第16話 家造り
水を大量に確保できたのはいいけど……。
いい加減、飲水問題を解決しないとなぁ。
川の水は生で飲むなとあれほど講習で学んだのに。
試験に出るってことはちゃんと理由があるんだな。
「こんなもんか」
ばらばら、と材料を落とす。
地面に転がっているのは、太い木が六本、細い木が無数だ。
太い木のほうはシェルターの柱にする。
細いほうは梁だ。
まずは柱を立てるための穴を地面に掘る。
平たい石を使って土をすくい上げ、1メートルほどの穴が六つできた。
この穴に太い木を突き立て、穴の中に小石をごろごろ入れる。
これで柱の基盤が強化されるし、水はけがよくなって柱が腐りにくくなる。
厄介なのは……穴の位置をミスると修正するときに手間がかかることだ。
一回でばちっと成功させたい。
川原で小石をたくさん取っておいてよかったと思う。
森の中で小石を探すのはけっこう大変。
使えるものは何でも拾う、の精神がここで生きた。
植物だけは、根絶やしにしないように配慮した。
「本当にできるのか?」
正直、シェルター作りはもう何年もしていない。
資格試験のとき以来だ。
命芽の森では、ギルドがいくつかシェルターの管理をしてくれている。
なので冒険者はそこへ向かって冒険を開始すればいい。
しかも今は道具が何もない。
ツルハシだけだ。
うまく自然の素材を加工して、手間をかけて作るしかない。
一番ほしいのは金属の道具だ。
杭やハンマーがあると物作りの幅が広がるのにな。
森のあちこちで黄金ロリさんの声が聞こえてくる。
「しゅぱぱぱ! 女神スラッシュ!」
今はあっちのほうにいるのか。
頑張ってツルを集めてくれているようだ。
もうすこし時間がかかりそうだ。
私は屋根に使う樹皮を集めるとしよう。
「これがぴったりだ」
しばらく歩くと立派なスギが群生していた。
__________________
【
魔素の濃い森に生えるスギ。
霧や湿気を寄せつけない防水性の高い樹皮を持つ。
霧が立ち込める環境でも耐久性が高く、建築材料としても評価される。
__________________
出会ってしまった。
優れた建築素材に。
むっちゃええやん。
汎用性が高そうで創作欲が抑えられない。
頬が緩んでニマニマしてしまう。
さっそくいただくとするか。
そう思ったが、樹皮を剥ぎ取ろうにも……刃物がない。
ないなら作ればいい。
幸いにも道具も素材もすでにある。
よーし、私のぶんの石英ナイフも磨いておくか。
今回は切れ味にこだわってみよう。
その代わりちょっと割れやすくなるだろうけど、そこはまあ石という素材の性質上トレードオフの関係なので目をつぶる。
割れたらまた作ればいい。
なに、素材ならたくさん転がっているさ。
さあこれから作るぞ、となったときアイテム袋があると便利だ。
道具も素材も取りに行かなくていい。
全部アイテム袋に入っている。
本当に便利だ、この袋は。
家にあったら一歩も動かなくなる自信がある。
さて、私の手に合わせて大きめのナイフにしようか。
〈【研磨】がレベルアップしました〉
〈【研磨Lv2→3】。切れ味が向上します〉
シュィィン、シュィィン。
相変わらずえげつない研磨音だ。
黄金ロリさんのナイフよりも磨く面積が大きく、作業量も多いはずだったが、研磨の技術が向上しているからか短い時間で完成した。
かなり作業効率が上がっている。
石英ナイフを目の前に掲げる。
白く透き通った美しい刃だ。
丈夫で切れ味があるといいのだが。
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【石英ナイフ】
品質:A 切断:77 耐久:80
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品質Aだと……!?
しかもロリさんに作ったときよりも切断の数値が大幅に上がっている。
Lv2とLv3でもこんなに出来が違うのか……。
「問題は、ちゃんと切れるかだ」
さっそく切れ味を確かめよう。
私は霧守杉の幹と樹皮の間に石英ナイフを差し込んだ。
そのままゆっくりと滑らせていく。
「え……これ石だよね? 鉄のナイフじゃないよね?」
めちゃくちゃしっかりと切れ込みが入るのだが。
しかも全然力を入れてないのにスッと行けてしまう。
「切れ味……ヤバくないか?」
むしろ、本物のナイフよりも切れ味が鋭い気が……。
いやいやいや。
そんなわけないか。
自作が可愛いからって思い込みが激しすぎる。
鉱物の構造的に、鉄のほうが切れ味がいいに決まっている。
そうだよな。
もう一回切ってみよう。
「よ、よーし……」
スッ。
「やっぱり切れるんだよなぁ。おっかしいなぁ……」
石英ナイフの表と裏をくるくると見比べる。
何度見たって石英は石英だ。
鋼鉄じゃない。
なのに、異次元の切れ味。
【技術の加護】って、ひょっとして人間を辞めたりします?
怖くなってきたから、今度黄金ロリさんに聞いてみよう。
「まさか樹皮を切り取る作業がこんなに楽になるとはな……」
もうちょっと重労働を想定していた。
切れ味が鋭すぎてまったく疲れない。
「道具って大事だな」
そして、それを作る職人の価値も改めて感じる。
私は手を休めず、黙々と作業を続ける。
今度は縦に切れ込みを入れて、手で持てるくらいの幅にした。
これでゆっくりとべりべり剥がしていく。
勢いよくやると裂けてしまうので、ここは慎重に力を込めていく。
やった!
一枚、剥ぎ取れた!
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【霧守杉の樹皮】
レア度:3 品質:S
霧守杉から剥ぎ取った新鮮な樹皮。
水属性に耐性がある。
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出た、Sランク。
ここの植物はやっぱり極上だ。
しかし、品質のよい家を建てられるのなら文句はない。
「この調子でどんどん剥ぎ取ろう」
とは言っても、剥ぎすぎるとスギが枯れてしまう。
一本に一枚くらいにしておこう。
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