第五話 望まない来訪者

「リザ! いるんだろう!」


 扉の向こうから聞こえた声に背筋が冷たくなるような感覚が走った。


「ここにいると噂で聞いたんだ! リザ! 頼む! 開けてくれ!」


 扉をたたきながら懇願こんがんするように叫んでいる声の主。ライアンで間違いない。

 二度と顔なんて見たくないと思っていた人物の突然の来訪に、驚きを隠せずにいる。


「リザの知り合い?」

「……ライアン様です。私の、元婚約者」


 それを聞いたエドワードの顔が一瞬だけ険しくなった。


「ここで騒がれるのも迷惑です。彼を入れてあげましょう」


 エドワードは優しく微笑んだが、その中にはどこか鋭い強さを感じる。

 

「でも、エドワード様にご迷惑が……」

「そんなことはない。リザを守るのは、私の役目ですから」


 その言葉を聞いた瞬間、胸が思わず高鳴った。

『大事な薬師の後継者として守る』という意味にすぎないだろうが、恋心を刺激するには十分すぎるほどの言葉だ。


 そうしている間も扉は強く叩かれている。

 エドワードと目を合わせ一度うなずき、ドアノブに手をかけた。


「リザ……! 頼む! 薬を調合してくれ!」


 久々に顔を合わせた開口一番が謝罪でも反省でもないなんて。

 その人間性、ほとほと呆れてしまう。


「リザの薬が切れてから発作が止まらないんだ……! 俺を助けてくれ!」

「婚約は解消したはずです。それも、ライアン様からの申し出で。あなたに薬を調合する義務は、もうありません」


 はっきりと冷たい口調で拒むも、ライアンは引こうとはしない。

 さらに床に膝をついて、すがるような瞳で見つめてくる。


「悪かった……! だから、どうか薬を……!」


 はい、わかりました、と素直に言えるはずもない。

 湧き上がるのは、嫌悪感。そして自業自得だという気持ちだけ。


 それでもほんの少しだけ、薬師として苦しんでいる人を助けたいという思いも残っていた。


 怪訝けげんな顔でライアンを見据えていると、エドワードがこの場を取り仕切るように口を開いた。

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