第三話 ユニークスキル【ショップ】


 「三〇億円、どうにか払ってね」


 「いや、無理ですよ! 三〇億円なんて払えるわけないじゃないですか!」


 俺の嘆きに、エリシアは冷静に肩をすくめる。


 「だったら、この森でお金を稼いでもらうしかないわね」


 「え……?」


 頭が追いつかない。


 「私、あなたを転生させたときに、ユニークスキルを付与してあげたのよ」


 「ユニークスキル……?」


 エリシアは頷き、満足そうに微笑んだ。


 「そう。あなたのスキルは【ショップ】。地球のアイテムをこの異世界で購入できる便利な力よ」


 「えっ、地球のアイテム? それって……つまりそういうことです? 異世界からカタログ通販ですか!? 本当にそんなことができるんですか?」


 「もちろんよ。ただし、お金は必要だけどね。あと、買ったアイテムをうまく活用して、この世界で稼げばいいわ」


 「なるほど……って、いやいや、なんでそんなシステムなんですか! お金稼ぎに便利なスキルとかじゃダメだったんですか?」


 「それじゃ面白くないでしょ」


 エリシアは悪びれもせず、得意げに言った。


 「【ショップ】の使い方は簡単よ。頭の中で『ショップを開く』と念じてみて。あとは画面が表示されるから、そこでアイテムを選んで購入するだけ」


 丁寧に説明してくれるのはいいが、そもそもこのシステム自体に納得がいかない。


 「じゃ、そういうことで。私は忙しいので」


 「あ! ちょっと!」


 俺の抗議も聞かず、エリシアはその場からふっと消え去った。


 「いったいどうしろって……」


 神様はきまぐれとかいうけど、マジじゃん。


 しかも、めちゃくちゃ迷惑なんだけど。


 女神ってもっと優しくて甘やかしてくれる、慈母のような存在じゃねーのかよ。


 たんなる性悪女にしか映らなかった。


 思わず、クソ女神、とつぶやいてしまう。


 いやいや、そんなこと言っちゃダメだ……。


 いちおう、命を助けてくれたから……バカ高いけど……。


 呆然とそんなことよりも、今はあのクソ女神の言葉に縋るしかない。


 俺は、試しに言われた通り『ショップを開く』と念じてみる。


 すると、目の前に半透明の画面がパッと現れた。


 「うわっ、本当に出た!」


 画面には、地球のアイテムがカテゴリーごとに整然と並び、どれも詳細な説明や価格が表示されている。


 食料品、工具、家電……アイテムの一覧は際限なく続いているように見える。


 商品画像が鮮明で、簡潔な説明文が添えられているその画面は、どこかで見覚えがあるような、現代的なショッピングサイトを彷彿とさせる。


 「……これが、俺のユニークスキルか」


 興奮の余韻が冷めないまま、ふと画面の隅に表示されている『アカウント情報』が目に入る。


 好奇心でそれをタップしてみると、自分の名前らしきアカウントが表示された。


 当然ながら、残高は日本円でゼロ円。


 さらに『クレジットカード未登録』の文字が赤字で強調されている。


 「くそ、生きてる時のアカウントは引き継いでないのか!」


 苛立ちが募るが、どうしようもない現実に思わず頭を抱えた。


 さらにアカウントの住所欄を確認してみると、『異世界どうぶつのもり』と表示されていた。


 「……なんだこれ?」


 一応の住所入力欄には「市区町村」や「郵便番号」の項目があったが、それを埋めるどころか、この住所自体が意味不明だ。


 「いやいや、異世界どうぶつのもりって……どんな適当な設定だよ」


 呆れながらも、どこかツッコミを入れずにはいられない。


 冗談めかして呟いてみたが、なんとも言えない虚しさが募るばかりだった。


 「いや、そりゃそうだよな……ここ、異世界だもんな」


 自分で納得しかけるも、どうにも腑に落ちない。


 「それで……この、右のアイコンは?」


 画面の右端に、小さなショッピングカートのアイコンが表示されている。


 気になってタップしてみると、『カートは空です』の文字が無機質に表示された。


 「そりゃそうだろ……まだ何も買ってないんだから」


 思わず独り言を呟きながら、再び画面を閉じた。


 「あ、そうだ。それで、この右も左もわからない異世界の森で、俺はどうやってお金を稼げばいいんだ?」


 画面にゼロ円と表示された所持金を見ながら、ため息が漏れる。


 「このショップの所持金はゼロ円だし、どうすればいいのか、さっぱりわからん!」

 

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