第2話 見えた小さな光

ある日、私はふとSNSの世界に足を踏み入れた。ずっと避けてきた場所だった。親の影響で、そこには危険しかないと思い込んでいたし、無駄なものだと信じていた。けれど、内心は知っていた。実際に見て触れてみることなく、それを否定してきた自分がいたことを。


最初はおそるおそるだった。匿名のアカウントを作り、誰とも繋がらずに様子を見ていた。それでも、そこに流れる言葉や画像に触れるだけで、自分の世界が少しずつ広がる感覚があった。見知らぬ誰かの言葉に、どこか自分を重ねて涙が出そうになることもあった。


「こんな場所もあるんだ」と驚いた。SNSには、私と同じように心の中に傷を抱えながら生きる人たちがたくさんいた。彼らは自分の苦しみや想いを発信し、繋がり合っていた。そこには、孤独ではないという実感があった。


そして私も、誰にも言えなかった自分の気持ちを書き始めた。子どもの頃から、言いたいことは親に抑え込まれ、意見を言うことは「わがまま」と決めつけられてきた私にとって、文字にして発信する行為はとても怖かった。でも、それ以上に、心の奥から湧き出る何かを抑えきれなかった。


最初の投稿をしたときは、緊張で手が震えた。「誰かに読まれるだろうか」「批判されるだろうか」。けれど、投稿した後の気持ちは驚くほど軽かった。まるで胸に詰まっていた石の一つが取り除かれたような感覚だった。


さらに、少し経ってから他の人からの共感や温かいコメントが届いたとき、私は初めて「自分の言葉に価値がある」と感じた。それは、家庭の中では決して得られなかった感覚だった。親の期待に応えるためではなく、ただ自分の思いを自由に表現し、それを誰かが受け止めてくれる――その新しい体験に救われた。


そんな中で、私はふと気づいた。これをもっと活用すれば、自分の力で生活を立て直すきっかけにできるかもしれない、と。たとえば、SNSを通じてエッセイを書いて発信し、それを多くの人に届けることで、今の状況を変えられるかもしれない。SNSは、ただの娯楽や危険な場所ではなく、可能性に満ちた場所だったのだ。


とはいえ、家族にはまだ言えない。両親にこの活動が知られたら、「そんなものに時間を使うな」と激しく叱られるだろう。それでも私は、少しずつ前に進んでいる感覚があった。執筆という新しい道、SNSという広がる世界。その二つが私にとっての小さな光だった。


そして、私は思った。この小さな光を手にして、次はそれを同じように苦しむ誰かに届けたい、と。


次回へ続く。

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