第14話 拠点選び
私は川底に沈めたアイテム袋を回収した。
何時間、流し込んだだろうか。
体感では2時間だが、正確な時間の経過がわからない。
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【清流の水】
水質:S 量:300万リットル
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おおふ。
とんでもない量の水だ。
数字が大きすぎてもはやよくわからない。
でもこれで、水問題は解決。
「となると今度は……拠点選びですね」
「おお! 秘密のアジトじゃな!」
お昼寝から目覚めたロリさんが、黄金の瞳をキラキラと輝かせた。
ついに拠点づくりに移る。
「そうですね、アジトです」
拠点づくり→探索→拠点づくり→探索の計画第一弾だ。
最初の拠点は長居するつもりだ。
したがって場所選びは慎重にしていく必要がある。
「本来であれば水源の近くに作るのが一般的なのですが、すでに大量の水が手に入ったので正直どこでもいいです。むしろ、洪水のリスクのないところのほうがいいくらい。なので、より平坦で、より快適で、風避けになりそうな場所を探しにいきます」
決して、あの川にびびっているわけではない。
「当てはあるのかえ?」
「一応、ここに来る道中で目ぼしい場所はいくつか見つけています」
もはや癖みたいなものだ。
頭で考えるより先に、目が勝手に動いている。
「なんと……! やるではないか……!」
「はははっ。黄金ロリさん、褒めるのが上手って言われませんか?」
「そうかのう?」
なんだろう、黄金ロリさんと一緒にいるのは居心地がいい。
「実はこれ、Eランク冒険者の教本にも書いてあることなんですよ」
「そうなのかえ?」
「ええ。ですから、誇ることでもないんです」
最優先で拠点候補を探すようにと教官に叩き込まれてきた。
すこしでも生存率を上げるためにと。
もはやこの教訓は体に染みつき、探索の糧となっている。
「いや、知識があるのとそれを使うのとでは大違いじゃぞ?」
「やっぱりロリさん、お上手です」
「かかっ。そういうことにしておこうかの」
黄金ロリさんが八重歯を見せて笑った。
*
森の高台に来た。
周囲より二段くらい高くなった丘みたい場所である。
「候補地の高台です。周囲を見渡せるので外敵から逃げやすいですし、高台は目立つので拠点自体がランドマークとなって迷いづらくもなります。もし偶然人が通りかかったら、出会える確率も上がります」
「見られるのは嫌じゃ!」
「却下ですね」
次の候補地へと向かう。
今度は足場の安定している岩場にした。
「次は岩場です。崖があるので天然の壁として使えます。それに私は崖を登れるので、外敵に襲われても高いところへ逃げることができます。水はけが悪いので、悪天候には弱そうですけどね」
「殺風景は嫌じゃ!」
「却下ですね」
次の候補地へと向かう。
やはり拠点は天候の影響を避けやすいところを選ぶべきだ。
「次は洞窟です。雨風をしのげて、暮らすには快適です。火種も安定するので、料理などもしやすいです。外敵が来たときはちょっとピンチですが」
「声が響くのは嫌じゃ!」
「却下ですね」
次の候補地へと向かう。
森の恵みを採取しながら生活できる場所はここだ。
「次は森の開けた場所です。雨が降ったときは水はけがいいですし、木々に囲まれているのでプライバシーと開放感を両立できます。木々を利用することで森に擬態することができますが、他の候補地とくらべて魔物の接近を許してしまうでしょうね」
「秘密のアジトじゃ!」
「ここですね」
無事にロリさんからも承諾を得た。
直径10メートルくらいの開けた場所だ。
実家の居間よりも広くて、何より日当たりもいい。
ちなみに【気配遮断】はLv4に上がった。
拠点の候補地へ移動するたびにめちゃくちゃ魔物と遭遇した。
マジで何なの。
うじゃうじゃいました。
バレたら死ぬと思って、必死に気配を消した。
縄張りとかあるのかね?
開けたエリアごとに2、3体の姿が見えた。
1メートルくらいの大きさもいれば、4メートルくらいの大きさもいた。
鑑定しようとも思ったけど、近づくのは危険だと思って素通りした。
実際に遭遇してみると素材オタクの血もかなり大人しかったね。
魔物狩り?
誰だそんなアホなことを言い出したのは。
あんな化物、絶対に刺激してはいけない。
ちょっとね……この森は人の住む場所じゃないよ。
残念なことに、私は今から寝床を作るんですがね。
「木のシェルターを作ろうと思います。二人が寝てくつろげるくらいの」
「おお! アジトっぽいのじゃ!」
「私は太い木を探してきますので、ロリさんは植物のツルを探してくれませんか? ああ、これがちょうどいいですね。こんなやつです」
ブチブチブチィ!!
近くの木に絡みついているツルを力づくで引き千切った。
「おお……豪快じゃな……」
「太さは2センチくらいの、しなやかで頑丈なやつがいいですね。すこし曲げてみて、折れずに柔軟にしなるか確認してください」
わかりやすいように、黄金ロリさんの目の前で曲げてみせる。
乾燥しているツルはぱきりと折れるが、生きていればこのようにしなる。
「なるほどの。わかったのじゃ」
「あとは両端を持って引っ張って、簡単に切れないかも大事なポイントです」
私はツルの両端に持ち替えて、ぐぐぐっと引っ張ってみせる。
私の怪力では力を入れすぎると千切れてしまうのですこし控えめに。
「ほうほう。2センチで、柔軟で、丈夫なやつじゃな」
「その通りです。物覚えが早くて素晴らしいですね」
「えっへんなのじゃ!」
胸を張る黄金ロリさん。
それから私はアイテム袋から数々の石を取り出す。
「では、ちょっと10分ほどお待ちください」
「のじゃ?」
アイテム袋を逆さにして、地面に置いた石の上に川の水をちろちろと流す。
青砥石の表面が湿って色濃くなった。
「これ、アーロン。一体何をしておるのじゃ?」
「これから石を磨いてナイフを作ろうかと」
「なんじゃと!?」
「ツルを切るのに使ってください」
私は石英岩を手に取り、様々な角度から眺めた。
白い半透明で、光を透かして見れば粒子の細かさがよくわかる。
やはり何度見ても質のいい石英だ。
粒が荒いと割れやすく、割れた部分も不規則になってしまう。
これほど素晴らしい品でもAランクか。
この森にあふれ返るSランクの植物たちは一体何なのだろう。
バケモノかな?
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