かつて世界を救った最強クソガキ、もう一度世界を救う。〜ダンジョンの主人を名乗る奴がムカついたのでぶっ殺がしたいと思います〜

コーラ

第1話 柊進

今から10年前、日本は異世界からの侵攻を受けていた。


 各地ではダンジョンが出現し、そこを拠点にして魔族やモンスターが攻撃を仕掛けてきていた。

 当時の自衛隊は必死に抵抗したが、その努力も虚しく敗戦が続いていた。


 各国も最初は信じていなかったが、日本の一部が侵略されようやくことの重大さに気づき、軍隊の派遣や物資等の支援を惜しまなかった。


 これが後に語られる異世界大戦である。


 しかし、各国の奮戦も虚しく日本の領土奪還は成し遂げられなかった。


 そんな時、特別な力を持った人間が現れ戦況をひっくり返し始めたのだ。

 特別な力を持った人間は次々と現れ異世界からの侵攻に抵抗し始めたのだ。


 その力を持った人達に人々は敬意を込めて『冒険者』と呼ぶようになった。

 そしてついに『冒険者』達は『異界の使徒』を名乗る異世界人の親玉を撃破した。


 それから日本政府、いや全世界の人々は『異界の使徒』の撃破を成し遂げた10人を10傑と呼び、英雄様と崇めるようになったのだった。


「先生〜、10傑って9人しか名前が載ってないのになんで10傑なんですか〜?」


 とある小学校の教室、眼鏡をかけた青年……先生の言葉に反応して真面目そうな少年が手を上げて質問をした。

 先生は教科書を見る。確かに10傑と言われているのに9人の名前しか載っていない。


「それはですね、10傑の中に15歳の子供がいたからですよ。将来的に何かあってはいけないと世界政府はその子供の情報を公開しなかったのです」


 先生の言葉に教室がザワザワと喧騒に包まれる。

 会話の内容は自分たちと5歳しか変わらないのにすごい! とか、本当なのかな? と称賛するものであったり、疑うものであったり様々だ。


「はーい。静かに……テストには10傑の名前も出るのでみなさん覚えておいてくださいね」


 先生の言葉に生徒達はお喋りをやめて先生を見る。そしてまた真面目そうな少年が手を上げた。


「先生! その英雄は今も僕達の為に戦っているんですか?」


 その言葉に先生は顔を歪めそうになる。

 つい最近、異世界からの侵攻(スタンピード)がまた起こったのだ。

 原因も不明、何もかもわからないが、調査の為に10傑がダンジョンに送り込まれたと報道はされていた。

 

 そこで先生は子供達が不安そうな顔をしていることに今になって気づいた。


「大丈夫です。『無冠の英雄』は僕達の為に戦ってくれていますよ」


 先生はみんなを勇気づける為にその英雄の二つ名を出すのだった。







『お前雑魚すぎ。お前のせいで負けたんだけど、どうしてくれんの?』


 とある部屋の一室。パソコンの正面に座る不機嫌な目つきが印象的な黒髪の青年はヘッドセット越しからくる罵声に震えていた。


「はあ? テメェのカバーが遅かったら負けたんだろうが。サポートキャラ使ってんならサポートくらいしろよ。下手くそ」


『馬鹿が! 俺らの動きを見ずに突っ込んだのお前だろ!』


 彼が言い争ってるのはゲームの味方だが、知り合いではない。所謂野良というやつである。

 

「お前の方こそもっと周り見ろや、カスゥ」


『ネット弁慶の癖にイきってんじゃねーよ』


 その言葉に青年は我慢の限界に達したのかマウスを握りつぶした。


「は? 誰がネット弁慶だ、コラ。テメェのせいでマウス握り潰しちまったじゃねぇか。弁償してもらうからお前んち教えろ。今から行ってやるからよ」


 などと世界一無駄な時間を過ごしているこの青年こそが、最年少で『異界の王』を撃破し、『無冠の英雄』などと呼ばれている人の正体である。

 名前は柊進。今年で20歳になったばかりの無職だ。


『www おぉ〜、こわ。怖いからブロックするわ』


「テメェ! ざけん」


 馬鹿にされたことに憤慨した進は怒鳴りつけようとするが、それよりも先にmaumau(味方の名前)がチャットルームから退出しましたという表示が出ていた。


「あー、クソ! イライラするな」


 ベッドセットを投げ捨てて進は立ち上がった。それと同時にピンポーンとチャイムが鳴る音がした。


「ッチ、また新聞の勧誘か? それとも宗教勧誘か?」


 進はイラついたように扉を見た。

 大きな荷物を持ってない女が1人ドアの前に立っている。となればその二択だろう。

 進は別にインターフォンのモニターを見たわけでもないし、窓の隙間から外を見たわけでもない。それくらいはダンジョンの経験から分かってしまうのだ。気配察知を使うまでもない。


「……無視だな」


 進はこのイラつきをドアの前にいる女で発散しようかとも考えたが、これ以上労力を使いたくなかった。

 結果、冷蔵庫に向かい瓶のコーラを手に取る。キャップを爪で弾いて外すとプシュといい音がした。そしてそれを口にしようとした次の瞬間ピンポーンとまたチャイムがなったのだ。しかも今回は連打だ。


「…………」

 

 至高の時間を邪魔され青筋を額に浮かべる進は文句を言う為に玄関へ向かうのだった。


「ピンポンピンポンうるせぇな! 俺の至福の時間を邪魔しやがって!」


 勢いよくドアを開けると、細いフレームのメガネをつけていてふわっとしたハーフアップが特徴的な美女がいた。

 目つきはやや吊り目気味で、凛とした鼻筋にぷるっとした唇。俗に言うクール系というやつだ。


「初めまして、柊進さん。チャイムを連打したことに関しては謝罪しますが、居留守だと分かっていたので、やむなく連打させてもらいました」


「最近の営業ってのは名前まで調べてくるもんなのか?」


「いえ、私は営業ではありません。ダンジョン管理局から派遣されできました、一条あやめと申します。よろしくお願いします」


 その言葉を聞いた進の不機嫌そうな目はさらに不機嫌そうになるのだった。


 

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