第十話 エルフの村のDIY工房
「遠慮しておきます、とは……?」
「あ、やめときますってことっすね……」
リリアーナの瞳が揺れる。さっきまで高貴な雰囲気を漂わせていた彼女が、今はしょんぼりと肩を落としている。
「ど、どうしてもですの?」
「ええ、まあ、はい」
だってやらなきゃいけないことあるんだもん。
借金まみれの俺がよけいなことしてたら、『踏み倒した』って思われるかもしれないだろ。
あのクソ女神、どこで見てるかわからんし。
「そ、そうですの……わかりましたわ。村のことは、自分たちでなんとか……がんばりますわ……」
目尻に涙をためながらめそめそとつぶやくリリアーナ。その姿がやたらと刺さる。
いやいやいや! こういうムーブに騙されちゃダメだ! 俺はこの世界の美女の甘い罠には乗らん!
「あー、はい、がんばってください」
俺は心を鬼にして答えた。
そう、俺には背負うべき借金があるのだ。30億クルナという途方もない額を稼がなければならない現状で、他人の困りごとに構っている余裕なんてない。
ため息交じりに独り言が零れる。
「30億クルナ……どうやったら返せるんだよ……」
俺はぼやきながら頭を抱えた。
その時だった。
「ピクッ」
リリアーナの長い耳が微かに動いた。
「今、30億クルナとおっしゃいましたわね?」
彼女の顔がさっと持ち直し、キラキラと輝く瞳で俺を見つめてくる。
「え、いや、まあ……そうだけど」
「もしも村を助けていただけたら、エルフの秘宝を差し上げますわ」
「エルフの秘宝……?」
「はい。それは時価総額で1億クルナはくだらないものですの」
「……1億クルナ!?」
「もちろん、30億クルナには及びませんが、大層価値があることにはかわりはーー」
「やります!!!」
俺はがばっと前を向いた。
「は、はやいですわ!」
リリアーナが驚いたように目を見開くが、俺に迷いはない。
「さあ、村にいきましょう! GOGO!!」
「ま、まだ服をきちんと着てないですわ!!」
といいながらも、リリアーナが微笑む。
なんか、してやったり感があるのは気のせいか?
つい返事をしてしまったが、俺はもうひとつの懸念について美少女エルフに問う。
「ちなみに、差し支えなければ、衣食住を少しだけ融通してくれますか? 自分でできるところはやるんで!!」
善意を受けすぎるのはよくないしな。
なんかズルしてる気がするから。
俺のお願いにリリアーナは「もちろんですわ」と頷いた。
その時、隣でウルフが「クゥーン」と小さく鳴きながらこちらを見ている。
「お、オマエも来るか?」
ウルフは尻尾を振りながら「くぅーん、くぅーん!」と答える。
「あの、リリアーナさん。こいつも連れて行っていいですか?」
「ええ、もちろんですわ。さあ、いきましょう。エルフの村へ!」
リリアーナが楽しそうに笑いながら先に立ち、俺たちはエルフの村へ向かうことになった。
ウルフは嬉しそうに吠えながら、俺の隣を駆け抜けていった。
※ ※ ※
村……っつったって、ここ、森の中じゃん。
「もちろんそうですわ。この森は広大で、わたくしたちの生活する限りでは、森の途切れは見たことありませんの」
リリアーナの案内で、森の奥深くへと進むと、視界がぱっと開けた。
「おお、これが村……って、森の中にそのまま集落ができてる感じだな」
家々は木々と調和するように配置されていて、地面には苔むした小道が広がっている。
木の幹を使った階段や、枝葉を編んで作った橋も見られる。
「私たちは森と共存する形で生活していますの。この集落は何世代にもわたって受け継がれてきたものですわ」
「なるほどな。自然を壊さずに作ってるって感じだ」
歩きながらリリアーナが村の状況を説明する。
エルフの住人たちがちらちらとこちらを見ているのに気づく。小声で話しているのが聞こえる。
「外の民か?」「耳がとがっておらん。我らと同じエルフ族ではあるまい」「なんというかパッとしない見た目よね……」
余計なお世話である。なんだパッとしないって。わかっちゃいるけどさ。
てかむしろ借金まみれのただの人間だっつーの。
「最近、魔物の襲撃が増えてきておりまして……みな、気が立っておりますの……。特に夜になると、子供たちが怖がって外に出られなくなっておりますの」
「そりゃ大変だな……」
俺が話を聞きながら歩いていると、ふと視界に奇妙な建物が映った。
「お、この小屋、なんだ?」
「それは工房ですわ。村の職人たちが道具や武器を作るための場所ですの」
「工房か……ちょっと見てもいい?」
「ええ、もちろんですわ」
中に入ると、木の香りが漂い、整然と並べられた工具が目に入った。作業台の上には、削りかけの木材や、小型の武器の部品が置かれている。
「へえ、これはすごい。DIY好きにはたまらないな」
俺の趣味であるDIYスキルもここで役に立ちそうだ。
さて、1億クルナのために!!
エルフの村を魔物から守るとするかぁ~~~!!
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