第17話 家造りⅡ
私が拠点に戻るのと、黄金ロリさんが拠点に戻るのは、ほぼ同時だった。
「見よ、アーロン! 妾が集めたのじゃ!」
「すごいですね、こんなに。よく集めましたね」
束が積み上がるほどのツルだった。
これがあれば当分ツルには困らない。
「偉いか? 妾、偉いかえ?」
ちらちらと目配せしてくる黄金ロリさん。
褒めてくれアピールだ。
なるほど、これは言葉を選んで褒めたほうがよさそうだ。
「偉いどころか……感銘を受けました。驚天動地の感銘です」
「!!!! さすが妾じゃな!!!! きょうて……なんじゃって?」
「驚天動地の感銘です」
「なるほどの!!!! きょ……!!!! キョドいのじゃ!!!!」
「きょど……?」
「キョドいのじゃ!!!!」
「はい。キョドいです」
キョドかった。
次からは難しい言葉は使わずに褒めよう。
理想通りではなかったが、喜んでいただけてよかった。
私は腰に手を当てて、積み上がったツルを見下ろした。
ツルがあれば、ようやくシェルターの骨組みを作ることができる。
さっそく作業に取りかかることにした。
ツルを巻きつけて、ぎゅっと左右に引っ張る。
固く結ぶことで、次々と柱と梁を固定していく。
〈【建築】がレベルアップしました〉
〈【建築Lv1→2】。効率性が向上します〉
おお……!
建築の技術か。
私は同じ職人として、土木職人に敬意の念を常々抱いていた。
仕事が丁寧で緻密なんだよなぁ。
私の剣とは違って、家屋というものは非常に高価だ。
それだけお客さんの目は厳しくなるし、クレームの口調も強い。
責任の重さが段違いだ。
いや、私の仕事に責任がないという話ではなく……。
まあそういったわけで、土木職人には特別な感情がある。
こんなことを言うと親父にぶん殴られそうだな。
職人の作るものに優劣をつけるなって。
目の前のものを一生懸命つくればいいんだ、とどやされるだろう。
親父に……また会えるかな。
親孝行……できるかな。
6歳の頃から金槌の叩き方を教わって、数えきれないほどの恩を受けた。
残念だったのは、私が親父の期待に応えられなかったことだ。
何度もコンクールに出品したが、入賞したのは12歳のときに一度だけ。
子供の頃はまだまわりとそれほど差がなかった。
しかし大人になると、カクロコンの職人は化物ばかりだと気づいた。
一生追いつける気がしなかった。
私の作品はすべて予選落ち。
オーダーメイドの仕事が来るはずもなく、大量生産品を作る毎日。
品質はそこそこでいい。
だけど大量に作って納期に間に合わせる。
それが私の至上命題だった。
納期が間に合わなければ、商会から仕事をもらえなくなる。
それは私たちの小規模町工房では死活問題である。
一度でいいから、エヴァレットのような大商会と大きな仕事がしてみたかった。
だが、そんな実力もなかった。
『なれますわ。アーロン様なら一流の職人になれます』
胸の奥がちりちりと熱くなった。
こんなところで死んでたまるか。
夢を叶えるんだ。
夢を叶えて、一流の職人になって、親孝行をするんだ。
きっとそんな人生は、めちゃくちゃ気持ちいいぞ。
*
かなり集中していたせいか、建築Lvが3まで向上した。
おかげで手際がよくなり、暗くなる前にシェルターが完成した。
ほとんどあばら家みたいなものだが、雨風をしのげるものになった。
いや、風はしのげないか。
屋根はできたが、壁はまだできていない。
あとで木材や樹皮で壁を作る予定だ。
屋根はというと、天井に張り巡らせた梁に樹皮を敷き詰めた。
そのあと樹皮の隙間を埋めるようにコケも詰めた。
さらにその上から、大きな葉っぱを被せて、緑の屋根の完成だ。
この葉っぱは黄金ロリさんが集めてきてくれたものだ。
一枚が大きく長いもので、フキの葉のように撥水性があった。
水が流れるように屋根に傾斜をつける工夫もした。
自然由来の素材で作ったので、この森にうまく擬態している。
「秘密っぽいのじゃ!」
と黄金ロリさんが興奮しているのはそのせいだ。
床のほうは乾燥した枝と小石を敷き詰めた。
これで湿気のある地面との接触を可能な限り減らしたのだ。
でもこのままだとボコボコしていて痛い。
なので上から乾燥した葉やコケを敷いて、座り心地をよくした。
さらに例の撥水性の葉っぱを何枚も重ねて、床の完成だ。
これで寝転がっても背中が湿ることはない。
何よりふわふわで寝心地もいい。
懸念点があるとすれば、冷たいことだ。
今は汗ばむ気温だが、もし冬が来れば凍え死んでしまうだろう。
そのときは霧守杉の樹皮を敷くなどして、工夫していこう。
あの樹皮はけっこう断熱性を期待できそうだしな。
「ふぅ……」
ちょっと疲れた。
でもこれで、衣食住の『住』に目処が立った。
今すごくほっとしている。
たぶん家って、体を休めるための場所ではない。
心を休める場所だ。
それが今、身に沁みてわかった。
「妾たちのアジトの完成じゃ〜〜!」
うつ伏せに寝転がってバタ足をするロリさんを眺める。
さっそくアジトの中でくつろいでいるようだ。
その姿を見ると、私の中にほのかな達成感が芽生えた。
「すごいのアーロン! 一日のうちにアジトを作ってしまうとは!」
言われてみれば、この森に飛ばされてからまだ一睡もしていない。
「正直言うと、最初は時間がかかると思っていましたよ。ですが、そこはほら……とんでもないでしょ?」
「ふむ……?」
わかりませんか? と私は目配せした。
すると黄金ロリさんはビビっと来たようだ。
「!!!! 妾の加護じゃな!!!! 確かにとんでもないのじゃ!!!!」
「多くの技術が合わさって、大幅に時間を短縮できました」
「すごいのじゃっ!! アーロンもすごいし、ゆえに妾もすごいっ!!」
今回は難しい言葉を使わずとも、うまく褒めることができたようだ。
黄金ロリさんはご満悦。
褒め褒め作戦、大成功である。
黄金ロリさんを見てると、元気が湧いてくるなぁ。
問題はまだまだ山積みだが、すこしずつ状況は改善している。
焦らず、一歩ずつ、前へ。
とりあえず優先すべきは……
「飲み水だな」
また喉がからからに渇いてきた。
だからと言って、また川の水を飲む勇気はない。
「はは……」
私は胸によぎった感情がおかしすぎてつい笑ってしまった。
自分でも馬鹿げていると思う。
馬鹿げていると思うが、これが私の本心だった。
私はこの状況をどこか楽しんでいる。
未知の森で手探りで生きる――
そのことに、私は少年のようにわくわくしていた。
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