2. 異世界へ

「う〜ん...いちごケーキ...。はっ!!!」

 

 寝言を言いながら目を覚ました俺は、まるで西洋の建物みたいな場所にいた。全く、見覚えのない場所だ...。


「え?ここどこ?しかも何か地面がもこもこしてる...」

 未だ定まらない意識を無理やり稼働させ、状況を把握しようと努める。


「確か、俺はインターハイの予選中で...うぐ、頭が痛い...」


 しかし、無理に脳を使ったせいか、鈍痛が頭を襲う。

 ひとまず、考えるのはよそう。何が起きてるのかを把握しなくては。


 俺が寝そべっていた、もこもこした地面の正体は、かなり大きなベッドだった。それも、ものすごく豪華な。


 周りを見回すと、石でできた壁が高さ10メートル程までそびえ立っていて、やけに広いこの部屋を囲んでいる。

  灰色のその色合いのせいで、ベッドの絢爛さとは裏腹に、やけに殺風景な一室に感じられた。


 加えて、何か趣味の悪いドラゴンの像がベッドの脇に2体...。


 もう十分だ。

 うん、まるで分からない。見当もつかん。


「二度寝するか...」


 もうどうでも良くなって、まるで月曜の朝みたいに、もふもふに顔を埋めようとした。


 多分、これは夢だ。


 俺は今頃、大会の運営する医務室にいて、診察を受けているんだろう。


 ああ〜。

 ってことは、俺の負けか。最後のインターハイが、こんな形で幕を閉じるなんて...。ちょっと涙出てきた。



 ん?待てよ、何が忘れてる気がする...。



 こんなことになったのは、どこかの誰かのせいだったような気がするんだが...。


 何でか、その名前が出てこない。うーん、うーん誰だっけ。


 頭をひねったり、目をぱちくりさせて考えていると、無音だったこの殺風景な部屋に、何やら悲鳴のようなものが聞こえてきた。耳を澄ましてみる。



「ちょ、ちょっと離しなさいよ!私を誰だと思ってるの!?」



「天才女子高生の、『朝日乃 雫』様よ!」



 それが聞こえた瞬間、掛け布団を剥ぎ、ジャージ姿の俺は声の方向へ駆け出していた。


 そして、鍛えたフィジカルで、部屋の端にある木製の扉へタックル。何やら錠前が施されていたようだが、それを物ともせず、廊下へ出る。


 後ろで、破壊した扉ががらがらと崩れる音が聞こえた。

 部屋と同じ構造の廊下へ出ると、見覚えのある人物がいた。それは...。



「朝日乃雫ゥ〜!!!」



 俺は叫んだ。そりゃあもう、ありったけ。

 全部思い出した。



「このヤロウさっきはふざけた真似しやがって!俺の最後のインターハイが台無しじゃねえかァ...ん?」



 そこにいた雫の姿に、息を飲んだ。

 正確には、その隣にいた無機質な「それ」に。


 雫は、がしゃりと動く鎧2体によって、両脇を抱えられていた。

 そして、次の瞬間には、無理やり引きずられようとしている。


「あ!?アンタ、何でここに!?...まあいいわ助けなさい!」


 俺はしばし呆然とした。状況を整理する時間が必要だった。


 奇妙だ。

 何が奇妙かって?もちろん、雫の濃いメイクのことではない!


 その鎧が、恐ろしく奇妙であった。



 何と、その2つの鎧の中には、誰も人が入っていなかったのだ。



「お、おい雫、そいつらの顔見てみろ...」


 は!?と言いながら、雫が顔を上に向ける。


「...きゃあ〜!!顔、かおが無いわ!」


 本来なら、金属質の兜によって覆われているはずの顔が、無い。


 俺はゾッとした。


 しかし、一応、念のため、朝日乃雫を助けておくことにする。決して、アイツのためではない。


 文句を言ってやりたい!さっきの!


 そういうわけで、俺は鎧か、雫へか分からないまま宣戦布告することにした。

 えーっと、「雫のためじゃねーからな」って言いたいんだが、かっこいいセリフが思いつかないな...。

 もうなんでもいいや!


「べ、別に、雫を助けたいわけじゃないんだからね!」

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何で!?何でか弱い私が『剣士』で、筋肉オバケのアンタが『魔法少女』なのよ!? コーヒーの端 @pizzasuki

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