第六話 二度と見たくありません

「ライアンさん、あなたのしたことは決して許されないことです。でも、リザはあなたを救いたいようにも見える。しかしそれはあなたのためではなく、薬師としての使命感からです」


 エドワードの声音は淡々としながらも毅然きぜんとしていた。ライアンを見る眼差しには、一片の情けも見当たらない。

 そして、エドワードはこちらに視線を直して一度にこりと微笑む。

 翡翠色に輝く瞳は、やはりこちらの心情を見透かしているかのようだ。

 大きくゆっくりと息を吐いて、ライアンに答える。


「……わかりました」

「リザ……!」


 ライアンは喜びに満ちた目でこちらを見つめている。

 そのきらきらしている瞳に虫唾が走りながらも、言葉を続ける。

 

「でも、薬は出しません。その代わりに調合書をお渡しします。それでもう二度と、私の前に現れないでください。これが最大限の譲歩です」

「十分だ! やはり俺にはリザしかいない! 本当に悪かった! だからもう一度、俺とやり直さないか!?」

「……は?」


 怒りを通り越して殺意が湧いた。

「ふざけないで」と怒鳴りつける寸前、エドワードが一歩前に進み出て、冷酷な声で口を開いた。


「ライアンさん。これ以上戯言たわごとをお続けになるのであれば……ここを無事に出られる保証はいたしかねますよ」


 にこっとしているも目は笑っていない。

 殺気すら感じる冷たさと、マクロード家の公爵という肩書きがライアンを震え上がらせたようだ。

 ライアンは「調合書が出来るまで外で待っている」とおびえるようにすぐさま部屋を出ていった。

 すぐに調合書を作成し、エドワードに向けて腰を折る。


「ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ごさいません」

 

 自分だけではなく、エドワードにも被害が及んでしまった。その相手がかつて自分の婚約者だったことが、ただただ恥ずかしい。


「いえ、いい機会でした。彼はもう二度と、この城館の敷居をまたぐことはないでしょう」


 彼ははっきりと言い切った。


「リザも精神的に疲れたでしょうから、ゆっくり休んでいてください。調合書は私の方から彼に渡しておきます」


 ありがたい申し出だった。

 もう二度と顔すら見たくないと、恐れ多くもエドワードに調合書を手渡す。


「……本当に、何から何まで申し訳ないです」

「言ったじゃないですか。リザを守るのが私の役目です」


 王子様のような金髪をなびかせて、悠然ゆうぜんと部屋を後にした。

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