第5話 降臨する!

夜の村落を照らす月明かりは、俺が現れたことで、さらなる光で塗りつぶされた。



うむ!? こんな神々しい光が出るなんて……



──どうやら、新たに【神々しく光り輝く能力】を手にれいたようだ!! 今までで1番意味わからない能力きたー!!!



 なんて、盛り上がっている場合じゃないか。



 ここに降り立ったのは、目の前で青い肌の宇宙人が村長の「皮」を脱ぎ捨て、中から異形の姿をさらしていたからだ。


 地球の高校生だった頃の常識では想像もつかない光景だが、死後にこの星を創造し、神めいた力を得た今の俺にとっては、もはやこのレベルの怪奇はさほど驚きにはならない。


 ──けれど、問題は次だ。



 どうやらこいつらはブルーバルアン星人というらしく、彼らは村人に寄生し、外から来た俺を敵視しているらしい。元々は慎重に動く種族のようだが、どうも俺の存在を「この星を奪い合うライバル宇宙人」と判断し、大胆にも排除しにかかろうとしている。


 さっき、あたり一面が眩い光に包まれただけで「あの発光体は殺せ」などと怒鳴っていたくらいだ。


 まさか、この星で初めて人類が生まれ、文明が芽生えるタイミングで、こんな外来の宇宙人がしゃしゃり出てくるなんて思わなかったよ。


 俺が発する光に目を細めながら、青い肌の異形は鋭い爪をちらつかせてこちらを睨んでくる。数体どころか、少なくとも十数体はいるみたいだ。


 周囲の家屋からぱりぱりと物音がして、数えきれないほどの同胞が出てきているのがわかる。けれど、悪いがここで暴れられちゃ困る。せっかく生まれたばかりの人類が、こんな寄生虫軍団に駆逐されたら、俺の楽しみが台無しだ。


 「……其方達ブルーバルアン星人とやら。いきなり殺意むき出しですが、ずいぶん短絡的なのですね」



 一応、敬語で応対はしているけども。ここ俺の作った星だから俺が作った家みたいなものだ。勝手に入ってきた人に敬語で応対するのもおかしな話ではあるけど。



 しかし、人間の子供が見てるし。神として変な姿は見せられない。



 大人の対応、いや、神の対応を見せてあげよう!!




 村の少年──ぽん太と呼ばれていた子が、俺の光があまりに眩しすぎるのか、片手で顔を覆って震えている。だが、目の前の青い宇宙人たちも同様に苦そうだ。


 月明かりと炎の照り返ししかなかった夜の集落に、突如として太陽のような光源が生まれれば、そりゃあ目が慣れないだろう。


『この星の住民ではないようだな。どの星系から来た?』  

『ここは我々ブルーバルア星の“先遣隊”がいただく星だ。消え失せろ!』


 なるほど、情報収集の段階で先に侵入していたわけか。俺が早送りで観察しているうちに、いつの間にか侵略の準備を進めていたんだな……。


 やれやれ、俺の管理が甘かったのかもしれない。だが、言っておくが創造主としての俺は、あらゆる常識をねじ伏せる力を持っている。そもそも惑星そのものを作ったくらいだから、寄生エイリアン一派がどれだけ集まろうと相手にならない。


「私はこの星の創造主であり、宇宙人ではありません」  

『ははっ、そんな嘘が通用すると思うな! 星を作る? そんな芸当が生命体に可能なはずがあるまい!!』


 強気だな。普通なら神を名乗る存在にビビりそうなものだが、彼らは科学至上主義らしい。



 星の創造なんて超長期的な天文現象としか考えていないわけだ。しかし、考えてみたら当たり前だ。日本で学生していた時に、神とか言われても信じないだろう。


 例え宇宙をわたる科学力があろうとも、惑星を作るは流石に夢まぼろしだろう。なので星を作ったとか言われても虚言と思うだろう。


 だからこそ嘘であると判断して、この地を自分たちのテリトリーにすべく寄生戦略を進める段階で、得体の知れない強力な存在が現れたから、先に潰そうとしているんだろう。


 慎重さを捨てて大きく踏み出してきたのは、「同じく侵略者だ」と疑っているからかもしれない。自分達の侵略領域が取られてしまうと焦ったのかも知れない。


『皆、構えろ! 一瞬で畳みかけるぞ!』

「へえ、やる気満々ですね。なら、こちらも防衛させて頂きます」


 村の広場を囲むように、青い肌の異形がぐるりと配置につく。ふだんは夜の闇を利用して隠密行動をするのだろうが、今回はむしろ強引に俺を仕留めようという態度だ。その瞳には、相手を排除するための殺気と警戒心が同居していた。


 俺はそっと、右手を上げる。重力操作で周囲の空気をわずかに圧縮しながら、強烈なフィールドを発生させていく。すると、見えない力が空間をゆっくりとゆがませ、中心にいる俺のまわりだけが重力の井戸みたいになっていった。





 ──次の瞬間、突撃してきたブルーバルアン星人が、まるで見えない壁に弾かれるかのように吹っ飛ばされた。彼らの筋力は高いが、俺の重力操作の前では蚊ほどの抵抗にもならないらしい。





『なっ、何をした……!』

「私の周囲を隔てるバリアみたいなものです。物理的な干渉だけじゃなく、あらゆる運動エネルギーを反射しています」




 実際はもう少し複雑だ。星一つ丸ごと操るほどの重力制御を、小規模で応用しているわけだ。


 空間をほんのわずか傾斜させるだけで、敵の攻撃を逸らすこともできる。


 今回の相手は人数こそ多いが、一体ずつのパワーはたかが知れている。あまりにもレベルが違いすぎるんだよな……。




『まだだ!! 今度は銃を撃て! ライバル勢力を一挙に排除だ!』


 リーダー格らしき異形が叫ぶと、複数のブルーバルアン星人が奇妙な銃を構え、一斉に青白い光弾を放ってきた。夜の闇を切り裂くビームが、幾筋も俺をめがけて襲いかかる。そこへさらに何機かの小型ドローンが上空から加勢し、狙いを定めて連続射撃を開始した。


「ふん……無駄ですよ」


 俺は軽く右手をかざし、周囲の重力場をゆがめる。ビーム弾は到達前に軌道を大きく曲げられ、地面に逸れて爆散した。ドローンの攻撃も同様だ。光線は俺にかすりもしないまま隣の家屋に直撃し、そこが炎上しかけるので素早く重力操作で火をそらしておく。




 な力を見せつけるには、これくらいで十分だろうと思ったが、敵はまだ諦めないらしい。ドローンの一群が高度を下げ、ヒレのようなブレードを展開して突進してくる。どうやらビームだけでなく、近接攻撃用の兵装まで備えているようだ。





『囲め! 外から一気に削れ!』

『タービュレンス砲、充填完了!』



 タービュレンス砲? どうやら、強力なエネルギー弾を発射する高性能兵器らしい。


 ドローン部隊が時間を稼いでいる間に、リーダーらしき個体が腰から楕円形の装置を取り出し、スイッチを入れた。装置がカシャリと変形を始め、周囲の空気がビリビリと震えだす。


 同時にドローン十数機が俺の背後側にも回り込み、鋭いビームを連射してくる。それら全て重力バリアで防いでるのだが……




「こんなにど派手に暴れられると、村人が死ぬかもしれないんですが……」





 そうぼやきながら、俺は半ば本気を出すことにした。最初は軽くあしらうだけで終わるつもりだったが、相手がこれだけ多彩な兵器を繰り出し、無差別に撃ってくるなら、そのぶん俺も対処が大きくなる。


 ドローンが殺到する瞬間を捉え、空中に散らばっていた木片や瓦礫を一瞬で集めて、巨大なを作り上げる。重力操作でくっつけた即席の盾はビームをいくつか吸収し、ブレード突進も受け止めて砕け散る。だが、砕けた破片をさらに俺は操り、無数の鋭い破片としてドローンへ撃ち返した。


『ぐああ!?』

『バカな……ドローンが……』


 何機かのドローンが破片の雨を浴びて制御不能に陥り、火花を散らして地面に墜落した。そこへタイミングを合わせるように、タービュレンス砲が発射される。激しい衝撃波が空気を切り裂き、俺のまわりを吹き飛ばそうとするが、もちろん問題にならない。


「ほう、迫力があっていいですね。でも、通用しない。」


 俺はタービュレンス砲の衝撃そのものを重力場で受け止め、勢いを反転させる。エネルギー弾が再び空中で向きを変え、持ち主であるブルーバルアン星人の足元をえぐりかけた。敵はあわてて飛び退くが、爆風に巻き込まれて何体かが転倒する。




『くっ……なんだこの化物は……』

『まだ兵器はある! あれを出せ!』




 見ると、別の個体が球状のロボットのようなものを地面に設置した。瞬く間に展開されるパネル群から飛び出したのは小型の《ホバータンク》とでも言うべきもの。キャタピラではなく、宙に浮いて動く戦車のミニ版だ。




『突撃!』

『タンクモード、エネルギー弾発射角度を確保せよ!』





 タンクはビーム砲を上下左右に動かし、俺を狙いつつ火力全開で撃ってくる。しかも一台だけじゃなく、複数台が展開されているらしい。一斉射撃により、爆風や光線が容赦なく俺へ集中する。遠目で見ている村人たちは耐えきれずに耳を塞ぎ、地面に伏せ込んでいるほどの轟音だ。




「さすがに賑やかだな……けど、それでは私は崩せません」





 俺はわざと地面すれすれまで降りて、戦車ビームを近距離で受ける。もちろん重力シールドは常に張り巡らせているので、ビームは俺の体に届かずに屈折し、地面を抉るだけだ。あまりやりすぎると村自体が崩壊してしまうから、俺は軌道制御でビームの方向を空へ逃がしながら敵を翻弄する。




「これで終わりにしましょうか」





 重力操作を最大効率で使い、タンクを地面に埋めさせる。ガリガリと嫌な音を立てながら、自慢の砲台も向きが変わり、撃っては自爆に近い形になりかけている。





『やめろ、機能停止だ! ぎゃあああ!』





 何台かが同士討ち状態になって小規模爆発を起こし、煙を上げる。残りのロボも満足に動けず、事実上の戦闘不能に陥ったようだ。青い異形たちは総崩れになって逃げ出そうとする。



『くっ……こんなチカラ……どうやって勝てと……』




 リーダー格が諦めきれずビーム拳銃を乱射してくるが、当然届かない。俺は左手をかざして空気ごと弾道をねじ曲げ、ビームを上空へそらして安全処理した。村の被害をこれ以上拡大させたくないので、最小限の動きで全弾無効化している。





 だが、さすがに彼らは宇宙を渡る種族。この程度で諦めないようだ。まだまだ、戦う意志を見せている。銃を構え、剣を構える存在も見える。





「素晴らしい闘争心……ですが、それでは私には勝てません」




 俺はわざと強い口調を使ってそう告げる。実際そうなのだ。ここで彼らに一つ思い知らせなきゃ、星が無駄に荒れちまう。苦労して作り上げた人類が絶滅するような事態は見たくない。




 圧倒的な力の差を見せつけるため、俺は地面に手をあててゆっくり押し返すように意識を集中した。すると、周囲の大地がごごご……と震え始め、ほんのわずかだが地面の一部が盛り上がり、微小な地割れが走る。村人がいるから大規模にはやらないが、ミニ地震を起こすくらいはわけない。



『ば、馬鹿な……星そのものを揺らしているのか!?』

『こんな力……我々の母星ブルーバルアでも聞いたことがない……!』




 顔色を変える宇宙人たち。慎重に動くはずの彼らが、ここまで強引に攻撃してきたのは俺を排除できると踏んだからだろうが、誤算もいいところだ。


 自慢のビームも特殊な重力場もすべて無効化され、逆に俺のやりたい放題を見せつけられては、勝ち目がないと悟るしかないはずだ。




「……まだ続けますか? これ以外にも私はもっといろんなことができます。例えば其方達の母船を丸ごと握り潰す、太陽に放り込むとか……やろうと思えばですが」





 当然、本気でそんなことをするつもりはないけれど、相手が理解するには脅し文句くらい必要だろう。じわじわと孤立していくブルーバルアン星人たちの目には、ついに恐怖が浮かんでいた。


『ば、化け物め……!』

「化け物? 確かにそう見えるでしょう。しかし、私の方こそ言いたいのですよ。生まれたばかりの人類に寄生し、好き勝手に私の星を荒らしているのですから」


 村のあちこちには、まだ人間の皮を脱ぎ捨てた殻が転がっている。


 どれだけの人間が犠牲になったか考えると、正直容赦してやる必要ない。


 だが、ここで彼らを無慈悲に全滅させるのは簡単すぎるし、人類の手で勝ち取った勝利じゃないから、結果的に文明の未来を歪めてしまいそうだ。



 ──だからこそ、俺はため息をついて提案する。



「殺しはしません。しかし、これ以上はありません。そして、これからこの星に手を出す事も許しません」


 ブルーバルアン星人たちは明らかに困惑していた。このまま戦っても勝ち目がない。かといって、評議会の指令を破るのも難しいだろう。


 だが、自分の身が危険なら本能的に逃げるしかない──そんな駆け引きが彼らの中で起こっているように見えた。






『……なぜ、我々を殺さない? 排除するのが手っ取り早いだろう』  

「私は人類を守りたいだけで、別に其方達を殺したいわけではありません。しかし、この場でもう二度、この星に手を出さないと誓いなさい。そうすれば逃します」

『……くっ、ここまでの戦力差を見せられたのだ。我々は二度とこの星には手を出さない』





 口約束だからなぁ。しかし、ここまで圧倒的な戦力差を見せておいて、また攻めてくるとは考えいにくけども。







「その言葉、覚えておきなさい。次は星ごと滅亡させます。貴方達程度など、いつでも滅ぼせるのですから」








 思いっきり見下してやることで、向こうに屈辱感を与える。


 とはいえ、これが最適解だ。ここまで差を見せつけられては、奴らも後ろ盾がない先遣隊だけで逆襲する気になれないだろう。


 殺さない1番の理由はメッセンジャーとして、この星に手を出せば滅ぼされると彼らの種族が知る事だ。俺の力を見て、もう一度手を出そうとかは考えないはずだ。



 そもそも星を支配するには、人類の母数がまだ少ないという問題もあったはずで、下準備の段階で俺と衝突したのが運の尽きだ。




 ブルーバルアン星人。どうやら戦意喪失の様子だ。お互いに無言のやりとりをしているのか、何体かがうなずいたのち、一人がこちらを睨みつけるように言った。



『……われら先遣隊は撤退する。だが、覚えていろ、この屈辱は……必ず』

「その屈辱はしまっておきなさい。さもなくば、其方達は本当に滅びることになります』



 少しだけ、重力の力場を上げる。大地が微かに揺れてその揺れを感じ、ブルーバルアン星人は恐れを更に増やした。



『……すぐさま撤退だ!』




 そうして、焦る彼らは俺に一瞥をくれると、闇の奥へと消えていった。星間航行ができる連中だし、母船が軌道上か近隣の宙域に隠れているかもしれない。姿が見えなくなったあとも、しばらくは気配を伺っていたけれど、どうやら本気で引き上げていくようだ。



 宇宙船は村の外れに置いてあり、全員そこに搭乗し去っていくのは確認できた。あとでどこに帰ったのか万里眼で探ろうかな。









 村落には、無残に脱ぎ捨てられた人間の皮が数枚放置され、破壊されたドローンや家の残骸が広がっている。


 これが露見すれば人々は震え上がり、どう対処していいのか分からない様子だった。なにしろ今の騒ぎで、彼らのリーダー格だった村長や有力者が化け物だったとわかったのだから、混乱も極まるだろう。




「……大丈夫ですか、ぽん太」



 ぽん太と呼ばれた少年はその場にぺたりと座り込み、口をぱくぱくさせていた。こんな反応になってしまうのも無理はないだろう。



「し、しんで……ない?」  

「死んでいませんとも」





 俺は先ほどまでの威圧感をしまい込み、少年の頭に手を置いて軽くなでる。すると、ぽん太はどっと涙を流して俺の腕に縋り付いてきた。そりゃそうだ。こんな状況で強がれる子どもなんていないだろう。






「ありがとう……あ、あなたは、いったい……?」

「光で姿が見えないでしょうが……そうですね。この星の創世者です」




 少年はまだ混乱しきっていて、俺の言葉が理解できているかは怪しい。


 それでも大丈夫。この村には他にも生き残った人々がいるし、時間が経てば「あの光る存在は救世主だったのだろうか」と言い伝えられるかもしれない。


 神として確立したいわけでもないが、結果的にそんな伝説になるならそれでもいい。ただ、なるべくなら自分が積極的に人間社会に干渉するのは避けたい。俺の力があまりにも強すぎると、歴史をゆがめてしまいそうだから……。


 けれど今回は、やむを得なかった。ブルーバルアン星人にこの星が蹂躙されたら、せっかく誕生した人類が根絶やしにされるか、寄生されてしまう。


 そんなのは見ていられないし、



 ──何より、俺の遊び場が失われるのも困る。



 その意地の悪い利己的な部分と、この星の創造主としての自覚が両方俺の行動を支えていた。


「……星を作った……? ど、どういうこと……」

「ぽん太、難しい話は今はしなくていいのです。君たちはここで生きて行きなさい。私はまた星の外から見守っています」


 俺はそう告げて、そっと少年の頭をなでると、意識を集中して宙に浮かぶ。


 破壊の爪痕が残る村の光景は痛々しいが、希望が完全に潰えたわけではない。寄生された村長がいなくなった今こそ、本当の意味でこの村の人々は協力し、団結し合うはずだ。


 一応、村人の皮とかは回収しておこう。惨いからね。あとドローンの残骸とかも回収しておいた。





 ブルーバルアン星人を完全に追い払ったと言えるかは分からない。


 将来的に母星から大艦隊を派遣してくる可能性だってある。だが、そのときは遠慮なく俺が対応する。もし本当に宇宙戦艦を引き連れて現れたなら、その時こそ創造主の力を余すことなく見せつけてやるまでだ。


 ……まあ、何にせよ、奴らは当面ビビッて二度と来ないだろう。今の圧倒的な力の差を見せつけられた先遣隊が、果たして評議会にどう報告するか分からないが、


 「ありえない強敵がいた」と言うに違いない。おかげで当面、人類への侵略は止まる。あの怯えた様子からして、近寄ろうとするやつはいないだろうさ。



「あとは人間が自分たちの力で、この星に文明を築き上げるかどうか……だな」




 地上を見下ろせば、ぽん太が小さく手を振っていた。俺は手を振り返すが、光り輝いてるので手を振っているのもわからないだろう。




 見下ろしながら空へと高度を上げる。村の姿が遠ざかり、夜空に溶け込んでいくころ、かすかに少年のすすり泣く声が耳に届いた気がした。


 今の俺には耳を傾けるだけの余裕がある。星の創造主として、人間が苦しむなら、いつでも助けに入る……訳ではないけども。


 あくまで、人類が滅びるかも知れない時に助ける程度だ。



 過保護に過ぎれば文明は育たない。


 だからこそ、常に一歩引いた位置で見守る。


 バランスが難しいけれど、これこそ新しい神の楽しみ方かもしれない。日本の娯楽が誕生して欲しいからね。それを気長に見守るのが今の俺だ。






 ──こうして、ブルーバルアン星人との短い衝突は終わりを告げた。あいつらは生き延びて星を離れ、俺の脅威を母星に伝えるだろう。




 自称・科学至上主義の種族が「星を作った化け物」がいるなんて報告をしたところで、評議会がどう受け取るのかはわからない。だが一つ確かなのは、あまりに異次元すぎる俺の力を目の当たりにした以上、よほどの覚悟がなければ再侵略など不可能ってことだ。





「この星は俺が創ったからね。俺が作った人類があの宇宙人みたいに高度な星間移動とか出来たら面白いなぁ」


 思わず苦笑が漏れる。数多の銀河を股にかけるような文明が、いずれ人類から生まれる日が来るかもしれない。


その時、俺はどういう顔で接するのか。神として崇められるか、


それともただの脅威として見られるか……。



そんな空想を考えながら、俺はゆっくりと星の上空へ舞い戻る。あたりに広がるのは、無限の宇宙と、この星を包む深い闇。


 ブルーバルアン星人の侵略行為は勘違いから始まったのかもしれないが、もう二度とこの星を踏むことはないだろう。


 あれだけ痛烈にやられて、おまけに命を助けられ、しかも「二度と来るな」と言い渡されたのだから、あちらも手を出しづらい。何より、この星には化け物じみた創世主がいる、と骨身に刻んだはずだ。


 ……しかし、いつかどこかで、さらに強力な宇宙勢力が来るかもしれない。その時こそ、俺の最強っぷりをまた披露してやればいい。むしろ歓迎だ。


 退屈しないためにも、たまにはこういうアクシデントは悪くないと思う。


 「さあ、これで一件落着。人類のみんな、あとは自分たちの力で頑張って成長してくれよ。俺はせいぜい、星の守護神みたいな立場でサポートするぐらいにしとくからさ」


 微かな残響が空を震わせ、静寂が戻る。ぽん太や村の人々はこの夜の記憶を、恐怖と奇跡の混在する形でいつまでも語り継ぐだろう。


 かくして、ブルーバルアン星人が一時的にこの星を去ったことで、人類はまた前進するための猶予を得た。そして、俺という最強の守護者が遠くから見守る限り、そう容易く破滅させはしない。


 あとは、いつかこの世界に日本的な娯楽が誕生するのを楽しみに待つだけ……。空間に漂いながら、俺は少しだけ視線を地表から外し、漆黒の宇宙を見上げる。


 何もない暗黒に見えるが、その先には無数の星々が輝いている。もしかしたら、そこにも別の侵略者や別の創造神がいるかもしれない。


 ──だが、今はただ、この一瞬の静けさに浸ろう。星を守った勝利の余韻を噛みしめるように、俺は胸いっぱいに空気のない空間で深呼吸のイメージをする。



 何より、自分の創った星のために戦ったという事実が、胸を少しだけ温かくしてくれた。




 「さて……このまましばらくは、まったり眺めていくか」





 最強の守護者として、または創造主として。俺は、まだ幼い人類の未来を信じ、今日も夜空からその営みを見守り続けるのだった。





「私は見たのです!! 光り輝く神がいらっしゃった!! 皆の者、神に祈りを捧げるのだ!!」




 数年後、ポンタが宗教の教祖みたいになってた……










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