第七話 異世界のんびりフィッシング

 小川のほとりに座り、釣り竿を手にする。


 「ソロ釣りをしてたときは、もちろん市販の釣り竿だったけど、いまは木の枝でつくった簡易的なショボい釣り竿だ。いけるか……?」


 川の水は飲めそうなくらい澄んでいて、都会の川とは大違いだ。これならきっと魚もいるはず。


 釣り糸を垂らし、じっと待つ。


 「どうかな……釣れるかな……」


 静かな川辺に風がそよそよと吹き、葉っぱがカサカサと揺れる音が心地よい。とはいえ、じっと待っているのもなかなかの試練だ。


 「おーい、魚さん、早く食いついてくれよ~! 俺、お腹減ってんだぞ!」


 隣でヘッジホッグウルフが「クゥーン」と小さく鳴き、こちらを見上げている。


 「お前も腹減ってるのか? まあ、待ってろって!」


 と、突然ぐんっと竿が引かれた!


 「お、おい、マジか!?」


 隣でヘッジホッグウルフも「ガウガウ!」と吠えながら盛り上がっている。


 「よっしゃ、いっけぇえええええええええ!!!」


 力を込めて竿を引き上げると、ざぱっと水しぶきが上がり、魚が姿を現した。


 「ふぃーーーーーーーーーっしゅ!!! よっしゃ、来たぜ!」


 釣りあげた魚を手に取ると、目の前にウィンドウが表示される。


 『グリッタースケール:体が虹色に輝く特徴を持つ小型の魚。食用としても重宝されるが、素材としての価値もある。』


 「グリッタースケール、ゲットだぜ!」


 例のポーズを決めながら、得意げに魚を掲げる。


 「って、グリッタースケール……食用としても重宝されるって、いきなり当たりひいたな!!」


 ヘッジホッグウルフが魚をクンクンと嗅ぎながら、「クゥーン」とまた鳴いた。


 「まあまて、あとでちゃんとお前のご飯としてあたえてやる。今は、この釣り竿でどんどん魚をつっていこう!」


 ウィンドウには登録するか売却するかの選択肢が表示されている。


 「売るのもアリだけど……とりあえず登録しておこう」


 そう言いながら釣りを続ける。


 どうやらこの小川は偶然にも釣り場としてとてもいい場所だったようだ。周囲には背の高い草が風に揺れ、鳥のさえずりが響いている。


 「異世界じゃなければ、めちゃくちゃいい雰囲気なんだよな……」


 ウルフが水面を覗き込みながら「クゥーン」と鳴き、待ちきれない様子で尻尾を振る。


 「でもな、いま、俺は死に物狂いで釣りしてるんだよな……」


 主人公は自分にツッコミを入れながら、釣りに集中していた。そのおかげか、次々と魚がかかる。


 「ふぃーーーーーーーーーっしゅ! また来たぜ!」


 釣りあげた魚を手に取ると、目の前にウィンドウが表示される。


 『シャドウフィン:黒く光る体を持つ深淵の魚。食用としても珍味とされ、希少価値が高い。』


 「シャドウフィン、ゲットだぜ!」


 例のポーズを決めながら、得意げに魚を掲げる。


 「って、シャドウフィン……珍味ってあるけど、これ本当に食えるのか?」


 ウルフも「ガウガウ!」と吠えながら楽しそうに跳ね回る。


 ひとしきり釣りを続けていたその時――。


 バキッ。


 「えっ……なに?」


 シュウウ……。


 目の前で釣り竿が音を立てて消滅していった。


 「なっ!? なんだよこれ!?」


 ウィンドウが表示される。


 『木の枝製釣り竿は、壊れました』


 「マジか……。この世界でつくったアイテムって耐久度があるのかよ……」


 主人公は途方に暮れながらも考えを巡らせる。


 「きっとこれ、あのぼったくり女神の策略だな。一度買っただけで終わらせない、あくどいリピーター施策に決まってるぜ……」


 『釣果リスト』

 - グリッタースケール ×2

 - シャドウフィン ×1

 - ブルーストライプフィッシュ ×3

 - レッドフィンパーチ ×2


 「釣り竿を失ったのは残念だけど……釣り糸と釣り針はまだストックがある!」


気を取り直してウルフに話しかける。


「ウルフ! 今日は魚パーティだ!!」


「がうがう!!」


 主人公は釣果を手に満足そうに立ち上がり、キャンプエリアに戻る。


 そのへんの枯れた木材を拾い集め、ライターを取り出す。まずは、枯れた雑草の細い部分に火をつけ、そこから徐々に太い幹の枯れた木材へと火をうつしていくと……。


 「よし!! 火がついた!」


『たき火』の完成だ!!


 たき火を維持をしながら、小川で小石を使って釣った魚のうろこを丁寧に剥いでいく。


 「これ、けっこう力いるな……でもまあ、うまい焼き魚のためだ!」


 細い枝を取り、魚の口から突き刺して準備完了。たき火の近くの地面に立てて焼き始める。


 だんだんと香ばしい匂いが漂い始め、ウルフが尻尾を振りながら「クゥーン」と鳴き、待ちきれない様子だ。


 「できたーーーーーー!!!」


 ウィンドウが表示される。


 『焼き魚:香ばしく焼かれた川魚。滋味深い味わいと高い栄養価を持つ。』


 主人公は魚を手に取り、かぶりつく。


 「うっ、うまーーーーーーーーーーい!!! これはやばい!」


 ヘッジホッグウルフも「ガッ、ガウーーーーーーーーーウ!!!」と喜びながら魚に食らいついていた。


 釣りとたき火の成功に、主人公は満足げに微笑む。


 「異世界生活、悪くないじゃないか……!」

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