英雄召喚~異世界から勇者を召喚したらマジもんの英雄様が召喚されたみたいなんですけど、魔王を倒せたのでもう何でもいいです

遠野紫

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 私たちは危機に瀕していた。

 我々人類の住むレッドガルドは突如として現れた魔王とその配下に侵略されており、徐々にその領土を奪われているのだ。

 このままでは数年後、全ての領土を奴らに奪われ、人類は滅ぼされてしまうだろう。


 しかし、まだ我々には希望があった。

 古来より伝わる召喚魔法。それを使えば異世界から勇者を召喚出来るのだ。

 現に他の国ではガクセイと言う謎の存在を勇者として呼び出し、戦力としている。


 彼らは例外なく強力な魔法やスキルを所有しており、魔王軍との戦いにおいて絶大な結果を残していた。

 ならば、ここは是非我が国も続くべきでは無いか!


 と、その旨を我が王に伝えたところ、状況が状況であるためにすぐさま召喚魔法の許可をいただけた。

 それどころか準備すらも国主導で行ってもらった程である。

 召喚術には膨大な魔力が必要であり、私一人では到底成し得なかっただろう。これは嬉しい誤算だ。


 そしてついにその日は来た。


「では諸君、召喚魔法を発動させよ!」


 我が王のその声と共に、私を含む召喚術師たちは地面に描かれた魔法陣へと魔力を込め始めた。

 すると魔法陣が光り始め、その中心に何やらとてつも無い魔力の反応が現れる。

 少なくとも、召喚術自体は成功と言って良いだろう。


 あとはどういった存在が召喚されるか……だ。

 召喚されるガクセイの中には血気盛んな者もいれば、戦いに対して恐ろしく消極的な者もいると聞く。

 なんでも彼らの世界には魔物と言う物は存在しないらしいのだ。


 また性別によっても反応は大きく違うらしい。基本的には男の方がすぐに順応するのだとか。

 イセカイモノなる概念が彼らをそうするようだ。


 さて、わが国には一体どのような者が召喚されるのだろうか。

 願わくば、魔王軍との戦いに大きく貢献できる者であってほしいところだが……。


「……ッ!!」


 一際強い魔力と共に、魔法陣の中心が真っ白に光る。

 と同時に、一人の男が現れた。

 よし、順応と言う点で言えばまずは当たりと言うべきだろう。


「……」


 突然召喚されたせいか、彼は辺りを確認している。

 その姿はまさに騎士と言った風貌だ。これが恐らく向こうの世界でガクセイと呼ばれているものなのだろう。


「……状況は理解した。では問おう、其方が俺を召喚した術者か」


 彼はそう言って王の方を見る。

 あの迷いのない判断と動き……この場において我が王がもっとも偉く尊き存在であると瞬時に気付いたとしか言えない。


 流石は異世界から召喚された勇者だ。観察眼も凄まじいものを持っているということだな。

 それにあの立ち振る舞いは間違いなく相当な実力を持つ騎士のそれだ。

 これはまさしく大成功と言って良いだろう。


 ―――しかし、この時点で我々は違和感に気付くべきだったのかもれしれない。

 彼は、決してガクセイと呼ばれる存在などでは無かったのだ。


 ◆


 召喚魔法を発動してから早数日が経った。

 本来、召喚魔法によって召喚された勇者はこの世界に慣れるのにしばらくかかるらしいのだが、どういう訳か彼はすぐさま我が国の騎士と共に魔王軍との戦いに身を投じている。


 彼は自らをジークライトと名乗り、同時にフランク王国なる国に仕える騎士だと言った。

 恐らくはそれが関係しているのだろうが、生憎と我々はその国を知らない。

 またその他の情報も他の国から聞いた物と一致しないことに困惑するのみだった。


 と言うのも、魔物は向こうの世界には存在しないらしいのだが、何故か彼は魔物を見慣れた様子なのである。

 それに彼の名前も他の者とは違う。

 多くの召喚者はタケウチ・マヤやオクムラ・ユウキのような苗字の後に名が付く形だが、彼はこう……そもそもの名前の雰囲気が違う。


 どちらかと言えば、我々の世界の者と似たような名であった。


「何か考え事ですか?」


「ああ、いや……彼の事を考えてたところだ」


 彼の持つ違和感に頭を悩ませていたのが表情にも表れていたのか、助手は心配そうに私の顔を覗き込んでいた。


「召喚された彼……ですよね? 聞いた話だと他の国の勇者とは少し毛色が違うのだとか……」


「毛色が違う……ね」


 正直あれは毛色がどうこうと言う話では無い気がする。

 何かこう、もっと根本的な違いを感じてしまうのはきっと気のせいでは無いだろう。


「そんなに気になるのでしたら、彼の事を調べてみてはいかがでしょう。師匠でしたら召喚獣を使って観察もできるのでは?」


「そうか……確かにそうだな」


 彼女に言われた通り、私の召喚獣の中には鳥型のものがいくつか存在する。

 彼らであればジークライトが戦っている姿を上空から観察するのも難しくは無いだろう。

 善は急げとも言う。早速やってみるとしようではないか。

「……サモン・ウィンドバード」


 詠唱が終わると同時に小さな魔法陣から小型の鳥のような召喚獣が姿を現す。

 ウィンドバードと呼ばれる彼らはその名の通り風のように素早く空を飛ぶことの出来る召喚獣だ。

 その能力もあって、こういった諜報のような使い方をされることが多い。


「あとは視界共有をして……よし、行ってこい」


 視界共有の魔法を使ってから窓を開け、彼を解き放つ。

 ジークライトは確か国境沿いの魔物の殲滅作戦に同行していたため、そちらへと向かうよう命令を出した。


「……あれか」


 それからしばらくして、ジークライトを含む騎士団を発見した。

 早速ウィンドバードを彼らの近くへと移動させ、その戦いを見させてもらうことにする。


 ◆


 同時刻、殲滅作戦中の騎士隊は辺り一帯の魔物を狩り終えていた。 


「隊長、これでこの辺りの魔物は殲滅完了です」


「そうか。ならばこれより、次の場所へと移動する!」


 騎士隊長の合図に従い、騎士隊のメンバーは彼の後ろにつく形で進んでいく。

 そんな中、たった一人その場から動こうとしない者がいた。


「おい、貴様! 何をしている!」


 これには隊長も声を荒らげてしまう。

 戦場において命令違反は自身どころか他の者の命すら脅かす危険行為なのだ。

 しかし彼は冷静に、口を開いた。


「どうやら、移動するのは止めておいた方が良さそうだ」


「何だと?」


 彼の視線の先では何かが動いている。

 それは大きく、重く、そして堅牢であった。


「ドラゴンだ。それも相当に成熟している」


「いや、それはありえん。この辺りにドラゴンがいるなど聞いたことも無い」


「なら、あれは何だって言うんだ?」


「……ッ!!」


 そこでようやく騎士隊長はその姿に、ドラゴンの姿に気付いたのだった。

 成熟したドラゴンは魔術的な認識阻害を使用できるため、相当な実力者でも無ければこうして近づかれるまで気付くことが出来ないのだ。


「ま、不味い……想定外だ! 我々ではドラゴンなど……!」


 そうは言いながらも隊長は剣を抜いており、戦う意思だけは見せていた。

 そもそもこれだけ近づかれてしまえば逃げることもほぼ不可能なのである。

 もはや戦闘して勝利するしか、彼らに生き残る術は無かった。


 もっとも、それが容易いことだと言うことを彼は知らない。


「では俺の出番だな。なに、心配はいらない。其方らは俺が必ず守ってみせる」


 何故ならば、今ここにいるジークライトは龍殺しの英雄なのだから。


「来い、魔剣グラム!」


 彼がそう叫ぶと同時にその手に一本の剣が現れる。

 それは禍々しくも、どこか神々しい剣。龍殺しの剣として名高い魔剣であった。


「ハァァァッ!!」


 魔剣を握ったジークライトはドラゴンへと向かって駆けだす。

 それを脅威と認識したのか、ドラゴンはブレスを吐いて彼を攻撃したのだが……。


「甘い!」


 彼はたった一振りでブレスをかき消してしまった。

 そして次の攻撃が来る前にすぐさまドラゴンの首元へと飛び掛かり、そのまま首を斬り落とした。


「この程度か、つまらないな。あのファヴニールの足元にも及ばない」


「な、何なのだ彼は……」


 この世界において最強と名高いドラゴン。その中でも成熟した個体は人では決して手が出せない存在と言われている程だった。

 それをこうして瞬く間に討ち取った彼を、隊長とその部下の騎士たちは畏怖の目で見ている。


 この男はただの人間では無い。もしかすれば、本当に魔王を倒してしまうのではないか。

 この場の全員が心の底からそう思うのだった。


 ―――そしてそれは正しく、彼一人で魔王軍の前線はどんどんと後退していき、ついには魔王をも討ち取ることに成功したのである。

 何故なら彼は邪龍ファヴニールを討ち取りし、フランク王国の騎士にして最強の英雄なのだから。

 

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