第十一話 エルフ村をおそう異世界まもの


 村の中央にある立派な木造の建物に案内された俺。


 ウルフには建物の外で待ってもらうとするか。


「クゥーン」


 「ここが村の中心に位置する集会所ですの。長老がお待ちしておりますわ」


 リリアーナの言葉に促され、中に入る。


 「おお、リリアーナ。戻ったのか」


 そう言って迎えてくれたのは、白髪と深いしわが印象的なエルフの長老だった。


 「紹介いたします。この方、異世界から来られた方ですの」


 リリアーナが、長老の近くで、耳打ちをしている。


 どうやら、ここまでの俺とリリアーナのいきさつを説明してくれているみたいだ。


 すべてを聞き終えると、長老は穏やかに微笑みながら頷いた。


 「ようこそ、異世界の旅人よ。私の名はエルドラン。この村の長老を務めております」


 長老が穏やかな笑みを浮かべながら自己紹介をしてくれる。


 「俺は……まあ、異世界から来た桐原颯太(きりはらそうた)ってもんです。借金返済中のしがない一般人ですが」


 俺が軽い調子で挨拶すると、俺の脇に戻ってきていたリリアーナが肘で小突いてきた。


 長老が静かに頷きながら、「桐原颯太殿」と丁寧に呼んでくれる。


 その瞬間、リリアーナが口を開いた。


 「そうそう、わたくしのことも改めてご紹介しますわね。わたくし、リリアーナ=エルフェディア。この村の姫でございますの」


 「……は?」


 俺は思わず声が漏れた。


 姫? リリアーナが? あの水浴びしてた? しかも俺に懇願してた姫が?


 知らなかった……俺、姫様の裸見ちゃったよ……。


 あとで絞首刑とかにされないことを祈る。


 でも確かにこの喋り方はたしかに姫様っぽい。


 心の中で混乱しながらも、俺は表面上平静を装うことにした。しかし、その姿が不真面目に映ったのだろう。


 リリアーナが小さな声で注意してくる。


 「もう少し真面目にお願いしますわ」


 「悪い悪い」


 長老は、ゆっくりと話を始めた。


 「最近、この森に棲む凶暴な魔物『ギガマンティス』が頻繁に襲撃してきております。本来は森の奥深くで静かに暮らしていた生き物でしたが、近頃その行動が過激化し、村を脅かす存在となっています」


 「ギガマンティス……? カマキリっていうか、名前だけでもめちゃくちゃ強そうなんだが」


 「その力は、魔熊3体分に匹敵します」


 「魔熊3体分!? 魔熊って見たことないけど、なんとなく強さわかりますよ!!」


 東京ドーム見たことなくても3個分とか言われたらデカそうってわかるのと同じアレよね。

 たぶん、俺が噛み殺されて終わるパターンすよね……!


 長老の説明を聞きながら、内心で青ざめる俺。


「その凶暴な魔物を、貴方様が女神から授かったユニークスキルで退治してくれるとのこと……この長老、心より感謝申し上げる」


「わたくしからも、つとにお礼を言わせていただきますわ」


 「ええと……」


 長老もエルフの美少女姫も、縋るような目でこっちみんな。


 はっきり言って、全く勝算もないし、作戦もない。


 あるのは一般人の不安のみ。


 だが……ここで引き下がるわけにはいかない。


 全ては1億クルナのため。 


 どのみち、一度はトラックに轢かれて死んだ身である。


 女神が止めてくれなければ、ヘッジホッグウルフにも喰われて殺されてたかもしれない。 


 今はかけがえのない相棒だけどな。


 まあだから……やるだけやってみるさ。


「まかせてください! 俺がどうにかしてみます!!」


「おお……まことか……!」


「さすがソータ様ですわ!!」


「だから、エルフの秘宝、お願いします!」


 自信満々に言ったものの、どうすればいいのかまったくわからない。


※  ※  ※


 俺は、無策のまま、なんとなくエルフの村を少し散策する。


ウルフは、少し離れた日当たりのいい原っぱで日向ぼっこをしていたので、別れての行動だ。


 じっとしていると不安でどうにかなりそうだったから散歩はちょうどいい。


 「遊ぼー!」


 小さなエルフの子供たちが駆け寄ってきた。


 おおお、エルフの子供ってこんなに可愛いのか。


 銀髪碧眼で、本当にお人形さんみたいだ。


 耳も綺麗に長く伸びてるし。


 「可愛いね、きみ、何歳?」


 「300歳!」


 「そうだったぁ、エルフは長寿だった!」


 驚く俺に、別の子供が笑いながら教えてくれる。


 「姫様は1500歳だよ!」


 「女神よりババアの可能性あるなこれ……」


 そんなことを思いながらも、子供たちの笑顔を見ていると、子供の一人がいった。


「あのお化けカマキリ、また来るのかなぁ」


「こわいよぉ……」


「もうこれからはあんまりお外で遊べないね……」


「冬が来たら、どうにかなるのかな」


「それまでみんな無事だといいけど……」


 胸が少し痛む。


 「こわいよお……」


 わかってる。


 こんな俺だって、目の前のかわいい子たちが悲しむ姿は見たくない。


 俺は改めて決意を固め、子供達と軽く遊んであげたあと、策を練るために村を歩く。


「あ……!!」


 すると、俺の視界に、あのDIY工房が現れた。


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