(20)飛空術レース
「みなさんお昼は休憩できましたかー!?」
「お昼明けは早速『飛空術レース』ですから、選手だけじゃなく応援席も力が入っているでしょうね」
お昼休みを終える合図のように、実況と解説からそんな放送が入った。
私たちは解散し、私はなんだか久しぶりに青組にある自分の席に戻ってこれた。
すると、早速アイネが駆け寄ってきた。
「メア、どうでした?」
クライヴへの手作り弁当の件だろう。
アイネは目を輝かせ、返答を待っている。
「あー……喜んでもらえた、かな」
「それなら良かったわ。メアが早起きしてあんなに頑張っていたんですもの。文句でも言おうものなら、私が怒るところでしたわ」
「あはは、ありがと」
どこまで本気かわからないが、アイネが怒ったらそれはもう恐ろしそうなので、苦笑君にそう返した。
「あら。アルバートさん、出場なさるのね」
不意にアイネが、私ではなくその後ろを見てそう言ったものだから、私は勢いよく振り返った。
そこには箒を持つアルバートの姿があった。
「飛空術、そこまで得意じゃないから緊張しちゃうけどね」
穏やかに笑いながら謙遜するアルバート。
正直言ってアルバートの飛空術は、よく先生からお手本になると言われているほど模範的な乗り込なしをしている。
今回の試合でも、安定した飛空術を見せてくれるだろう。
その対極にあるのがクライヴだ。
彼の飛空術は独特で、基礎とは程遠く、かつ運動神経が良くないとこなせないような乗り方をよく見せている。
どこまでも反対である二人なのだが、ふと気付くと、『飛空術レース』の選手としてクライヴも参加しているのが見えた。
「わ……クライヴ先輩も参加するんだ」
「ああ、そうみたいだね。彼の飛空術は凄いから、蹴落とされないようにしないと」
遠くにいるクライヴは、私たちの視線に気付いたのか、とくにアルバートに向けて見下すような視線を飛ばしていた。
「あはは……クライヴ先輩、余裕そうだなぁ」
「でも俺にはメアたちの応援があるから、勝ってみせるよ」
真っ直ぐとした眼差しでそう言われてしまっては、胸もときめくというもの。
私はついアルバートの誠実な笑顔に見惚れてしまった。
遠くからクライヴの舌打ちが聞こえたような気がしたが。
***
「いやー、今年も良い選手が目白押しですねー」
「やっぱり注目すべきは身体能力トップクラスのクライヴ選手と……安定感と頭脳に長けたアルバート選手でしょうか」
これから行われる『飛空術レース』は、単純に言えば箒に乗って校庭を一周しゴールまで向かうレースなのだが、魔法での妨害行為がOKとされている。
使っていいと許可されている魔法はあらかじめ決められていて、その辺りは先生も厳しくチェックしている。違反があれば退学も有り得るぐらいに。
そういったレースだからこそ、純粋な徒競走などとはまた違った盛り上がりを見せるのだ。
「プリンスー! 頑張ってくださーい!」
「アルバート先輩、がんばれー!」
「クライヴさーん、見せてやってくださーい!」
「クライヴ先輩、がんばってー!」
実況と解説が紹介していた通り、応援席からの声援はほとんどアルバートとクライヴに二分されている。
そして私は、どちらを応援するか迷ってしまった。
チームとしてはアルバートを応援するのが当然なのだが、これまでの付き合いから、アルバートを応援するときっとクライヴは拗ねるだろうという予感があった。
(偽りの恋人なのに、何故か拗ねるんだよね……)
そんなクライヴも男子高校生らしくて、面倒臭いけど可愛いとは思う。
せっかくなので両方を応援しようと腹を決めるのと同時に、レースは開始されようとしていた。
「位置について、よーい……」
さっきまでの声援が嘘のように、会場中が静まり返る。
そして。
パンッという音と共に、箒にまたがった選手たちは一気に飛び出した。
「ついに開始されました、『飛空術レース』! 今のところそこまで差は出ていないが……おおっと頭一つ抜き出たクライヴ選手に、アルバート選手からの魔法が飛んでくるー!」
「さすがアルバート選手、判断が早いですね。狙いも的確で、あれでは避けるために大幅に減速しなければならない」
「他の選手もこの隙にと前に出ますが……おおっと! 立て直したクライヴ選手が、同時に妨害魔法を放っています!」
正直に言うと、魔法を使えない私からすると目の前で繰り広げられている光景は物凄いものだった。
箒に乗りながら滑走し、花火のように色とりどりの魔法が次から次へと打ち上がる。
さすが、参加選手は3年生以上からと決められているだけある。こんなハードなレース、1年生と2年生には荷が重すぎるだろう。
「クライヴ選手の魔法がかなり痛手だったのか、脱落した生徒が多数出ています!」
「しかしその隙にアルバート選手が前へ出ていますね」
「クライヴ選手、させるかよと言わんばかりに猛スピードでアルバート選手に喰らい付く!」
「残り100M!」
会場中が物凄い盛り上がりを見せている。
それに合わせ、戦闘を走るクライヴとアルバートのボルテージも最高潮なのが見てわかった。
だから思わず私も立ち上がり、精一杯の声援を叫んだ。
「クライヴ先輩! アルバート先輩! がんばれー!」
自分にしてはかなり大きな声を出した。勝負に熱中している二人にはきっと届いていないだろう。
それでも声援を送らずにはいられないぐらい、二人の本気が私の心を動かしたのだ。
「さあ勝利の女神はどちらに微笑むのか!?」
「今っ……ゴールいたしました!」
物凄い速さでゴールへ飛び込んでいった二人は、肉眼で見て同着レベルだった。
ゴール付近では肩で息をする二人の姿。
会場中が固唾を飲んで見守る中、先生たちが魔法を使って判定を下す。
「結果は……今出ました。これは……」
「クライヴ選手! 数ミリ差でクライヴ選手の勝利となりました!」
一瞬にして赤組の応援席から割れんばかりの歓声が上がった。
青組、黄組から落胆の声が漏れるも、すぐに二人を称える拍手へと変わる。
本当に凄い勝負というのは、こんなにも多くの人の心を動かすのだと改めて感動した。
(イベントシナリオを読んだだけじゃ伝わらない……こんなに感動するだなんて……)
胸が熱く、目頭にじんわりと涙が浮かんだ。
テキストだけではわからないリアルの凄さに圧倒されたからだ。
「メア!」
突然、歓声を掻き分け名前を呼ばれた。
そちらを見ると、箒に乗って飛んできたクライヴの姿があった。
太陽を背に満面の笑顔を浮かべるその姿が格好良くて見惚れていたら、私はいつの間にかクライヴに抱きしめられていた。
「えっ、ええ!?」
「応援ありがとよ。俺の方を先に呼んだだろ?」
「そ、それは……」
「ははっ、間抜けな顔」
またしても私の表情にツボりながら、クライヴは優しく私の頭を撫でた。
全校生徒が見ている前で恥ずかしかったが、それでも屈託なく笑うクライヴを前に、拒否することなどできなかった。
魔法学園に転生して俺様王子と偽りの恋人になったら何故か逆ハー溺愛ルートに入りましたが!? Q歩 @q-ho
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