第25話 次のステージへ
ヘンリーさんから受けた依頼を無事に終えて、一週間くらい経った。
現在はヘンリーさんに案内されて、報酬としていただいた土地の下見へとやってきている。どうやら一等地のようで、静かで生活しやすそうな場所。しかも、かなりの広さがある。「閑静な住宅街」なんて言葉が思い浮かんだが、敷地面積や隣との距離感から、すぐに「違うな」という気持ちになった。なんというか日本人として生きてきた俺にとっては異質。一時期話題になったアスリートの豪邸がある付近の方がイメージとしては近い。
ヘンリーさんの説明によると、馬で半日ぐらい移動した場所には海もあるとかで、今後はこの周辺を開発して物流の中継地とするようだ。今はまだそれほど建物が多いわけではないが、近いうちに急激に発展する予定みたい。
到着してその景色を見た時に気付いた。俺はこの場所を知っている。なぜならゲーム内で家を購入する際に選べる地域の一つだったから。ただ俺が見た記憶の中の光景は、すでにプレイヤーの家がたくさん建っていたので今とは少々印象が違う。
本来、大金を用いて土地を購入したあとに建物を注文するか自作する必要があるのだが、今回はソフィア様からの報酬ということで無料で職人さんに建ててもらえる。個人的には広い家は落ち着かないので、コンパクトな間取りでお願いした。一般的な家庭サイズのキッチンとリビング、それからやや広めの風呂場とトイレ。あとは主寝室。一人暮らしには十分な感じ。むしろ広すぎるくらい。
必要ないと言ったのだけれど二階部分のスペースが勿体ないと三部屋追加されることになった。物置にでもしようと思う。
生活のための建物自体は大きくないけれど、代わりに作業用の建物を作ってくれることになった。完成したらそこで木工などの生産を行いたいと思っている。ついでに、輸送の際にあったほうが便利だという理由で厩舎や馬車を納める場所も建てるらしい。至れり尽くせりである。馬も馬車も所持してないけどな!
それだけ建ててもかなりのスペースが余るので、果樹でも植えようか。畑もいいかもしれないが、狩りなんかで遠出することを考えると管理出来ない。なので、放置しててもなんとかなりそうな果樹。最悪育たなくても諦めればいい。
下見が終わり、ヘンリーさんとはここでお別れ。
建物の完成は、およそ一か月後だと言われた。早いような、そうでもないような?
ということで、すぐ住むことはできないのでしばらくクラウンのレベリングをがんばろうと思っている。お金に関しては、依頼で結構な額を受け取っているのでしばらく大道芸をする必要もない。数日この付近で過ごした後、のんびりクラウンギルドのある荒くれ者の街を目指しながら道中も狩りをするつもり。
久しぶりの狩りは、楽しい。
別に野蛮な人間になったというわけではない。レベリングって自らが成長していくのもあるけれど、いかに効率的に狩りが出来るようになるかと考えながら詰めていく部分が個人的に好きなんだよね。しかもこの付近は、この世界に閉じ込められてから初見のモンスターも多く、いつも以上に集中することになり終わった時の充実感も一入。
近くの森の中にある湖には、俺の記憶では存在しなかったカエルのモンスターがいてビックリもした。イノシシくらいの大きさで、舌を使ったり水鉄砲を飛ばしてきたりとやっかいな攻撃をしてきたが、強くはない。むしろ弱い部類。なのに経験値とドロップ品がおいしいというお得な相手。
町に戻りこのモンスターの話をしてみると「ケロリンU」という名前なんだとか。以前はいなかったが、最近になって現れる様になったようだ。突然変異とかだろうか。それにしては、数が多いように見えたが……。
このケロリンのレアドロップやオーブの効果について興味があるので、多少予定を変更してここでの滞在期間を延ばすことにした。運気上昇の効果で、どちらかは手に入れられると思う。
十日ほどケロリンを中心に狩り続けた結果、クラウンのレベルもカンスト間近となった。未だにオーブはドロップしていないが、レアドロップの「水の杖」は手に入れることが出来ている。
この水の杖、拾った直後はよくわからない状態だった。見た目は、変てこな棒。
知らないアイテムを不用意に使ってまた呪いが増えても困るので、持って帰って鑑定してもらった結果「魔力を流せば、先端が思い通りの形状に変化する杖」と言われた。とりあえず呪われることはないようで安心。ただしコスプレには便利そうだが、使い道が思い浮かばない。
今回お願いしたのは、ノンプレイヤーキャラクターによる簡易鑑定なので、特殊効果までは知ることが出来ていない。もしかすると何か良い特殊効果があるかもしれないのでいろいろと試してみたいとは思う。
このままこの町でオーブを手に入れるまでがんばるという選択もありだが、職業レベルのカンストが間近なことを考えると、そろそろ移動を開始する方が良い気がする。それに家が出来れば、必然的にこの付近で過ごす時間も増えるということなので、オーブはその時に狙ってもいいだろう。
次に転職する職業を考えながら移動しているうちに、目的地の荒くれ者の街へとたどり着いてしまった。
別に住所変更のごとく転職前にギルドで報告する義務はないのだけれど、田舎の日本人感覚が抜けきっていないのでこうして挨拶に戻ってきたわけだ。
クラウンギルドの受付に行き宿泊所を二日間借りる手続きをする。一日は買い物など旅の準備で、もう一日は広場で芸をする。
翌日は買い出しにあて、先に旅の準備を済ませてしまう。
そして二日目。「久しぶりだね」なんて会話をしつつ、野菜屋の婆さんから広場のスペースを借りる。
何か特別な芸でもすべきかと考えたが、以前と変わらない芸ってのも悪くないと思い淡々とこなした。お笑いなんかでもお約束の芸ってのは安心する。
しばらく期間があいた影響からか、本日の稼ぎは過去最高となった。
おひねりの入った箱を回収してから、場所代として稼ぎの一割を渡すついでに旅立つことを告げる。「熊の兄さんがいなくなったら大変だ。野菜の売り上げだけじゃ生活できないよ」とかリアクションに困ることを言われてしまった。まあ冗談だって知ってるけど。
いなくなることを喜ばれるよりは、惜しまれる方が幸せだろう。それが金目当てだとしても!
思い返せば、クラウンへの転職を決めた際に思い描いていたものとはやや違う日々だった。
荒くれ者の街ってことで身構えていたのに、案外落ち着いた日々だったように思う。もっと街の深い部分にまで入っていくとまた印象が変わるのだろうか?
トラブルに巻き込まれても対処できるくらい成長したら、またここに来てみるのもおもしろいかもしれない。
その時には、また広場で芸をしよう。でないと野菜屋の婆さんが生活できなくなってしまうからね。
旅立ちの日。街の門から少し離れ、振り返り一礼。
「それでは、アーリースロウの皆様またあう日まで」
ブルーレッドドラゴンときめきファンタジーオンライン ティマとラグナの野望 鈴寺杏 @mujikaku
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