第八話 異世界どうぶつのもりの探索
翌朝。
「ふぁあ……」
主人公は体を伸ばしながらゆっくりと目を覚ました。
結局、この簡易的な樹の葉っぱでつくった簡易キャンプエリアで一晩を過ごすことになったが、思ったより快適だった。
たき火をたきっぱなしにしていたおかげか、魔物が襲ってくることもなく、静かな夜だった。
火がぱちぱちと音を立て、炎の揺れる光が周囲を照らしていたことが心強かったのかもしれない。
「……と思ったら、お前、なんだそれ?」
ヘッジホッグウルフが何か口にくわえてこちらに近づいてきた。
「トカゲ……?」
ウィンドウがシュッと表示される。
『ポイズンリザード:毒のあるトカゲ。刺されると麻痺や毒の症状が出るため、注意が必要。』
「毒のあるトカゲか……。これ、夜刺されてたらやばかったな……」
ウルフを見て、ふっと感謝の気持ちがこみ上げる。炎の光の中でその姿が頼もしく見える。
「お前、夜も俺を守ってくれてたのか……サンキューな!」
ウルフは「ガウガウ!」と嬉しそうに吠えながら、トカゲを差し出してきた。
「ほい、朝飯だ。これあげるよ」
主人公はトカゲの代わりに焼き魚をウルフに差し出した。
ウルフは嬉しそうに尻尾を振りながらかぶりつく。
主人公はそんなウルフの姿を見て、穏やかな笑みを浮かべた。
静かな朝の空気の中、日が昇り始めた空がゆっくりと明るくなっていくのを感じた。
その後、主人公は一日中釣りを続けた。
「よし、今日も釣りを頑張るぞ!」
木の枝で作った釣り竿はすぐに壊れるが、さいわい、釣り糸と釣り針はひとつではなくストックがある。
壊れるたびに新しく作り直した。
シュウウ……と消滅するたびに「またかよ!」とぼやきながらも、手際よく作業を進めていく。
釣り場の周りではヘッジホッグウルフが「ガウガウ!」と盛り上がりながら主人公を見守っている。
そうして丸一日、釣りをした結果はーー
『釣果リスト』
- グリッタースケール ×3
- シャドウフィン ×2
- ブルーストライプフィッシュ ×4
- レッドフィンパーチ ×1
いいね、わるくない。
「よし! 今日は魚パーティはやめて、これらをマケプレに売って生活費を稼ぐぞ!」
釣った魚をストレージから取り出し、マーケットプレイスの画面を開く。
「売却設定っと……とりあえず一匹ずつ登録してみるか」
魚を選んで売却ボタンを押すと、次々と金額が表示される。
『グリッタースケール ×3 売却:6000クルナ』
『シャドウフィン ×2 売却:5000クルナ』
『ブルーストライプフィッシュ ×4 売却:4000クルナ』
『レッドフィンパーチ ×1 売却:1000クルナ』
「合計……1万6000クルナ! おお、これは結構稼げたぞ!」
主人公はショップを開き、アイテムを購入する。
「まさか、両替レートが上がったり、手数料が跳ね上がってたりしないよな? マジであの女神ならやりかねん……」
少し不安になりながら確認してみると、無事に同じレートだった。
ほっと胸を撫で下ろしたものの、「いやいや、そもそもぼったくりやねん。これになれたらダメだろ……」とセルフツッコミを入れる。
ともあれ、8000円になった。次のアイテムを購入することにした。
- スコップ(5000円)
- 釣り糸(2000円)
- 釣り針(1000円)
- ライター(1000円)
「これでぴったり8000円だ。本当ならDIYツールキットが欲しいけど、まずはスコップが重要だよな」
そうして、さらに翌日。
異世界に慣れ切った俺は、釣りではなく、森の中を探索することにした。
ほんの数日前は、この森をあるくのもびくびくしていたが、いまはすこし余裕とゆとりも出てきた。
これが慣れってやつだろうか。
たしかに、社畜時代も、ブラック会社のありえない社則とか絶望的な休めないシフトとか、そういうのも慣れていったもんな……。
いやでも、今のこの状況、異世界で生命の危機ではあるけど、あの社畜時代よりはましかもしれん……。
などどいっていると、ウルフが俺の足にすりよってきて、「クゥーン」と鳴いている。
「ん? どうした?」
ウルフは、ちょいちょい、と地面を前足でさしている。
「! まさか……! よし、ウルフ、ちょっとどいてくれ!」
ウルフが「ここほれワンワン」とばかりに地面を掘るポイントを見つけたのだ。俺はスコップをリロードして、手にとる。
ウルフが土を掻き出しながら「ガウガウ!」と得意げに鳴く。
「おお、わかったわかった、今掘るから!」
スコップを構えて掘り始めると、ぱらぱらと崩れる土の中から何かが見えた。
「これは……化石のカケラ?」
ウィンドウが表示される。
『ギガントドラコ:全長20メートルを超えると言われる古代の巨大爬虫類の化石。収集価値が高く、学術的にも重要。』
「そういうのもあるのか!」
思わずスコップを置き、例のポーズを決めながら化石を掲げた。
「ギガントドラコの化石のカケラ、ゲットだぜ!」
ふと化石を見つめながら、想像が膨らむ。
「化石のカケラってことは……これ、もし全部集めたら、日本の上野公園の博物館にあるような巨大な恐竜の化石模型みたいになるのか……?」
夢があるな、そう思わずつぶやく。
「もしもこの世界でずっと住むことになったら、そういう博物館をつくってみたいな……」
俺は思わず遠くを見る。
「というか、『収集価値』や『学術的』だって……? つまり、この世界にも文明があるってことだよな? どこかに、俺と同じ人間もいるのかもしれない」
女神も、この世界の流通通貨としてクルナの話をしていたし、この森ではないどこかに、人間たちが住む場所があるのだろう。
ともあれ、今の俺はそんなことに思いをはせている場合ではない。
俺は、再びスコップを手にした。ウルフも「ガウガウ!」と応えるように掘る場所を示し、二人三脚で探索を続ける。
掘り出したアイテムはどれも興味をそそるものばかりだった。
- 魔石:鮮やかな輝きを放つ小さな結晶。魔法の研究や道具の材料として重宝される。
- ギガントドラコの化石:全長20メートルを超える古代爬虫類の骨の一部。コレクターや学術関係者から高く評価される。
- 謎の鉱石:表面に複雑な模様が走る、未知の金属を含む鉱石。加工次第で新しい道具を作れる可能性がある。
「すげえ……地中ってこんな宝の山だったのか!」
ウルフが「ガウガウ!」と得意げに鳴く。
「そうだよな。これは全部お前の功績だよな。お前が掘る場所を決めてくれてるわけだから」
お礼とばかりに、ウルフへ焼き魚を差し出す。
「がうがう!!」
ガッと飛びつくも、
「ぐ、ぐむぅううう??」
と変な声を上げるウルフ。
「あ……しまった、これ『焼きシャドウフィン』じゃん。珍味っぽい味だから、お前苦手なんだったよな……」
人間の俺にとっては、なかなかに悪くない味わいだったが、狼にとってはよろしくないらしい。
それ以降も、「ここほれワンワン」をしてくれるウルフ。その度に、スコップを使って掘り進める
「これで生活費も稼げそうだ! クルナをいっぱい手に入れるぞ!」
「クゥーン!」
かなりの成果を上げて、本日の森探索は終わりとした。
「これでDIYツールキットと簡易テントセットも買えそうだな。衣料品や薬も……」
意気揚々と小川のベースキャンプに戻ると、ヘッジホッグウルフが小さくうなり声をあげた。
「ん? どうした?」
ガサゴソ……
近くの小川から物音がする。
「まさか、凶暴な魔物か……!?」
主人公は慎重に近づき、こっそりと覗いてみる。
すると、小川で水浴びをしている、美少女の姿が目に入った。
「……マジかよ!?」
思わず声が漏れそうになるのを必死で抑える主人公だった。
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