第3話


 亜都は近くの高級ホテルに連れていかれ、最上階の豪華な一室で豪華なティーセットを前に清良と向かい合って座る。モンブランには金箔が載っていて、おいしそうだ。


「どうぞ召し上がって」

「ありがとうございます」

 あとで料金を請求されないだろうか、警戒しながらティーカップに手を伸ばす。白地に緑のラインが入り、金色で蔦模様が描かれていた。


「単刀直入に申し上げます。私の夫と関係を持ってください」

 亜都は飲んでいた紅茶を噴きそうになった。

「驚かせてごめんなさい」

 清良は面白そうに口に手を当てて笑った。


「どういうことですか」

 専務が既婚なのも初耳なのに。

「実は私、癌が発覚しましたの。余命は三カ月」

 言われて、亜都は息を飲む。


「夫にはまだ言えておりません。でも、残されたあの方を思うと……女性がいれば、寂しくないのではと思うのです」

「どうして私なんか」

 美しい清良とは段違いに平凡で地味なOLだ。きれいな人はいくらでもいるだろうに、よりによって自分なんて。


「あなたは夫の好みに合います。もちろん報酬をお支払いします。一億ほどでよろしいかしら。一夜だけでも、お願いします」

「一億!?」

 亜都は思わず叫んだ。


 一億あれば、工場の借金を返して当面をしのぐこともできるはずだ。

 父の生きがいを守り、工員たちの居場所を守れる。

 ただ一晩、亜都が我慢すれば。


 だが。

 好きでもない人を誘惑して関係を持つなんて、自分にはできそうもない。


「ただし」

 清良は返事を待たずに続ける。


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