何で!?何でか弱い私が『剣士』で、筋肉オバケのアンタが『魔法少女』なのよ!?

コーヒーの端

1. 雫ちゃん

1. 幼馴染の雫ちゃん

 幼馴染の朝日乃雫は、嘆いていた。自身のスキルに...そして、夢見ていた『魔法少女』になれなかった悲しさに。


「ああもう!何で、このかわいい私のスキルが『剣士』なのよ〜!!!」



 しかし、嘆いていたのは、こいつだけではなかった。



「ああ〜!何で、俺のスキルが『魔法少女』なんだよ〜!!!」


 こんなことになったわけを、思い出してみよう...。









 ーーーーーーーーーーーーーー








「メーン!メーン!」



 相手の声が、剣道道場に響く。今は、インターハイの予選2回戦の真っ只中である。

 広い会場を囲む観客席は、1000人を超える関係者によって、熱気が渦巻いている。

 高校3年間をかけた、この大会。絶対に負けるわけにはいかなかった。


 そんな俺は、予選2回戦で不運にも、全国でも指折りの強者と当たっていた。


 そんな強敵の猛攻を受け止めながら、いつ反撃に出るのがベストか思考を巡らせる。こいつには、ある「癖」がある...。何度か、試合をしたことがあるので分かる。



 面を打ち込む時に、わずかに隙があるのだ。


 慎重で、しかし力強いその攻撃は、試合の最中でも見惚れてしまいそうになる。



 その時、相手が右足を踏み込んだ。



 面が来る。





 今だ。





 俺も瞬時に、体を動かす。胴を狙う。





 しかし、俺の極限まで練り上げられた集中は、ある一声によって散り散りにされた、





「コラ〜!ちゃんと勝たないと承知しないわよ〜!!




 このバカマネージャーときたら!



 幼馴染で、1歳年下の剣道部のマネージャー、「朝日乃 雫」。

 そいつが、両手をぶんぶん振り回し、観客席でわめいていた。

 俺は、ふざけた叫び声のせいで、一瞬、ほんのわずかに思考を飛ばした。

 練習通りの動きをする予定だったのだが、コンマ1秒、何かがずれた結果、驚くべきことが起きた。



 




 気持ちの良い音が鳴った。面が決まったのだ。


 



 倒れ込んだのは、俺、「陣内仁」の方だった。

 強烈に打たれた俺の脳は、激しくシェイクされることとなり、やにわに顔から地面へダイブ。




「ちょ、ちょっとォ!アンタ何してんのよ〜!!」




 いやお前のせいだぞ!



 それにまだ試合終わってない!ちょっと倒れ込んだだけだ。まだ、戦える...。ありゃ?




 ぶしゃ〜!


 俺は、鼻から地面に突っ込み、大量の鼻血を噴き出していた。うつ伏せになっている俺の顔にはめた防具からは、嘘みたいな量の赤色。そして、それが地面をまがまがしい色に染め上げていた。


 と、とにかく起き上がらなくては。


 俺は、ひとまず顔を天井に向けるため、仰向けになった。


 ああ、照明がいやに眩しい。視界が定まらない。

 これ、かなりまずいぞ。



 視界の端、わずかに見えた観客席。そこを無理やりに乗り越えて、こちらへ走ってくる雫。こいつマジでアホか!?

 試合が無効になっちまうだろ!?


 そのまま、どたどたと乱入してくる雫。


「早く立ち上がりなさ〜い!勝負はこれからでしょう...ってありゃ?」



 倒れ込んだ俺のすぐ側までやってきた雫は、地面に満たされた俺の鼻血によって、つるりと滑り、宙を舞った。



「わ、わわわ!」



「お、おい...まさか!」

 俺は、嫌な予感がした。


 ごちーん!



 雫は、180度の前方回転を加えながら、倒れている俺の顔に、自分の頭をしたたかにぶつけた。



「ぐえ!」

「ぶべ!」



「もう、雫何やってんのよ!」


 やれやれといった様子で、もう一人のマネージャーの水山が向かう。会場内はかなりざわついていた。


「ほんと、すみません!すぐにどかしますので、このバカ!ほら、行くよアホ!」



「え?ねえ、ちょっと雫?」


 水山は、仁の上に覆い被さったまま動かない、雫の体をぐいぐいと揺さぶった。しかし、何の反応もない。

「う、嘘でしょ?ね、ねえ」




「死んでるーーーーーー!」




 あと、雫のせいで、俺も死んだ。

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