第4話 化け物を作る……作った?
「……あんなの、作った覚えがないが」
自分の星で人間が生まれ、最初の集落を築き始めたと喜んでいた矢先。夜の村落を見下ろしていると、明らかに“人間とは別物”の動きが見えた。しかも、その生き物は、人間の皮を“脱ぎ捨てる”ようにして、まるで中身だけが出てきたかのように見える。
俺は思わず声をつまらせた。地球のホラー映画でも、こんな描写はそうそうないだろう。暗闇の中で、小さな集落のかがり火に照らされて、一体なにが起きているのか理解が追いつかない。
人型だったはずの人間が、皮を破って青い肌の異形をさらけ出している。細長い尻尾が揺れ、目は黄色く爛々と光を放つ。体格は二足歩行で人間と同じくらいだが、骨格や筋肉のつき方がまるで異なる。前肢
――いや、腕には鋭利な爪まで備わっているようだ。
「あれ……本当に俺が作った生命体なんだろうか。それとも、別の宇宙人とか……?」
俺は星全体の進化をずっと見守ってきたつもりだ。海底で生まれた原始生命から、いろんな絶滅や分化のイベントを乗り越えて、やっと知的生物らしき人間が誕生した。時間を早送りして観察はしていたが、少なくとも“青い肌の化け物”を意図して生み出した覚えはない。
原因はいろいろ考えられる。たとえば、俺が認識していないところで生態系がひそかに分化し、偶然に誕生した可能性。あるいは、宇宙のどこかから飛来した侵略者かもしれない……。ただ、どちらにせよ事態は穏やかじゃない。
「早送りの欠点は、どうしても見逃しが出来ちゃうことだよな。そして、後戻りはできない」
早送りは便利だが、一瞬で何万年と加速するためどうしても見逃してしまう部分があるということだ。そして、一度行うと戻すことができない。つまり、あの生物については今この瞬間から、正体について考察をする必要性があるということになる。
観察するか、介入するか
俺は近づきたい気持ちにかられたが、まずは情報が欲しい。人間の村から少し離れた位置に意識をフォーカスし、どんな動きをしているのかをじっと見つめる。
【万里眼】で観察!!
さて、その青い異形は、倒れた“抜け殻”のような人間の身体、正確には皮や筋繊維の一部を見下ろして、何かをつぶやいているように見える。声量は小さいが、俺にははっきりと聞き取れた。
『……この身体、やはり保たなかったか。もっと上質なのが必要だ……』
まるで服か何かを試すかのような調子だ。言語はこの星の原人たちのものではないし、地球の言葉とも違う。だが、なぜか俺にはその意味が理解できる。おそらく、超人的な感覚を得ているからこそ、未知の言語でも脳内に意訳されて届いてくるのだろう。
「やっぱり、俺の体便利すぎるな……。重力操作、体感加速、万里眼、翻訳機能、そもそも宇宙で生きられる肉体強度……あの青い怪物より俺の方がよっぽと奇怪な生物なんじゃ……おっと、いけない。観察を続けよう」
そういえば、あの化け物。身体を保つとか言ってたな。
「身体を保つ……? まさか、こいつらは人間の肉体を乗っ取って生きているのか?」
理解すればするほど、僅かだがぞっとする。もしそんな連中が村全体、あるいは世界中に広がったらどうなる? ようやく生まれたばかりの人類が、別の生命体に寄生されて滅んでしまうかもしれない。
俺は思わず介入したくなったが、同時に生態系の一部なのかもしれないという疑問も湧く。
つまり、地球にも寄生虫や共生生物は山ほどいる。ダニとか、ノミとか、他にも人間の成長とともにバクテリアが腸内に共存するように、この星にも多様な共生・寄生の関係があって当然だ。しかし、問題は、その存在があまりにも人間を害するように見えることだ。
不測の進化か、あるいは外来種か
そこで俺は、少し時間を巻き戻して見れないかと考えた。しかし、やはり出来ないようだ。
早送りはできても、巻き戻しはできない――のが、どうやら今のところの俺の能力だ。残念ながら、過去の映像は再生できないらしい。
「仕方ない。ここは短期間で体感加速してみて、あいつらが何をしようとしているか探ろうか」
幸い、体感加速があるからな、一瞬で連中の動向を観察することはできる。たとえば数日から数週間分の時の流れを、俺の体感で数分~数十分ほどに圧縮すればいい。それで村のようすを俯瞰し、青い異形がどれだけ広がるのか確かめよう。
ただし、体感加速しすぎて、勢いあまり文明全体が一気に近代化してしまうのも困るから、微調整が必要だ。
俺は慎重に意識を集中させ、村落周辺を目視して体感加速を開始した。加速度合いは以前よりもだいぶ弱めだ。そうすれば、人間が生活する時間がほんの数年~十数年ほど進む間に、彼らがどんな行動をとるか概ね分かるだろう。
村落の異変は徐々に大きくなる。
数倍程度の体感加速を数十分続けた結果、村には目に見えて不穏な気配が漂い始めた。どうやら、例の青い異形はひとりではなかったようだ。ほかにも何体かが密かに人間に擬態しているらしい。ある夜、村人が寝静まったころ、複数の殻割れが起こるのを目撃した。
中から出てきた彼らは、互いに奇妙な音声でやりとりしながら、村の家畜や蓄えた食料を片っ端から漁っては食べている。まだ人数の少ない集落だからか、抵抗らしい抵抗は見られない。村人たちは、朝になると家畜が減っていることに首をかしげる程度で、原因までは分かっていないようだ。
だが、明らかに村人の中にも体調不良が増え、皮膚がただれたり、発熱に苦しんだりするケースが急増している。どうやら、寄生されかけた者や、接触のあった者が体内に何かを仕込まれているらしい。俺がサンプルを引き寄せて調べてみようかと思ったが、さすがに生きたまま人間を抜き取るのは気がひけるし、文明への過度な干渉になりそうだ。
「これは放っておくと、近いうちに村が壊滅するな……」
このまま大規模に早送りすれば、異形が一気に増殖し、人間たちを丸ごと乗っ取る光景が見られるかもしれない。それはあまりにも残酷だ。せっかく生まれた文明が、一種の寄生生物によって潰されるのを見過ごしていいのか。俺は心が揺れた。
「まぁ、残酷だが仕方ないかもだけどね。ただ、俺の最終的な目的は日本の娯楽とかに、人間がたどり着くことなんだよねぇ」
かなり私的な欲求だけど、前世の日本のように娯楽が沢山ある世界を人間には作って欲しいのだ。
数百体とか死ぬのはさほどだが、絶滅は困る。
「自然の摂理」に任せるなら、これもまた星の歴史の一幕かもしれない。
でも、俺がここまで人類の進化を導いてきたことを考えると、あまりにもあっけない最期に思える。
それに、この青い化け物はどう見ても自然発生した感じがしない。むしろ、どこか外部からやってきたエイリアンのようでもある。
「もし他の星から来たのだとしたら、俺の星が侵略されるってことか……。だったら守るのもアリだよな。創造主って立場上、当然っちゃ当然か」
決心がつかず、俺はしばらく早送りを中断し、普通の時間の流れで様子を見守ることにした。すると、夜のうちにまた一体、青い異形が人間の皮を剥がして乗り換えようとしたのか、ずるずると大きな肉塊を引きずり出しているのを目撃してしまう。
「……ふむ」
見ているだけで胸糞が悪い光景。あの生物たちには悪気がないのかもしれないが、それでもあまりにも一方的な暴力だ。もしこれが俺の自然のふるいなのだとしたら、あまりにも人間がかわいそうすぎる。
俺はゆっくりと宙を降りるようにして、その場へ意識を集中させた。干渉がどれほど影響を及ぼすか分からないが、少なくとも今この瞬間に行われている殺戮を止めることはできるはずだ。超人的な重力操作や、俺の不死身の身体なら、彼らを追い払うくらいは造作もないだろう。
ただ、問題は「人間の前に姿を現すかどうか」だ。もし姿を現してしまえば、間違いなく神として崇められるだろうし、文明の発展に大きな影響を与える。あれだけ気をつけていたのに、これでは台無しかもしれない。
「でも日本でもイザナミとか神話はあったか……問題ないかね?」
だが、今はそれどころではない。たとえ神と呼ばれようが、この惨劇をやめさせるほうが先だ。俺は意を決し、村の広場へ降り立った。
「ぎゃああああああ!? ば、化け物!?」
『っち、見つかったか』
その途中、ついに青い化け物を村人が発見した。どうやら、ひどく驚いているようだ。しかし、当然だろう。あんなのが居たら普通驚く。
『処分するか』
『皮としての精度はいかほどか』
『まだ子供だ』
「と、父ちゃん!!」
見た目は7歳くらいだろうか。まだまだ子供じゃないか。日本とは違い、子供でもすぐに働いているのだろう。狩りの手伝いとかは既にしているだろうけど、これは怖いだろう。
『処分だ』
◾️◾️
僕の村に青い化け物がいた。尋常ならざる不気味さ、見ているだけで嗚咽がするほどに恐怖であった。
思えば、この村は最近おかしかった。病気で死ぬ者、体調を崩し歩けなくなる者、生まれたばかりなのに死んでしまう子供、急に姿を消す子供。
父ちゃんが言っていた。年々異変は増えているらしくて、このままだ滅びてしまうかもしれないと。
だけど、反対にまるで何事もないかのように生活をしている連中だっていたのだ。俺はそいつらが不気味に見えていた。
何かが、おかしいような……
「父ちゃん、村の人って、ちょっと変な人いないか?」
「……馬鹿なことを言うな」
「でも、母ちゃんも」
「母のことを言うな。きっと良くなる」
母ちゃんもずっと健康だったのにここ数年で、寝たきりの状態が続いている。この村では寝たきりの状態の人間が多い。
そのせいで食料が取れなくて余計に飢餓や病気が進んでいっているのだ。だけど、一部だけは何事もないように生活をしている。
おかしくないか。だって、同じ状態のはずが……
「考えてもしょうがない。母ちゃんのために、食料を取らないと」
父ちゃんは狩りの手伝いをさせてくれるが、僕がまだ子供だから大きな餌などは取らせてくれない。
僕だって沢山取れるはずだ。そして、母ちゃんの体調を良くしてあげたい。
夜ならどうだ、生き物は寝ているから、狩やすいに違いない。そう思い、石槍を持ち、外に出かけた。
「ぎゃああああああ!? ば、化け物!?」
『っち、見つかったか』
そこで、目撃をしてしまった。青い怪物を。村の住人が地面に倒れ込んでいる。一体、こ、これは……
複数、い、一体何体いるんだ? これは……
「ぽん太。どうした」
「そ、村長?」
「やれやれ、子供に見られるとはなッ」
村長の皮が剥がれ、中から青い化け物が飛び出した。思わず、嗚咽をしそうになる。人間の皮をかぶって、人のふりをする化け物がいるなんて!!
「と、父ちゃん!!」
『処分だ』
殺される、そう思った……次の瞬間だった
「──そこまでです」
天が光り輝いた。夜であると言うのに、まるで朝のようだ。すべてが光り輝き思わず、目を開けていられないほどだ。
「な、何者だ!!?」
「──私はこの世界を見守る者です」
「なんだとッ!?」
村長の中に入っていた青い化け物はあまりの眩しさに瞳を腕で隠しているようだった。僕も強すぎる閃光に瞳を閉じざるを得ない。
い、一体何があそこに居ると言うんだ。あれが現れた瞬間、青い化け物すべてが驚愕し、たじろいでいる。
「其方たちの行動はすべて見させてもらった。何故、この村の存続を脅かす」
「……わ、我々は」
「其方達はこの世界で生まれた存在ではないな?」
「……なるほどな!! お前、我々を知っていると言うことは同じ宇宙人だな!!」
青い化け物と【光】が会話をしている。あの光が言うには青い化け物はこの世界の住人ではない……と言うことになるのか。
それにしても、宇宙人……? とはなんだろうか
「それは違います。私はこの星の創世者。其方たちとは違います」
「「「「「っ!?!!」」」」」
なっ!!!! こ、この世界を作った!? そ、そんな存在がいるだなんて……流石に嘘と思いもしたが、こんな眩しい光は見たことがない。
まさか、本当に!!?
「我々ブルーバルアン星人は、宇宙をわたるほどの科学力をもつが、その我々ですら、星の創生など到底不可能!何十億年もかかるものだ!一個人でできるはずもない……!ウソを付くのも大概にするがいい!」
「何を言おうと、これぞ真実なのです。それで、其方達はどうしますか。このまま、滅ぼされるか。何故ここに来たのか話しますか」
「……ふん! 創世者を語るとは嘘が下手なようだな! 全員、あの発光体を処分する! 恐らくこの星の人間ではない、宇宙人であろう。我々を驚かし、この星の領土を取るつもりだ」
何が起こっているのか、僕にはわからなかった。あの青い化け物も、光る物体も何が何だか分からない。
しかし、この後、僕は驚愕することになる。
──あの光、それが異常な存在であることを
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