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「……違わないです」
「……なにがですか?」
「あきらさんとキスして、違和感あったり変な感じしたり、違うなってなったらすぐやめるって言ってたじゃないですか。でも、何回キスしても、そんなことない」
「言いましたね、そんなこと……。でも、風花さんって、やっぱりたまに面白――」
私はもう一度、私の彼女の口を――長めに――ふさいでから、ぷはっと顔を離した。
「ほら、違わない。なんにも変じゃないです。好き。絶対に大好き」
そうして、あきらさんに、私のベッドに引き込まれた。
それから私のほうから覆いかぶさって唇や首に口づけして、でもすぐに逆転されてしまう。そのさなかに、互いの服もすぐに体からほどけていった。
あきらさんのどこへどんなふうに触れればいいのか分からないでいると、腕でも背中でもいいから撫でるように触れて欲しいと言われたので、指でするするとなぞったり、手のひらで撫でたりした。
キスを繰り返しながらそうしていると、あきらさんの体がどんどん熱く汗ばんできて、私の手をなめらかに動かすのが難しくなってきたころには、私のほうもあきらさんの指でそれどころではなくなっていた。
今夜はなんとかあきらさんに満足してもらおうという固い決意は、彼女が本気になってからのほんの十数秒で脆くも砕け散らされてしまった。
私の指とあきらさんのそれでは、生み出す刺激が比べ物にならない。
互いに快感を与え合ってもその差はどんどん開いていって、かなわないまでもなんとか食い下がろうと歯を食いしばってもみた。
でもこれがあきらさんの仕事ではない本音の求め方なのだと思うと、一方的に悦ばされるだけではいけないと戒めたはずの我慢が嬉しさできかなくなって、素直な言葉と意味をなさない声が両方とも私の喉から溢れてしまう。
私より十度も体温が高いんじゃないかと思える、熱の塊のような体に圧倒され、まだ私の知らなかったことを新たにされて、出すつもりのなかった声が間断なくまろび出た。
あきらさんの背中に回していた両手も、いつの間にかシーツを握りしめていた。
全身びしょ濡れになって、あきらさんがやっぱりショーツを脱がないままだったことに気がついたのは、すべて終わってからだった。
「痛くない?」
「あ、はい……。あの、すみません、私」
からからの喉で言う。
「え? なにがですか?」
「あきらさんみたいに上手くなくて……」
「そんなこと気にしないで、……って言っても気になるか。あたしも逆の立場ならそうかもですね。でも、だんだん分かっていくと思いますよ。異性とするのとは、違うものだっていうことが」
「……違うんですか?」
「まったくの別物ではないです。でもあたしは違うと思う。もっと言えば、同性とか異性とかじゃなく、あたしたちでの仕方があるはずなんです。だから気に病まないで。あたしは風花さんとこうしていて、なにも損してないし、失うこともないですから」
あきらさんが体を起こして、「冷蔵庫開けていいです?」と冷たいお茶を汲んできてくれた。
「うう、すみません。お客様なのに。それに、……明日土曜日だから、忙しいんですよね? 長居させてしまって」
なるべく感情を抑えてそう言ってみると、あきらさんは、ふいとそっぽを向いた。
「……あきらさん?」
「まあ、そうとも決まったものじゃない……というか」
歯切れが悪い。その珍しい様子に、ようやくぴんときた。
「え? 明日、お休みなんですか?」
「まあ、その」
「ほ、本当ですか? ……というかもしかして、私のために?」
「だって、風花さん昼職ですもん。週末しかゆっくり会えないじゃないですか。どこか出かけたりもしたいし」
「え、じゃあ、今日はもしかしてお泊り……的なことが」
「……家主の許可があれば、まあ、やぶさかではないかと」
私は飛び起きて、慌てて掛け布団を胸に寄せた。
「い、言ってくださいよ!? そしたらいろいろ準備しましたよ!?」
「手術のこと言うので頭がいっぱいだったので、そんな楽しい感じでは……結婚や出産の話もあるし、振られる可能性もあるかなって思ったら明日仕事どころじゃないですし」
「ないですから安心してくださいっ! じゃあちょっと支度して、コンビニにお泊りセット買いに行きましょう!」
シャワーの準備をして、先にあきらさんに入ってもらった。
いつもと変わらないなにげない様子ではあったけど、その顔は、とても嬉しそうだった……と、思う。
私たちは女同士で、無邪気に、まだお互い軽度だけれど素の感情を少しずつ出しながら、コンビニまでの道すがらにおしゃべりした。
いつの間にか月が出ていて、澄んで冷えていく夜風の中、コンビニのかごいっぱいに買い物をして、笑いながら並んで歩いた。
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