第四話 異世界どうぶつのテイム完了



 「このショップ、どうやって使えばいいんだ……?」


 画面をいじりながらぼやいてみるものの、謎のシステムは俺の知識を遥かに超えている。

 「仕方ねえ……とりあえず森を探索してみるか」


 気を取り直して森の奥へと足を踏み出した。


 木漏れ日が差し込む森の中、湿った土の匂いと鳥のさえずりが耳に心地よい。しかし、そんな穏やかな雰囲気も、次の瞬間に打ち砕かれることになる。


 「グルルアッ!」


 茂みが揺れる音と共に飛び出してきたのは、さっき俺を襲った小型犬のような化け物だった。


 「うわっ、またかよ!?」


 俺は反射的に後ずさるが、今度は逃げ場もなければ助けてくれる女神もいない。


 「これ、また死ぬんじゃないか? そしたら借金が倍の60億円になるのか?」


 恐怖が全身を支配する中、化け物が牙をむき出しにして襲いかかろうとする。


 「くそっ、やるしかないのか!」


 俺は足元の枝を拾い上げ、武器代わりに構えてみる。だが、震える手では到底戦える気がしない。


 「グウウウウ……」


 そのうなり声は、低く大きく、森全体に響き渡る。不気味なその音に、俺はすくみ上がる。

 ……ってちょっと待て。


 今の鳴き声、本当に喉からだったか?


 その時、再び「グウウウウ……」と低いうなり声が響いた。


 今度はさらに大きく、腹の底から絞り出されるような音が森中にこだました。


 いや、これは……腹から鳴ってる音じゃないのか?


 少しだけ恐怖が和らぎ、ポケットに妙な違和感を覚える。


 「ん? なんだ……?」


 そっとポケットに手を入れてみる。指先に触れた感触に、俺はハッとする。


 「そういえば……!」


 トラックに引かれる前、コンビニで買ったチョコバーの存在を思い出したのだ。


 「これがまだ残ってたのか……!」


 ポケットからそっと取り出したのは、つぶれかけた包装が少し湿っているチョコバーだった。


 「見た目はともかく、まだ食べられるよな……」


 包装を少し剥がし、恐る恐る化け物の前に差し出す。


 「これでどうだ?」


 恐る恐る化け物にチョコバーを差し出してみると、鼻をひくひくさせた化け物はそれをじっと見つめた。


 「クゥーン……」


 やがて警戒心を解いたのか、化け物はゆっくりと近づき、チョコバーをパクッと咥えた。


 「……おいしいのか?」


 化け物は咀嚼する音を立てながら、満足そうな表情を浮かべている。


 「なんだ、意外とかわいいやつじゃないか……」


 恐る恐るその頭を撫でてみる。化け物は少し身じろぎしたが、特に嫌がる様子はない。

 「良かった……」



 心底ホッとした瞬間だった。


 「わっ!」


 突然、目の前にウィンドウが現れる。


 『ヘッジホッグウルフ テイム完了』


 「テイム……? 俺が?」


 呆然と文字を見つめていると、ヘッジホッグウルフは尻尾を振りながら俺の足元に座り込んだ。


 「……これで味方になったってことか?」


 その後、森の奥をさらに探索していると、別の魔物が現れた。


 「ガァンッ!」


 茂みの中から飛び出してきたのは、鋭い爪を持つ二足歩行の魔物だった。


 「お、おいおい、今度はもっと強そうじゃないか……!」


 怯む俺を横目に、ヘッジホッグウルフがすかさず前に出た。


 「おい、まさか戦うつもりか?」


 その問いに答えるように、ヘッジホッグウルフは体を丸めると背中のトゲを飛ばした。


 飛び散ったトゲは魔物に正確に命中し、鋭い叫び声を上げながら魔物が倒れる。


 「すげえ……お前、こんなに強いのか!」


 倒れた魔物に近づくと、再びウィンドウが表示された。


 『素材取得:魔物の皮 ×1、魔石 ×1』


 「素材……? これ、なんとなくだけど……役に立ちそうだな」


 とりあえず拾い集めてみると、またしてもウィンドウが開く。


 『ショップに素材を登録しますか?』


 「登録って……まあ、とりあえずYESで」


 素材を登録すると、それらがシュン、と消えていった。


 おそらく【ショップ】の機能によってストレージに保管されたのだろう、たぶん。


 すぐに別のウィンドウが現れた。


 『エリシアちゃんのマーケットプレイス機能を使いますか?』


 「エリシアちゃん……? マーケットプレイス??」


 ……自分に「ちゃん」とかつけるの、どうなの?


 偏見かもしれないけど、そういう女の人って、なんかアレだよね。


 調子乗っちゃってる感じするよな。


 ともあれだ。


 突然現れた不思議なメッセージに、俺は思わず眉をひそめた。


 「何だこれ、あの女神の名前がついてるってことは……使えってことか?」


 考え込む暇もなく、俺は好奇心に駆られて「YES」を押してみる。


 すると画面が一瞬輝き、次のメッセージが表示された。


 『売却完了:魔物の皮 50クルナ、魔石 100クルナ』


 「……50クルナと100クルナか。つまり、150円ってことだよな? 少ないけど、これでも借金の足しにはなるか」


 何だか拍子抜けしつつも、買取機能が便利そうだと気づいた俺は、さらなる素材を集める決意を固める。


 「よし、ヘッジホッグウルフ。次も頼むぞ!」


 ウィンドウを閉じて一息ついていると、ヘッジホッグウルフが突然「ここほれわんわん」とでも言いたげに地面を掘り始めた。


 「おいおい、何やってんだ?」


 その仕草が妙に必死だったので、俺は気になって近づいてみる。


 「何かあるのか?」


  さらに近くの地面を調べてみると、この世界独特の模様が入ったキノコが顔を出していた。


 「……なんだ、この模様。すごい不気味だな……」


 試しにキノコを引き抜いてショップに登録してみると、すぐにウィンドウが表示される。


 『素材登録完了:不思議模様のキノコ』


 次に現れたウィンドウには『エリシアちゃんに売却』のボタンが表示されていた。


 「売却……あ、押さなければ保管されるってことか?」


 なるほど、ボタンを押さなければストレージに保管されるらしい。これで必要に応じて素材を管理できそうだ。


 「便利っちゃ便利だな……」


こんな感じで、どんどんショップを理解していく俺。


 「しかしお前、すげえな。こんなの見つけられるのかよ!」


 ヘッジホッグウルフは満足そうに尻尾を振っている。

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