第15話 初めての加工


「お手々を見せてもらっていいですか?」

「うむ? こうか?」


 小さく可愛らしい手が私のもとへ伸ばされた。


「手のひらをパーにしてください」

「パーじゃ」


 私は黄金ロリさんの手を掴み、ぷにぷにした肉厚を確かめる。

 私の親指の腹をぐっとロリさんの手のひらに押し当て、そのまますーっと指の付け根までなぞり上げた。


「ちょっとでかいか……」


 幼女の手には、この石英岩は少々大きいらしい。


「砕きます。ちょっと離れててください」


 私は黄金ロリさんが一歩後退したのを確認して、ヴァルディオの角の尖端でカンカンと突き、石英岩を端っこのほうから砕き割っていく。


 石英岩は層状に剥がれるのではなく、鋭角に割れるのが特徴だ。


 ああ……ハンマーがほしい……。


 鍛冶道具もなしに金属製品をゼロから作ろうとしている私はもしかしたら馬鹿なのかもしれない、と今更ながら思う。


 ちなみにヴァルディオの角は、ペンくらいの長さに折っておいた。

 鋭利な傷を一直線につけて、体重を乗せてぽきんだ。

 もともとは全長が80センチほどの鹿のような白い角だった。

 優雅に湾曲する形状で、根本から尖端にいくにつれ角が分岐する。

 その分岐している一本がちょうどよかったので折らせてもらった。

 鋼鉄より軽いのに鋼鉄と同じ硬度を誇るらしく、使い勝手がいい。


〈【粉砕】がレベルアップしました〉

〈【粉砕Lv1→2】。効率性が向上します〉


 お、なんか向上した。

 粉砕する技術か……。


 鉱石を砕く作業は今まで散々してきたんだけどなぁ。

 良質な鉄鉱石を選別する『選鉱』と呼ばれる作業だ。

 私は仕事柄、何年も何年も鉄鉱石を砕いてきた。

 であるのに、Lvは1しかなかったのか。


「これくらいかな。もう一度手を見せてください」

「ほれ。パーじゃな?」

「パーです。さすがです」


 言わずともパーにしてくれた。

 かわいい。

 ロリさんの手と今しがた砕いた石英岩を見比べる。


「よし。いいだろう」


 私はうなずいた。

 ちょうどよいサイズ感だ。


 これから本格的に研磨作業に入る。

 まずは粒子の荒い青砥石から、そして仕上げに細かい白砥石で。


「ロリさん、水を垂らしてもらえますか?」

「わかったのじゃ」


 私が石を磨いている間、ロリさんが協力してくれる。

 アイテム袋からちょろちょろと水を出し、削れた石の粒子を洗い流してくれた。


〈【研磨】がレベルアップしました〉

〈【研磨Lv1→2】。切れ味が向上します〉


 こっちも技術が向上したようだ。

 研磨こそ、私が日常業務で行ってきた作業だ。

 私はこれまで、何十本・何百本と剣を磨いてきた。

 というのに、これもLv1のままだったのか。


 30年の努力も実らず、悲しくなる一方だ。


 というか……

 Lv1とLv2の間に天と地ほどの差がある気がするのは私だけ?

 実際、Lv2の時点で人間離れしたことが可能になっているし。

 Lv1とLv2の間には、とんでもなく高い壁があるように思う。

 その壁を越えていける人が、いわゆる『天才』なのかもしれない。


 シュイィン、シュイィン。


 いや、なんだよその研磨音。

 Lv2に上がった途端に鋭利な音に変わった。

 一往復でなんでそんなに磨けるんだよ。

 二往復でなんで刃の形になるんだよ。

 おっかしいなぁ……。


「ほう。どんどん刃の形になってきたの」

「ええ。こんなもんでいいでしょう。完成です」


 内心では焦りつつも、表面上は格好つける私。

 なにはともあれ、白く透き通った刃の完成だ。


 心の中で叫ばしてほしい。


 刃物つくったああああああひゃっほおおおお!!!!


 めっちゃ嬉しい。めっっっちゃ嬉しい。


__________________

【石英ナイフ】

 品質:B 切断:55 耐久:72

 職人の手で磨き上げられた石英のナイフ。

 子供が扱えるようにサイズは小さく調整。

 握りやすいように突起を残している。

__________________


 おお!

 こんな感じで自作も鑑定されるのか。

 なんか恥ずかしいな。


 私程度の職人でも品質がBランクもある。

 一応、お金は取れる水準って理解でいいのかな?

 実際、お金をいただいていたしな。

 切断よりも耐久のほうが高い数値なのは、純粋に素材のよさだろう。

 とても均一に加工しやすかった。


 それにしても、この数値の基準は何なのだろうか。

 すべての刃物を比較した値なのか。

 それとも石英ナイフで比較した値なのか。

 絶対値なのか、相対値なのか。


 ……うん、謎だ。


 試しにそこらへんの雑草を切ってみる。


 スパッ!


 うお!

 思いのほか切れる。

 石でこれくらい切れ味があれば充分だろう。

 ちょっと切れすぎなところもあるけど、石英の質がいいのかな。


「どうぞ、受け取ってください」

「よいのか! エモいのじゃ! 女神ナイフじゃ!」


 黄金ロリさんが石英ナイフをぶんぶん振り回して小躍りする。


「ははは。そんなに振り回すと危ないですよ。危ない!!」


 いま一瞬切られかけたぞ!?


「おお、すまぬすまぬ。危うく三枚に下ろすところじゃったわ」

「気をつけてくださいね、ほんとに」

「だって嬉しいのじゃ。これは、アーロンが初めて妾のために作ってくれたものなのじゃ。これを踊らずして、いつ踊るのじゃ?」

「今ですね」

「そうじゃ。今じゃ」


 これは失礼いたしました。


「喜んでもらえて光栄です。あとで使い心地、教えてくださいね」

「妾、切る。ツルを切る。しゅぱぱぱ!」


 微笑ましい。

 口で効果音を言う女神様っているんだなぁ。


「妾わくわくしてきたのじゃ。早く切るのじゃ~っ!」

「さて、と。私も太い木を探しにいきますかね」


 そのとき突然、腹痛が襲ってきた。


 ぎゅるるるる~~~!!!


「なにごとじゃ!? 竜か!?」


 石英ナイフを振りかざし、周囲を警戒する黄金ロリさん。


「違います、ロリさん。お腹です。お腹を下しました……」


 川の水があたったのかもしれない。


「なんじゃと? 大丈夫かえ?」

「ちょ、ちょっと、奥で出してきますっ!」

「わ、わかったのじゃ」

「ば、ば、爆発する~!!」

「人間とは難儀じゃの……」


 作る!!

 今度絶対にトイレを作る!!


 私は森の奥に駆けながらそう心に誓うのだった。




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