それはそれは」
わらわらと集まって囲んでくるクラスメイト達の玩具を見つけたような笑顔が恐ろしい。下手打ったら何をどう言いふらされるか分からん。
そこでオレが取った手段は。
「そんなことよりリーナはホームルーム後に学校案内をして欲しいって言ってたろ。すぐに行動開始しないと説明しきれなくなるがいいのか?」
「そ、それはマズイですぞ?!」
リーナを利用して、強引にこの場を離れることであった。
「すぐに行きましょう和頼!」
「ああそうだな! というわけで済まんな諸君、また今度!!」
コレがオレ一人で逃走しようものなら屈強な運動部員達に妨害されたかもしれないが、リーナが望んで出ていくというなら関係ない。むしろ快く送り出さねば心証も下がるというものだ。
そんな状況を生かして、オレはリーナに引っ張られるような形でそそくさと教室を後にする。
「ちぃ! 逃げたか!」
「一緒に暮らしているって分かっただけで大ニュースだけどね」
「ドキドキする―。ふ、二人ってやっぱりそういう系の関係なのかな……、家族公認の大人な関係的な」
かすかに耳に届いた言葉は、聞こえなかった事にしよう。
とはいえ――――上手い言い訳は後日用に考えておいた方が良さそうだが……。
「さあ和頼! どこから案内してくれますか♪」
もしかして、今日はずっとこんな調子が続くというのか?
…………余計な誤解を生まないよう、細心の注意を払わねばならんな。
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