第2話 公務員、王女から説明を受ける
「おおっ!」
ステータスが表示された瞬間、王女は驚いたような声を上げた。
他の高校生たちも自分のステータスを覗き込んで、何やら話し込んでいるようだ。
「これは……素晴らしいです!さすが勇者様方!」
ざっと周りを見渡すと、どうやら俺のステータスは高校生たちに比べて大幅に下回っているらしい。
他の4人は、職の特性なのか、ステータスの各値に上下はあるものの、ざっくり平均で50近い値だ。初期値で5倍近く離れていることになる。
まあ、巻き込まれた異世界一般人と書かれてるし、おそらくこれが一般人ステータスなのだろう……。
また、全員「異世界から召喚された勇者」と明記された上に、職の項目には剣聖見習い、聖女見習いなど、明るい可能性が提示されている。
俺は地方公務員だから他の可能性はないってこと?
「これは凄いですね、さすがは勇者様方!ではさっそく召喚されたばかりでお疲れでしょうし、詳しくは明日にお話しますので、まずはお部屋にご案内します」
王女は一方的にそう告げると、使用人を呼び部屋を出ようとする。
後ろに武装した兵士達が無言のプレッシャーをかけており、反論は許されないような状況だ。
そんな中、メガネをかけた聡明そうな男子高校生が手をあげた。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
ステータスに目をやると、『桐生樹(キリュウ イツキ)賢者見習い』と書かれていた。もう、職の欄を見るだけで賢そうだ。
ついでに、ちらっと、横の巻き込まれの原因となった彼女のステータスも目に入る。
『白石菜々(シライシ ナナ)聖女見習い』
うむ、悪女見習いとかでなくて良かった。いや、まあ、彼女も巻き込まれた側なのだけれど。
「あの、私たちは急にこのような場につき、冷静さを欠いております。現状把握のために、いくつか質問をお許しください」
イツキの発言に王女は寛大な顔をする。
「ええ、構いませんよ。少しでも現状を知っていただいたほうが安心できますものね」
イツキは俺達を見回して口を開いた。
「まず、僕らはこの後どうすればいいのでしょうか?」
「皆様にはこれからご休息をいただき、明日から王国を案内いたします。その後戦闘訓練を受けてから冒険に出発していただきますわ」
王女がさらりと答えたことで他の高校生も少し落ち着いたようだ。
まあ、いきなり戦えと言われても困るし、訓練があるのならまだマシか……とでも考えている。
「私たちの召喚の目的は、魔族退治とおっしゃられましたが、それは私たちでないとできないものなのでしょうか?」
「それは……」
イツキの問いに対し、王女は口ごもる。
「召喚の儀は古来より伝わるものでして、魔族との戦いが始まると異世界から勇者様を呼び出すのに成功するとのことでした。実際に、召喚の儀は成功しました」
王女はいったん王の顔を見て、王が頷いたのを確認し、話を続ける。
「魔族との戦いは、異世界の勇者様が必ずしも必要というわけではありません。ただし、魔族の王である魔王だけは別で、異世界の勇者様の戦闘での力が必ず必要と伝承されております」
「なるほど、私たちには戦闘を求めていると……」
イツキは少し顔をしかめた。どうやら納得いかないようだ。
それはそうだ。普通の高校生は戦闘訓練など受けてない。もちろん地方公務員も戦闘訓練は受けてない、同じ公務員でも自衛隊とは違う。
しかし、明らかに話が胡散臭いな。
だいたい、国民が困っていると言っているが、煌びやかな装飾の王女様とでぶった王様、何かに苦労している様子はない。
「もちろん、先ほどもお話しした通り、戦闘訓練を受けてもらいますので、そこで自信がつくまで城で生活してください。大事な国賓扱いでのおもてなしをする準備ができております。このステータスであれば、すぐにでもわが国の騎士団の強さを上回ります」
「元の世界には帰れないのかよ!」
もう一人の男子高校生(多分、サッカー部)は、王女の発言を遮るように大声を出した。
それに対し、王が威厳のあるような声で告げる。
「申し訳ない、大事なことなので初めに告げれば良かったことであった。伝承では、魔王を倒すと元の世界に戻る選択も可能となっておる。それ以上のことは我々も分からず、申し訳ない」
一通り説明をし、王女は王様に目をやる。そろそろ切り上げたいのが目に見えてわかる。
「では、質問は以上でしょうか?」
周りを見ると、発言していた男子高校生達は納得はしてないようだが、明日以降に先送りしたようだ。
女子高生の二人は怯えたような不安そうな表情でいて、うまく発言できないようだ。
うん、ここしかないよな。
「あの?1点だけ、よいでしょうか?」
王女はこちらの顔を見て、かすかに苦い顔をする。俺のステータスを見てのことだろう。
「私のステータスはご覧の通り、戦うステータスではありません。戦闘訓練を受けても到底お役に立てるとも思えません」
続けさまに、希望を言おう。こんな怪しい国は早く出たい。
特に元の世界に帰る方法とか、伝承といえばなんでも許されると思っているのか?
これは、あかんやつだ。
だからとりあえず俺はステータスを指差すように下手に出てこう言った。
「私は見ての通り、勇者ではありません。戦闘が目的となると、こちらにいては皆さまにご迷惑をかけるだけです。ですから、外に出て職に就きたいと思います。大変心苦しお願いですが、2、3か月の間暮らしていけるお金をいただければ自分で何とかしたいと思います」
これは、厄介払いができたと思ったのか、王女の顔が明るくなる。
「そうですね、王と相談しますので、少々お待ちください」
王と王女が話している間、ここに巻き込まれた原因となった彼女が震えたような声を出す。
「あの、本当に申し訳ありませんでした」
驚くように周りの高校生もこちらに注目する。
「あの、私を助けようとしてくださり巻き込まれただけで、何も悪くないのに城を出ることをおっしゃって……」
そう言って俺に頭を下げる。
「いや、別に気にしてないよ。それに、俺はもう大人だしね。白石さんで良いかな?」
ステータスを見てそう答えると、彼女は少し安心したような顔をする。
「白石です。鈴木和人さんですね。なんと謝って良いのか」
男子高校生の一人が憐れむように声を出す。
「おじさん……巻き込まれただけなんですね。俺は神崎翔(カンザキ ショウ)と言います。何か手助けできることあれば言ってください、って、自分の身もどうなるかわからないで言えることじゃないですが」
そういって、俺が勝手に思っていたサッカー部男子は少し申し訳なさそうに笑う。いいやつだ。
「ありがとう。そうだな、俺は鈴木和人だ。今話していた通り、巻き込まれでこの世界にきたからか、ステータスがすごく低い」
自虐気味に俺がそう答えると、白石さんが申し訳なさそうな顔をする。
「それもあって、ちょっと胡散臭さも感じるこの城を出たいと思っているのだが……」
「スズキ様」
王女が戻ってきたようだ。
「大変申し訳ありませんが、スズキ様のステータスではたしかに魔族との戦闘をするには厳しいことになるでしょう」
「そうでしょうね……」
「ただ、固有スキルにありますね、異世界言語理解以外の。《ガチャ》?というものが気になります。これは、何のスキルなのでしょうか?」
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