第4話 大坂燃ゆ ~それぞれの戦い~
大坂冬の陣、そして夏の陣。城内は戦火に包まれ、悲鳴と怒号が飛び交った。竹林院は負傷者の手当てに奔走し、阿梅は兵士たちを鼓舞した。隆清院は密かに情報を伝え、幸村の作戦を支援した。彼女たちはそれぞれに、この戦乱の中で役割を果たしていた。
・真田丸の奮戦、そして家康本陣への突撃
真田丸は、まさに修羅場と化していた。押し寄せる徳川の大軍に対し、幸村は赤備えの兵を率い、獅子奮迅の戦いぶりを見せていた。真田丸の柵は幾度となく打ち破られそうになったが、その度に幸村は自ら槍を振るい、敵兵を薙ぎ倒していった。その勇猛果敢な姿は、敵兵ですら畏怖させるほどであった。
「者共、続け!敵を一人でも多く討ち取るのだ!」
幸村の怒号が戦場に響き渡る。兵たちはその声に鼓舞され、死力を尽くして戦った。真田丸は、まさに鉄壁の要塞と化し、徳川軍の進撃を食い止めていた。
しかし、戦況は徐々に徳川方に傾きつつあった。兵の数は圧倒的に徳川方が多く、真田勢は次第に疲弊していく。幸村は決死の覚悟を決め、最後の賭けに出る。
「者共、我に続け!敵の本陣を突き崩すのだ!」
幸村はわずかな手勢を率い、徳川家康の本陣へと突撃を敢行した。敵陣を突き抜け、家康本陣に迫る幸村の姿は、まさに鬼神のようであった。家康の目前まで迫るも、多勢に無勢、ついに力尽き、壮絶な討ち死を遂げた。
・夕闇迫る大坂城内、竹林院への報告
日は完全に落ち、空は深い藍色に染まっていた。大坂城内は、日中の激戦の爪痕を残しながらも、静寂を取り戻しつつあった。燃え盛る炎は鎮火され、時折、燻る煙が夜空に立ち昇るのみである。負傷者の呻き声、兵士たちの低い話し声が遠くから聞こえてくる。
その夜、竹林院は城内の一室にいた。質素な部屋には、わずかな灯りが灯っているだけで、静まり返っていた。彼女は静かに座り、針仕事をしているようだったが、その手はほとんど動いていなかった。心ここにあらずといった様子で、遠くを見つめているようにも見える。
そこへ、一人の影が忍び寄った。死神のような容貌の痩せた男、霧隠才蔵である。忍び装束に身を包んだ彼は、まるで影のように静かに現れた。物音を立てないように静かに近づき、部屋の前で立ち止まった。覚悟を決めたように、彼は静かに声をかけた。
「竹林院様…」
彼の声は低く、しかししっかりと竹林院の中に届くように発せられた。
竹林院は顔を上げ、静かに才蔵を見下ろす。その表情は、何かを悟っているかのようであった。
「幸村様は…」
竹林院が静かに問いかける。才蔵は俯き、絞り出すような声で答えた。
「…討ち死にされました。」
その言葉を聞いた瞬間、竹林院の顔から血の気が引いた。しかし、彼女は悲しみを押し殺し、静かに目を閉じた。才蔵は深々と頭を垂れたまま、何も言えなかった。
しばらくの沈黙の後、竹林院は静かに口を開いた。
「そうか…幸村様は…」
彼女の声は震えていたが、その言葉には強い意志が込められていた。
「…幸村様の遺志は、私が受け継ぎます。」
才蔵は顔を上げ、竹林院を見つめた。その目に、微かな光が宿っているのを見た。彼は再び深々と頭を垂れ、静かにその場を後にした。竹林院は静かに目を閉じ、幸村の遺志を胸に、これからの道を歩むことを決意した。
**真田幸村の正室と側室について**
・正室:竹林院(ちくりんいん)
出自: 大谷吉継の娘という、名門の出です。吉継は豊臣秀吉の側近として重用された大名であり、竹林院の出自は幸村にとっても大きな後ろ盾となりました。
役割: 幸村の正室として、嫡男の真田大助(幸昌)を産みました。これは、真田家の後継者を確保するという、非常に重要な役割を果たしたと言えます。
大坂の陣後: 幸村の死後も生き延び、京都で亡くなったとされています。彼女の存在は、幸村の血筋を後世に伝える上で大きな意味を持ちました。
・側室たち
幸村には竹林院以外にも複数の側室がいました。
隆清院(りゅうせいいん): 豊臣秀次の娘です。秀次は秀吉の甥で、一時後継者とされましたが、後に失脚・自害しました。隆清院は、このような複雑な背景を持つ女性でしたが、幸村との間に三男の三好幸信と娘のなほ(御田姫)をもうけました。
その他: 堀田興重の娘または妹、高梨内記の娘など、出自が異なる複数の側室がいたことが分かっています。これらの女性たちは、幸村との間にそれぞれ子供をもうけ、真田家の血脈を広げる役割を果たしました。
・正室と側室の関係
正室と側室の関係は、一概には言えません。敵対することもあれば、協力し合うこともあったと考えられます。幸村の場合、竹林院が正室として確固たる地位を築いていたため、側室たちとの間で大きな争いはなかったのではないかと推測されます。
重要なのは、当時の社会において、側室の存在は決して珍しいことではなく、家名存続のためには必要なものであったということです。幸村が複数の側室を持ったのも、そうした時代の要請に応えた結果と言えるでしょう。
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