その悪役令嬢はざまぁする

藍無

第1話 悪役令嬢に転生

「ルシア、愛してる。」

そう言って、アイロスが抱きしめてくる。

ローブの留め具がぶつかって痛い。

っていうか恥ずかしい。

顔が赤くなるのが自分でわかる。

というか、どうしてこうなったんだっけ?

思い出そう。

確か、私には前世の記憶があった。

それで、前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に、転生してしまったんだ。

えっと、確か今私を抱きしめているのは乙女ゲームのラスボスキャラ――アイロスだよね?どうしてこうなった?

――――

私には、前世の高校生として生活していた記憶がある。

そして、私は悪役令嬢として今転生したのだ。

それでここは、悪役令嬢である私やヒロイン、攻略対象達の通う魔法学園__の、部屋の中にある鏡の前。

やばい、超うれしい。

いつか、悪役令嬢に転生したいと思っていたんだ。

私は、前世からずっといつでも堂々としていて一切おどおどしない誇り高く、気高い性格のこのゲームの悪役令嬢が大好きだった。

ずっと、憧れていた。

いつか、自分もそうなりたいと思って。

よし、転生できたんだから、一度は言ってみたかったゲームでの悪役令嬢のセリフをこのゲームのキャラクターに言ってみよう。

でも、今っていつなんだろう?

あのゲームはⅠとⅡがあるからなー。

どっちなんだろう。

そう思っていると、なぜか、窓の外を見なければならない気がした。

私は、窓の外を急いで見に行く。

すると、ヒロインがいじめられているのが見えた。

確かいじめている三人組は、悪役令嬢の取り巻きの奴らだよね。

もしかして、悪役令嬢がヒロインにそうするように事前に頼んでいた?

いや、ゲームでは、悪役令嬢はいっさいヒロインをいじめようとはしなかった。

その取り巻きの奴らが勝手にヒロインをいじめていただけだ。

だから、悪役令嬢はヒロインをいじめようとは一切思っていなかったのだろう。

――止めに行かなきゃ。

反射的にそう思った。

気が付いたら私は、走り出していた。

貴族のマナーでは走ることは、はしたないことなのかもしれない。

でも、私はそんなことを考える余裕がなかった。

走っている途中で驚いたような顔でこちらをみているクラスメイト達に会った。

でも、私はそれを無視して走り続けた。

だって、私がいじめられていたら一秒でも早く、誰かに助けてほしかったから。でも、助けてって言えないんだよね、きっと。。私もそうだった。

だから、私が助けに行く。

言われなくても、たとえそれがおせっかいでも、助けたい。

私が必死の形相で走っているのを、攻略対象達が驚いた様子で見ている。

「おい!ちょっと待て!」

攻略対象の一人目_第一王子のルファスがそう言って私を止めようとする。

私はその静止を振り切ってヒロインの元へ走る。

私が、ヒロインの前へ着くと、ヒロイン_ミルフィアは驚いた様子でこちらを見た。

それはそうだろう、今まで敵だと思っていた人が、絶対に走ったりしないような人が急に走ってきたのだから。

「「「ルシア様!?」」」

三人組が驚いた様子でこちらを見ている。

「三人とも、やめなさい!」

「え、、、っと、何のことでしょうか?」

「とぼけても無駄よ!ミルフィアのことをいじめていたでしょう!」

「い、いやですわルシア様。わたくしたちがそんなことをする人間に見えまして?」

「正直に、言いなさい。」

私は、そう言って少しその三人組を威圧した。

「____ほ、本当に、いじめてなんかいないわ!」

「あら、そうなの。ミルフィア、いじめられていたのよね?」

私は優しい口調で、ヒロインがいじめられていることを言いやすいようにそう言った。本当は、いじめられていることは、ゲームをプレイしていたから知っていたのだが、一応聞いた。

「あ、はい。」

「嘘をつくんじゃないわよ!私たちはいじめてなんかいないわ!」

三人組のうちの一人が大きな声でそう言う。

その声に反応して、モブキャラ_クラスメイト達や攻略対象が集まってきた。

まずい、大ごとになってしまう。

面倒くさいことになりそうだ。

人がたくさん集まりきる前に何とか解決しなくちゃ。

あ、そうだ!

私は、その大声を出した一人に、耳元で

「ねえ、わかってらっしゃいますの?私はこの国の宰相閣下が父親ですの。」

と、ささやいた。

この文の意味は、なあ、わかっているよな?貴様ごとき簡単に消せるんだぞ、ということである。

「ひぃっ。」

怯えた様子でその人は後ずさりをした。

そして、

「すっ、すみませんでした!もう二度としないのでお許しをっ!」

と、頭を下げて言った。

そこへタイミングよく兵や攻略対象達が来て、いじめていた三人組をとらえる。

「詳しく話を聞かせてもらいましょうか。」

そう言って、三人組を連れていく。

これで、このいじめの件は何とかなったのだろうか。

「あ、あの。」

少し申し訳なさそうに、ヒロイン_ミルフィアが話しかけてくる。

「何ですの?」

「お手数おかけして、申しわけありません。」

「あなた、どうしておどおどしてらっしゃいますの?。」

「え?だ、だってみんなが――」

「もっと自信を持ちなさいな。あなたはここに居て良いのよ。」

私がそう言うとなぜかミルフィアは、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「それに謝る必要なんかないわ。こういう時はお礼を言いなさいな。」

「あ、ありがとうございます。」

そう言って、ミルフィアは微笑んだ。

これは、攻略対象達が恋に落ちるのもわかる気がする。可愛すぎる。

「え?あ、大丈夫_?」

そう言って、私は急いでハンカチを差し出した。

「は、はい。だい、じょうぶ、です。わ、私――。」

そう言って、私の渡したハンカチでぽろぽろとあふれる涙をぬぐう。

一体どうしたのだろうか_?

「お前、ミルフィアに何を言った。」

そう言って、一人目の攻略対象_ルファスが私のことをにらみつける。

「あら、嫌ですわ殿下。私は何もしてませんわ。」

「嘘をつくな。お前がミルフィアを泣かせたんだろう!」

「や、やめてください!」

大きな声でミルフィアがルファスにそう言った。

驚いた顔でルファスが、

「一体どうしたんだ?何があったのか素直に教えてくれ。」

と言ってルファスがミルフィアの方に近づく。

「ルシア様は!私が、その三人組に、いじめられていたところを助けてくれただけなのです!」

堂々と、ミルフィアはそう言った。

すごい、ミルフィア。

先ほどまでの、おどおどした表情が一切消え、はっきりとそう言った。

「わたしは――私は、はじめて、ここにいてもいいんだということを言っていただけたのです。今までたくさんの人に馬鹿にされて、陰口たたかれて、それでも何とかこの学園に来ていました。でもそんな私をルシア様は、ここにいていいんだ、と言ってくださったのです。私は、それがうれしくて、つい泣いてしまっただけなのです。」

「ほ、本当にそうなのか?ルシアに脅されているのではないか?」

「脅されてなんかいません!ルシア様は、そんな方じゃありません!」

ぽろぽろと涙をこぼして、ミルフィアがそう言う。

すごい。

そう思っていると、

「と、とりあえず落ち着け。」

と、泣いているミルフィアに対して二人目の攻略対象_長い青い髪に青い瞳の見た目の、アクトがそう言った。

「う、うぅ。」

そう言って、ミルフィアはその場で涙を流して泣き始めた。

 



そんなことが、昨日あったなあ。

その一件はかなり周りでも噂になっている。

それも当然なのかもしれない。誰もが悪い印象を持つ悪役令嬢の私が、ヒロイン_ミルフィアをいじめていた三人組を追っ払ったのだから。

「おい。今度は何を企んでいやがる。」

そう言って、第一王子_ルファスが歩み寄ってくる。

「あら、私は何も企んでなんかいませんわ。心外です。」

私はそう言ってそっぽを向いた。

本当のことだ。

いじめを見て見ぬふりをするのが嫌だっただけなのだ。

ルファスは、

「どうだろうな?」

と言って私の方を一瞥し、どこかへ去っていった。

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