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分かっている。あきらさんは、私の興味本位の好奇心に応えてあげようという好意で、本当に裏表なく言ってくれている。なんとも思わないというのも、本当なのだろう。
でもそれを、言葉通りに受け止めるだけでいいんだろうか。
仮に同性同士特有の気安さというものがあるとしても、その人の奥まった繊細な部分にまで踏み込もうとするなら、あきらさんの気持ちは絶対に考えないといけない。
たとえいいと言われても、本人がそう言ったんだからと甘えたくない。
時にそれが、じれったさとか、物足りなさとか、一線を引かれている寂しさをもたらしたとしても、無遠慮に踏み荒らすよりはずっといい。
「……あきらさん。私、お客としてプレイルームにいる時は、あきらさんの体を見る、権利があるわけですよね」
ホームぺージの規約にはそう書かれている。
「そうですよ。料金分の、正当な権利がありますよ」
顔を上げてあきらさんを見た。
「私は、あきらさんが見られたくないものを、見ない権利のほうがいいです。私が見たいから暴かせろなんて、そんな権利はいらない……」
それから二人とも、まるで息をしていないみたいに、雨の音だけが響く部屋の中で見つめ合っていた。
「……話を戻しますが」とあきらさんが言う。
「あッ、はい?」
「あたしは、女の子とつき合う機会があっても、全部なしにしてきました」
そういえば、そんな話をしていた。
申し訳ないことに、すっかり頭から消えてしまっていたけれど。
「そう、そうでしたね。それが今のことと、どう……」
「風花さんは、恋愛対象は男の人?」
ぎくりとして、目を見開いてしまう。
それはまさに、ここ数週間私を悩ませていた問題だから。
問題、……どうして――問題なのだろう。
「そう、ですね……そうでしたね」
今までは、だけれど。
私が口にできる答は、今はそれが精一杯だ。
「風花さんは、あたしを女だと思ってくれている」
はい、とうなずく。
「そして、あたしも男の人が好きだって思ってくれてる」
これも、今さっきそう聞いたばかりだ。もう一度うなずく。
「そんな人に、これを言うのは凄く勇気がいるんですが。あたし――」
雨の音が止まった。
「――あたし、風花さんを好きになってもいいですか? 今さら、女の子を、……仕事は女風のセラピストだし、体は男なんですけど、あたしでも……」
雨が。
戻ってこない。
時間が止まったように思えた。
あきらさんが止めてしまった。
なら。再び動き出させるのは、私だ。
「……ぜん、はん……」
「え?」
「前半だけで、充分です……その後は、全部聞こえません……」
声が震える。
でも、はっきりと口に出すのだ。
「私、あきらさんが好きです」
その言葉の最後を奪い取るようにキスされた。
「本当……!?」
私はなすすべなく、勢いのままに押し倒されてしまう。
真上には、あきらさんのブラウンの髪と肩越しに白い天井が見える。
同じような体勢になったことはあるけど、こんなに感情的なあきらさんに覆いかぶさられるのは初めてだった。
「ほ、本当ですっ。私だって、前からあきらさんのこと、というか最初にあった時からきれいな人だなって思って、それで、あの何度か言ったかもですけど人柄も」
そこで、また口をふさがれた。
唇を重ねたまま、「そういうのもっと言って」と言われるのがくすぐったい。
「も、もっとっれ言われれも、これじゃしゃへれ……」
「風花さん、かわいい。好き」
あきらさんのキスは、熱っぽかったけど、深くなってはいかなかった。
「風花さん、なんか違和感あるなとか、変だなって思ったら言ってくださいね。こいつとのキスは違うなって思ったらいつでも。どんなに燃え上がってても、すぐやめますから」
「だ、……大丈夫です、たぶんっ」
「本当? 遠慮しないでくださいね。じゃ、それはそれとして、この先はどう?」
「さ、先? ど、どうと言いますとっ……?」
「もっと先までしたい? 今?」
いくつもの回答が、頭の中を一瞬で乱れ飛ぶ。
でも。
「……正直に?」
「正直に」
息を荒くして、目を潤ませたあきらさんが私を覗き込んでくる。
「……今日限り、っていうわけじゃないわけなわけですから……」
「わけなわけですから?」
つい、目を逸らした。
「まだ早い、というか、とっておきたい気持ちは……あります。お仕事じゃないやつを」
「ふふ。それは、あたしもそうかも。風花さん、お預け好きなんだ」
恥ずかしい指摘に、息を吞んでしまう。
「い、言い方ッ」
「あはは、ごめんごめん」
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