第九話 異世界どうぶつのエルフ
「……マジかよ!?」
俺は思わず声を飲み込んだ。小川で水浴びをしている美少女の姿が目に入ったのだ。
彼女は長い銀髪を濡らしながら、そっと水面をすくって自分の肩にかけていた。その肌は透き通るように白く、滑らかな曲線を描くプロポーションはまるで名画のように美しかった。
俺は息を呑んだ。いままでどんなグラビア写真でもこんなに美しいとは感じたことがなかった。陽の光を受けて水滴が輝き、その姿はまるで現実離れした幻想のようだった。
「え、ええっと、これ……どうすれば……」
俺は動けずその場に立ち尽くしていると、美少女がこちらに気づいた。
「きゃっ!」
彼女はあわてて水の中にしゃがみ込み、俺を鋭い目つきで睨みつけた。
「そ、そこにいる方! あなた、一体何者ですの!?」
「ご、ごめん! 見るつもりじゃなくて、いや、ほんとに!」
俺は手を振りながら必死に言い訳をするが、彼女の目つきは険しいままだった。
「この場所がどれだけ危険かわかっていて近づいたのですの?」
「いや、危険って……」
この森が? たしかに、凶暴な魔物は一部はいるようだが、警戒していたらそこまで危険な場所でもない、穏やかな森のような……。
彼女はため息をつきながら、近くに置いてあった布を手に取り、優雅な仕草で体を覆い隠した。
その動きすらも美しすぎて、思わずゴクリと生唾を飲んでしまった。
……しかたないじゃないか!! 女っけが一つもない社畜だった俺の目の前に、趣味の美少女フィギュアキャラがそのまま具現化したような姿で目の前で動いてるんだから!!
「……まあたしかに、森の探索に出て、少し休憩をしたくなったところに人の生活臭のある場所を見つけて、ここが落ち着きましたので……汗をかいた体を洗い流そうと、勝手に沐浴を始めたのはわたくしですの」
「いや、めちゃくちゃ丁寧な説明だな!」
俺は思わずツッコミを入れた。
もしかして、この美少女、天然か?
「……まあ、仕方ありませんわね。少しお話を伺います。あなた、一体何者ですの?」
何者……。
うーん、どう説明したものか。
普通、こういうときって、異世界から来た、みたいなことって伏せたりするよな?
そのほうがいろいろ面倒なことにならなさそうだし。
ただ、できれば俺はこの少女からこの世界のことをいろいろ知りたい。
今まで森の中では魔物以外とは出会っておらず、まったくの情報不足だからだ。
あ、あの女神もいたわ。
でも論外。情報を知りたければ100万クルナです、とか絶対いってくるだろ、あいつ。
話を戻して、いろいろ悩んだが、俺はフェアに情報をもらいたいため、今の素性をつまびらかに話すことにした。
「異世界から来た、野宿野郎です」
「異世界……? 野宿……?」
コイツ何言ってんだ、というような顔をする美少女。
くっ……。めちゃくちゃ警戒されてる……!!
「えっと、信じてもらえないかもしれないけど、最後まで聞いてほしい。実はな……」
俺はできる限り下手に出て、異世界に転移してきた経緯や、あの女神に30億円(美少女には30億クルナと伝えた)の借金を背負わされたこと、そしてサバイバル生活を余儀なくされている現状を簡単に説明した。
「それは……本当にお気の毒ですわね……」
美少女は手で口元を押さえながら、真剣な表情で聞き入っている。
「まあ、借金返済もあるし、土地勘もまったくないし、なにも持ってないし、とりあえずこの森の中でコツコツ生活費を稼いでるってわけだ」
俺の言葉に、美少女は少し考え込むようにうつむいた。
「生活費を稼ぐ……? どうやってですの?」
「ああ、【ショップ】があるからな、それで」
「ショップ……?」
「女神が、ユニークスキルだとかなんとかで付与してくれた」
オレは、【ショップ】機能についてもざっくりと伝える。
彼女の表情が一変し、驚きと期待の入り混じった顔になる。
「その能力、本当ですの!? 物を作ったり、地球という異世界のアイテムを取り出せると……?」
「ま、まあ、そういうことになるかな」
俺が釣り糸やライターを取り出してみせると、彼女の目が輝いた。
「お願いですわ! わたくしたちの村を助けてください!」
「は? 村?」
俺が首をかしげると、彼女は説明を始めた。
「わたくしはエルフのリリアーナ。この先の森にあるエルフの村が、最近魔物の襲撃に悩まされておりますの。私たちだけではとても対処できませんの……」
「いやいや、俺そんなすごい力持ってないんだけど?」
てか、エルフ!? この世界にはエルフがいるのか。
「この森に探索に来ていたのも、魔物が苦手とする毒草を採取しようとやってきたのですわ。まだ見つかっていませんが!!」
それで疲れて、勝手に水浴びしちゃったの?
なかなかに豪快なおエルフ様である。
しゅん、と項垂れるリリアーナ。はらり、と銀髪があわせて下に垂れる。その髪の隙間からは、細く美しく伸びた長い耳が見え隠れする。
あ、ほんまにエルフさんや。
この世界はエルフ文明なのか?
「あなたの話によると、女神が与えてくれたユニークスキルということですよね!? その【ショップ】能力があれば、村を救う道具を作れる可能性がありますわ!」
リリアーナは俺の手を掴み、潤んだ瞳で訴えかける。
「どうか、わたくしたちを助けていただけませんか……?」
布一枚で、ややその布も水にぬれて透き通っている、あられもない姿で、俺に懇願してくる、絶世の美少女。
一瞬、リリアーナの真剣な表情に心を揺さぶられるが、
「いやぁ、遠慮しておきます……」
拒否した。
絶対、めんどくさいし、やだ。
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