帰る

水谷一志

第1話 帰る

 私は昨年、生まれ故郷である片田舎を卒業し、都会への転職を決めた。


 元々田舎は好きな方ではない。一般的に自然がある方が空気は綺麗と言われているが、私は大都会の空気の方が好きだ。ビル街から吹き込む風、自動車のガスの匂い。それらを感じると私は、大自然よりも生きている心地を感じる。


 あとこれは内々の話ではあるが、私の住んでいる田舎には噂がある。それは―、村一帯に結界が張られていると言うことだ。何でも村から出ようとした人間は、一年以内に何らかの形で戻されるらしい。そう言えば私は都会に出たこの地方の人間の行く末をほとんど知らない。と言っても、私が知らないだけで単なる噂だと思うが。


 三月。温暖化のせいか今年は桜の開花が早い。ただ私は今、桜には興味がない。四月から始まる新しい仕事、新しい職場に興味津々で私は準備を忙しくしている。


 引っ越し先のマンションに荷物を運ぶ。ちなみにマンションは地下鉄の最寄り駅から徒歩一分と立地が良い。もともと私の田舎には地下鉄そのものがないので、そう言った意味でも私は高揚していた。


 安全運転に配慮しクルマをマンションの駐車場に止めようとしたその時―。


 ガンッ!


 ゴールド免許の私があろうことか隣のクルマにぶつけてしまった。


 「○○さん、全治一か月ですね」


 こうして私は生まれ故郷の田舎に戻ることとなった。

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帰る 水谷一志 @baker_km

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