同棲している彼女を激怒させてしまったらしい
403μぐらむ
やっちまった
やばい。
本当にやばい。
うん、やばい。多分やばいし、絶対にやばい。
見る?
これ、さっき同棲している彼女——
『拝啓
この大宮って言うのは俺のことね。
えっと、つづきね。
『昨夜の貴殿の行動におかれましては弊方といたしましても甚だ承服いたしかねます。
貴殿が非常にお疲れであることは重々承知しておりますが、昨夜の行為に誘われたのは弊方ではなく貴殿であり、弊方にいかなる瑕疵も見当たらないと認識しております。
故に、行為の
但、労働に邁進なされております貴殿を咎めるつもりは毛頭ございません。ただ弊方の胸中をお伝えできればと一筆認めた次第でございます。
尚、今件について
ね?
怖くない?
絶対に怒っているよね。敬語を通り越して超ビジネスライクなお手紙だもん。漢字多すぎるしラインで書くような文章じゃないよね……。
実は昨日、というかここ最近、仕事が繁忙期に入っているところにトラブルが2件も重なってしまって今週は毎日って言っていいほど終電で帰ってきていたんだ。
当然彼女も普通に仕事しているので終電の俺のことなんか待っていないで寝てもらっていたんだけど、昨夜に限っては珍しく少しだけ早く帰れたんだよね。
で、ストレスからなのか疲労からなのかわからないけれどものすごく性欲が高まっちゃって久しぶりだけど、俺からエッチに誘ったわけよ。
玲華の方も久しぶりってこともあってちょっとノリノリになって、ものすごくいい感じだったんだけど始めて多分10分か15分くらい経ったところから記憶がないんだわ。
玲華のラインに『所謂寝落ちを』って書いてあったから、エッチの最中に俺、寝ちゃったみたいなんだよね。
そういうことなので、まぁ、彼女が怒るのも仕方ないかなと思う。
それで気づいたらすっかり朝で、俺としてもやっちまったとはわかっていたんだけど口も利いてくれないまま彼女は出社していってしまったんだ。
謝罪一つ聞いてくれなかったんだけど朝ご飯はちゃんと用意してあった。
もちろん、謝罪のラインは送っていたんだけど返事はなくて、どうしようかなぁなんて思っていたところに昼休みに来たラインがさっきのあれなんだよ。
激怒、だよね。生まれて初めてだよ遺憾なんて言われたの。首相とか官房長官の記者会見でしか聞いたことないもん、遺憾なんて。
ねぇ、どうしよう。誰か助けて……。
一応もう一度『ごめんなさい。申し訳なかったです』とは返信したんだけど既読も付かないんだよね。
普段の彼女は温厚でとても優しい。ちょっと俺がヘマしたり、イライラしていても大目に見てくれて逆にその包容力で優しく慈しんでくれたりする本当に俺には勿体ない彼女なんだよ。
その彼女を怒らせたんだ。万死に値するって言われても素直に頷いてしまいそうになる。
でもやっぱり謝りたいし、反省もしているので元の状態に戻りたいとは心の底から思っているんだ。
某ネットの知恵袋的なサイトにことの顛末を掻い摘んで説明して大至急で回答をお願いしたところ、彼女の好きな食べ物でもプレゼントして全身全霊五体投地で謝罪するしかないって言われた。
「そうか。じゃ、玲華ならやっぱりスイーツだよな」
特に駅ビルに入っているデリス・パルフェって店の
俺もネットのアドバイス通り供物を捧げて土下座しかないとは思っているのでそれを実行するつもり。
だと言うのに——。
「なんでこんな日に三杉のバカタレはクレームを起こすんだよ! チクショウ。終電じゃケーキ屋終わってんじゃん!」
後輩の三杉がクレーム案件を起こしたのでその始末をつけるのに今日も終電になってしまった。今日こそは定時上がりして玲華と仲直りしようと思っていたのに!!
とはいえ可愛がっている後輩を放りだして自分の用事に優先順位をつけるほど俺も非情になれなかった。
迷惑をかけてしまった各方面に謝罪の電話をかけたり、三杉に始末書を書かせたりしていたらこんな時間になってしまったんだ。
もう0時20分。開いているのは駅前のコンビニと自宅近くの24時間営業のスーパーマーケットだけになってしまっている。
「コンビニスイーツじゃ怒りは収まらないどころか火に油注ぐ感じかもな」
コンビニは素通りして近所のスーパーに向かう。確かあそこのスーパーは取扱商品が豊富だったと思うから。
深夜ゆえしんとしているスーパーの冷凍庫の扉を開けて、とりあえず売っていた小さな高級カップアイスを10種類各1個ずつカゴに入れた。なかなかの出費になるけどこればかりは仕方がない。
真冬に買うものではないかもしれないけど、ケーキの次に玲華の好きなものがこれなので間違いではない気がする。
時刻も1時近くなので玲華が起きているわけないだろうから兎に角いつもより静かに部屋に入る。これまた静かに冷凍庫を開けて買ってきたものを全部キレイに並べて仕舞っておく。
「ん?」
ダイニングテーブルの上にはちょっとお値段のいいユン◯ルが置いてある。ついでにマム◯ドリンクも2本。
これはあれだよな。仕事で疲れているから栄養補給的な。
つっか、行為の最中に寝たのはやっぱり根に持っているのかなぁ……。
謝罪のお手紙といっしょに念の為、専用のスプーンってやつを貰ってきたのでダイニングテーブルに10本置いておく。これで気づいてはもらえるだろう。
シャワーを浴びて玲華を起こさないようようそっとベッドに潜り込む。ダブルベッドに一緒に寝ているからそこは毎回気を使っている。
「んんん、よっちゃん? おかえりー」
寝ぼけ声で迎えてもらう。
「ただいま。ごめん、起こしちゃった?」
「平気ぃ。今日も終電?」
「うん、トラブっちゃって」
「お疲れ様。明日はリモートワークだよね」
「うん。朝は起こさないでいいから、ごめんね。おやすみ」
「んー」
すぐにスースーと寝息を立て始める玲華。今の調子ではラインの通り蟠りはなさそう。でも単純に寝ぼけているだけかもだから安心はできない。
とはいえ、疲れたし今日はもう考えるのをやめて寝る。もう寝る。三杉には今度牛丼奢らせてやる……。
ゆっさゆっさとすごい勢いで揺り起こされる。なんで? 今日はリモートで9時過ぎに起きれば間に合うのに。
「ねえ、よっちゃん! あれ何? ねぇ、冷凍庫のあれ。もしかして全部わたしが貰ってもいいの?」
「冷凍庫? あれ? ……あ、ああ。全部玲華のもんだよ。なんていうかお詫び、です」
「詫び石ですかー!? 詫び石ですねー! 了解です! やったー、今日はお仕事頑張れる気がするっ!!」
「左様ですか。それは何よりです……」
玲華は「いやっほー」って言いながら出社していった。ご機嫌はすっかり直っているようで良かった。
俺も今日は残業ないし、睡眠欲、食欲が満たされたらもう一つもしっかりとリカバリーしておかないとな。この前は中途半端で余計にオアズケ状態にしちゃったもんな。
「このユ◯ケルって直前がいいのかな? マ◯シも飲んだら飲み過ぎだろうか。いや、二回戦目での補給って言う感じでいいか」
やはり仲良しが一番いいよな。今夜こそ頑張らないと!
同棲している彼女を激怒させてしまったらしい 403μぐらむ @155
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