等価交換と死に神
えるす
等価交換の死に神さん
等価交換の死に神さん
突如、生理的嫌悪感を覚える音が耳元で鳴り響いた。いわゆるサイレンのような音。
俺は夢の世界から切り離されて飛び起きる。枕元で震えるスマホの画面を確認すると、真っ黒な画面に赤い帯、そこに白い字でこう書いてあった。
国民保護に関する情報
国外より、飛翔体が発射されました。建物の中もしくは地下に避難して下さい。
繰り返す警告音と非常事態を表す文字。
突如降りかかる非日常に驚いた。何処かへ逃げた方が良いのだろうか、それとも家の中にいるべきか。
さっとカーテンを開けた。俺の家は大通りに面しているので、交通量は多い。飛び込んで来た朝の日差しに顔をしかめながら外を見やる。
二階にあるこの部屋の窓から、見下ろすように観察するが、逃げるような素振りを見せる人はいなかった。全く普段通りの日常だ、そう普通の平日の朝。
故障か、誤情報だろうか。
しかし、アラートの内容が訂正される事は無い。部屋の時計を見る、8月8日10時12分。誰かに相談しようと思ったが、父親も母親も仕事に出ている。それに本当にミサイルが落ちて来るのだとすると、どこへ逃げろというのか。
ピピピピッピピピピッ
聞き覚えのある電子音が鳴り出した。
ワンッワンッワンッ!
階下からだ。
固定電話の呼び出し音と、それに反応してチョコが吠える声。
アイツ電話の呼び出し音にだけは、未だに反応する。何度教えてもダメだった。馬鹿犬かと思ったけれど、他の吠え癖は治ったんだよな。
「うあぁー」
溜め息なのか深呼吸なのか、どちらともとれない声を出して、背中を伸ばしながらリビングに向かった。
チャチャチャッチャと小型犬がフローリングを引っ掻く音。はいはいと、尻尾を振りながらまとわりついて来るチョコを手で制しながら、受話器を取った。
「はい、もしもし」
「おう隼人か、お父さんだけど。アラートは鳴ったか?」
「ああ、うん」
「念の為にテレビを付けてリビングにいなさい。外に出ないようにな」
「はいはい、了解」
「うん。それじゃあ、お父さん仕事だから」
返事を返すと、すぐに電話は切れた。
指示通りテレビの電源を入れる。そこでもスマホの画面と同じ画面が表示され、建物の中に避難せよと繰り返している。
テレビの正面のソファに座ると、チョコが足元にやって来た。抱き上げて、隣に座らせて撫でてやった。
チョコは柴犬だ、黒い柴犬でチョコレートを連想したからチョコ。いや本当は柴犬と何かのミックスなんだが良く知らない。貰って来た時には、そんなに詳しく説明はされなかったからな。
テレビのチャンネルをいくつか変えてみるも、面白そうな番組は無かった。どの局も不安を呼び起こす黒い画面の説明だ。
「あーあ」
ソファから立ち上がる。
冷蔵庫から清涼飲料水を取り出して、コップに注いだ。寝起きで喉がカラカラだ。
グッと一息。
今日は早く起こされたし、勉強でもするか。
一応、俺も受験生なんだよな。10時過ぎまで寝ていたのだが、俺の中では早起き。
夏休みってそんなモノだよね。
と、その時。
それまで尻尾を振っていたチョコが突然、耳を立てて天井を睨むように見た。何やってんだ、と思ったその次の瞬間。
バッと視界が白く染まった。
……
遠くから、あの不安な音ではなく今度は救急車のサイレンが聞こえて来た。なにかが忙しなく動き回る音がする。水の中で聞くようなこもった音だ。
目を開こうと思ったが、どうも上手くいかない。視界は真っ白なようで、真っ暗なようでもある。
「……だめか」
「……こっち……は……」
何も見えない。
ふわりと宙に浮く感覚。
すると瞼(まぶた)の裏側に、痩せっぽっちの老人に墨をぶっかけたような男が現れた。
なぜか「ああ、死神だな」と思った。
その死神は言った。
「ソレは今死ぬ。それを、覆したいのであれば、覚悟が必要だ。契約、等価、交換」
口を動かさないまま、死神は語った。聞こえたと言うよりも、そう感じた。
等価交換、なんだそれは、生きたい。とにかく助けてくれ!魂でもなんでもやる!そう念じる。
「で、あれば。10分」
「それだけの時間を使うと良い」
死神は低いくぐもったような声でそう告げる。そして、高速で景色が逆転していく。
俺は、テレビを消し、受話器を置き、逆(さか)しまに歩いてベットに返った。
そう、時は遡ったのだ!
再び生理的嫌悪感を覚えるサイレンが、耳元で鳴り響く。俺は飛び起きた。同時に枕元で震えるスマホに手を伸ばす。
しかし俺の手はそれを上手く掴めず「すり抜け」た。一体なんだ?何度か試すが、スマホを持ち上げる事は出来ない。
遅れて俺に重なるように、もう一人の俺がスマホを手に取った。真っ黒な画面に赤い帯。
国民保護に関する情報
国外より、弾道ミサイルが発射されました。
建物の中もしくは地下に避難して下さい。
そこには、そう書いてあった。
もう一人の俺が、緩慢な動作でカーテンを開けて外を見ている。
そう俺が、俺が二人いる?
『どうなっているんだ!?』
改めて、自分の両手をまじまじと見つめた。
なにかおかしい、そう半透明に透けて向こう側が覗けている。身体は、まるで幽霊のようだ。だとしたら、今そこで動いているのは生きていた俺なのか。
やっぱり死んだのか。俺は死んで、幽霊になった。そう言う事なのだろうか。
ワンッワンッワンッ!
階下より、電話とチョコの声。
先程と同じ10分間をなぞっている。
「うあぁー」なんて声を上げながら、生きている俺が、階下に歩いて行く。それにならって、後を追う。
ワンッワンッ!
扉を開いた瞬間、チョコが彼に駆け寄った。
はいはいと言いながら、それを手で制した彼は、電話に出る。
二言三言、応答した後、受話器を置いた。
父親からの電話だったのだろう。
彼はソファに座って、吠えるチョコをなだめながら、テレビを見ている。
その姿をぼうっと見ていた俺だったが、ハッと気がついた。
『……だめだ!』
このままではミサイルが降ってくる。
どうしても、この生きている俺を家から退避させないと!
『おいっ!逃げろ!!』
もう一人の俺の耳元で叫ぶ。早く逃げろと言いながら、少し前まで俺だったモノを平手で打ち付ける!
しかし、いくら大声で叫んでも聞こえない。
いくら力いっぱい拳を叩きつけても、半透明な俺の身体は透き通って、衝撃を与える事は出来なかった。
『はぁっはぁっ』
ならばとテレビのリモコンや、ドアなどを蹴ってもみる。しかし、なにもかも突き抜ける。何も起こらない。動かせない。
手当たり次第に、家の中のモノに触れてみる。植物、水道、チョコ、ポット、ガラス。
何一つ手ごたえがない。
何も動かせないし、声も聞こえない。八方手ふさがりだ。
そうこうしているうちに、彼は席を立ち冷蔵庫の飲み物をコップに注いでいる。
もう間に合わない!
『逃げろ!逃げろ!!』
『逃げろってーー!!動けええーー!!!』
あらん限りの大声で、肺の中の一滴の空気すら絞り出す大声で、叫んだ。しかしそれは彼の髪の毛の一本すら動かす事は叶わなかった。
バキバキバキバキッ!!
突如、天井が一瞬で砕けて落ちた。天より飛来する何かが我が家を二つに引き裂いたのだ。ブワッと何もかもが宙に浮き、爆ぜる。
それは俺の肉体も例外ではなく。
……
遠くから救急車と消防車の音。
壊れた時計は、10時22分を指している。
間に合わなかった。
家の外から、どうなっているのか、状況を見た。
何か飛来物、いわゆるミサイルの破片が落下して、運悪く俺の家を直撃したらしい。
爆発などは無かったが、家が一軒まるごと潰れてしまっている。
野次馬が集まって来た。
人を掻き分けて、捜索する救急隊員が俺の姿を発見した。
それは、すでに半分しか身体が無かった。
アラートが耳元で鳴り響く。俺はゆっくり起き上がった。確認するように伸ばした手は、スマホをするりと通り過ぎた。
もう一人の俺がスマホを手に取った。真っ黒な画面に赤い帯。
先と同じ光景が、同じ朝が始まった。
何も触れない、何も語れないこの身体で、10分間の時間が何をせんと言うのか。
諦めかけたその時、シャッと開いたカーテンを見て思いついた。もし俺が幽霊なのであれば、それに気がつく人間がいるかもしれない!
窓を通り抜け、二階から外に飛び出した。
音もなく、庭に着地する。
この身体は、随分自分勝手にできているようだ。何者にも触れられないが、地面を通り抜けて落ちたりはしないらしい。
そんな事は今は良い、周りの人間にコンタクトを取るんだ!
『おいっ!』
『ちょっと聞いて!』
『待って!』
いくら声をかけても気付く者は居ない。
それどころか、ぶつかっても身体は何事も無かったかのようにすり抜けてしまう。
何度も、何度も、何度も全て!
『うあああああー!!』
歩道に立ちすくみ、大声で一人吠えた。しかしその声は、何者にも届く事は無い。
このまま何も出来ないまま、死を待つしかないのか。他にやれる事は。
ふらりと、車道に飛び出す。
ごぉっと大きな音を立てて、トラックが突っ込んで来た。しかしそれはクラクションを鳴らす事もなく、ブレーキを踏む事も無く、そのまま何も無かったかのように通り過ぎた。
一台、二台、三台。
何の抵抗も無く、全てが通り過ぎていく。
そして、あの瞬間が訪れた。
ばっと大きな銀色の破片のようなモノが、俺の家を直撃した。どぉんと大きな音を立てて、砂煙が上がる。車道を走る車は何事かと、ハザードをたいて路肩に止まった。
『あああああああーーっ!』
『何でっ!こんなっ!意味がないじゃないか!!』
天を仰いで、叫んだ。
『何も触れられない、何も語れない、これでは何も変えられない!』
『何度やっても同じだ、死神っ!もう終わらせてくれっ!!』
あの黒い、墨を塗りたくったような老人に吠えた。この意味のない繰り返しを終わらせろと。
その時、心臓をぎゅっと握られたかのような感覚。振り向くと、後ろに例の死神が立っていた。
「終わらせ、ろ?」
『そうだ、意味がないじゃないか!何度やっても同じだ』
「お前、には、その権利はない」
『権利?』
「そう、だ。お前、まさか、私と契約したつもりでいた、のか」
口をつぐんだ。契約とは、魂を取るとかじゃないのか。こいつは一体何を言っているのか。
『……』
「穢れた魂。お前のようなモノの魂が、価値があると。思っていたのか」
「時間、だ」
再び、時が戻った。
アラートが耳元で鳴り響く。俺は天井を見上げていた。無力感から俺は、スマホを手に取ろうとする事すらしなかった。
もう一人の俺がスマホを手に取った。真っ黒な画面に赤い帯。いつものそれだ。
俺に終わらせる権利がない、では誰にある。
死神は何を言っている。
何もわからない。
ピピピピッピピピピッ
音に導かれるように、もう一人の俺は階下に向かう。無意識に俺はそれに従った。
かちゃんとリビングのドアを開けると、チョコが俺の肉体に噛み付いた。低いうなり声を上げて、ズボンの裾に。
「おいっ、何してんだよ!」
彼はそう言ってチョコを振り払う。
パッと離れた後、もう一度噛みつき引っ張った。そう玄関の方へ。
まさか。
ピピピピッピピピピッ
「チョコっ!電話だからっ!」
ワンッワンッ!!
二つ吠えて、もう一度裾を引っ張る。
「もうバカ犬っ!」
それは力づくで引き剥がされた。
そのまま、もう一人の俺はチョコを抱き上げてゲージに入れた。かちゃんと軽い音を立てて閉められるゲージの扉。
ピピピピッ
「はいはい」そう言って、親父からの電話に出るもう一人の俺。ぶわっと背中の毛が逆立つ気がした。
チョコが、俺を助けようとしている?
ゲージの中で、必死に吠えて何かを訴えかける。しかしそれは俺には、生きている俺には伝わらない。
「普段全然吠えないのに、どうしたんだよお前。アラートが怖かったのか?」
そんな事を言いながら、ゲージの前にしゃがみ込んでいる。
『おい!逃げろ!チョコを連れて家を出ろ!』
俺とチョコが必死で、俺を説得する。しかし、何も伝わらない。言葉も、気持ちも、想いも!
こんなに歯がゆい思いをした事はない、自分の姿に腹が立つ。
『クソッ!わからないやつ!!』
10時22分。
そうしていると、あの瞬間がやってきた。
轟音と共に、裂ける空と、浮かび上がる地面が混ざり合うあの瞬間が。
……
死神が立っていた。
「お前は、黙って、見ていると良い」
全てが巻き戻った。
うおおん、アラートが耳元で鳴り響く。俺は飛び起きた。もう一人の俺がスマホを手に取るのを待たずに、階下へ落ちるように移動した。
扉を開ける必要も無い、便利な体だ。
リビングの真ん中ではチョコがウロウロ、ウロウロ同じ場所を回っていた。何かを考えるように。
その姿に、俺は声をかけた。
『もう良いよ。お前だけでも逃げろ』
しかし俺の言葉は、当然のように彼の耳には届かない。彼はずっと同じ場所を回っている。何を考えているのだろうか。
突然、何かを思いついたかのようにチャッチャッチャと爪音を立てて駆け出した。
電話機の近くに寄ったチョコは、棚の裏を掘るようにして前足を忙しく動かしている。
なにをしているのか。
そう思って見ていると、棚の裏から電話線を引き出した。あっと制止する間も無く、それを噛み千切る。
はっとした、電話が鳴らなければ、鳴き声が無ければ、俺は自室から出なかったろう。
そうした後、彼はにわかに窓に駆け寄り今度は網戸を掻き毟る。ガリガリと、爪を立て、牙を立てた。
慣習として夏は網戸で開けっ放しだった。
『そうか、そこから逃げるんだ!』
鬼気迫る表情で、繰り返す。ぞんがい網戸は頑丈で、爪が剥がれ血が出た。しかしそれでも唸り声一つ上げずにやり切った。
身体一つ分の穴を開け、そこから家の庭に飛び出した。ついにやったのだ。
時刻は10時17分。五分後にアレが来る。
『逃げろチョコ!まだ間に合う、ここから離れて!』
その声は、やはり彼には届かない。
庭に出たチョコは、二階の俺の部屋を見据えて、大きな声で吠えた。
ワンッワンッワンワン!!
しかし、音量の問題か、外の喧噪に紛れてか二階の窓にはカーテンがかかったままだ。
諦めずに、外を見ろと叫び続ける。
アウー!ワンッワンッ!!
あらん限りの大きな声で吼えたてる。
それでもカーテンは開かない。
前足の爪から血を流し、俺に必死に呼びかける姿。じわり涙が出てきた、視界が滲む。
『もういい、もう良いよチョコ。頑張ったじゃないか、俺なんかもう放っておけよ』
向こうが透ける手のひらを、ひらりひらりと仰ぎながら、そう語りかける。それは彼に対してか、自分自身に対してなのか。
アウッアウー!ワンワンッ!!
彼は止まらない、しかし。もう二、三分しか時間は無いだろう。無理だ。
気がつく筈が無い。
半透明な身体で地面にしゃがみこみ、そう半ば諦めた。小さな体で、頑張っている彼を見ながら。
ふっと鳴き声が止んだ。
彼も諦めたかに見えた。
その時思った。飼い主に似るって本当なんだな。チョコがふらりと車道に飛び出したんだ。突っ走るトラックは、急には止まれない。
『やめろおおおおおっ!!』
俺の時と違う、チョコを見つけたトラックは大きくクラクションを鳴らして、ブレーキを踏んだ。
そうだ、大きな音で。二階にまで響き渡るような。
にわかに辺りに響き渡る轟音、その後にバンッと軽い音がした。やけにゆっくり、彼の身体は宙を舞った。まるで時間が、動く事を忘れたかのように。
『うわああああああああっーー!!』
半透明の身体を必死に動かして、彼に駆け寄った。
すでに息は絶え絶えで、その身体の下半分は失われていた。誰の目にも助からない事は明らかだ。
『おいっ、チョコ!おいっ!!』
声をかける、しかしそれは届かない。
手を触れようとも体は透ける。
その時バンッと俺の家の玄関の開く音。
気がつけば二階の俺の部屋のカーテンは開け放たれている。
そこから、もう一人の俺が駆けて、そして半透明なこの身体と重なった。俺は一つに。
「聞こえるか!?おいっ!チョコ!?」
ピクッと耳が震えた、聞こえたのか。
手を差し伸べて軽い身体に触れる。べとりとした血が手に触れた。
必死で呼びかける。
薄っすらと目を開けたチョコは、嬉しそうに俺の手を、ぺろっと舐めた。
「等価、交換、」
黒い老人は、そう言い放つと、何も残さず消えて無くなった。
ぼくは、産まれた時から真っ黒な穴の中だった。産まれながらに死んでいた。
生きていながら、生きていなかった。
そして気がつくと、檻の中だった。
ぼくの半生は、冷たい穴と檻それの繰り返しだ。
でもある日、人間の少年と出会った。
彼はぼくを連れて行くと言った。
ぼくは、真っ暗な穴の中に落とされるんだと思った。そうしたらもうこの檻の中には帰ってこなくて良くなる。
となりのおじさんも、もう一つとなりのおばさんも、帰って来なかった。人間に呼ばれて、連れていかれて、帰って来た仲間はいなかった。
ぼくは、ついにぼくの番が来たんだと思った。
それで良かった。
でも違ったんだ。
ぼくはその日、「チョコ」と名前を貰った。
前にも他の名前があったと思うけど、これほど嬉しい名前はなかった。だって、それらは死んでいるモノの名前だから。
だからぼくは、「チョコ」になった日に生まれたんだと思った。「チョコ」と言う言葉が世界で一番好きになった。
そりゃそうだよ。その言葉が出ると、楽しい事が起こったんだから。
チョコご飯だよ、チョコ散歩に行くよ、チョコ一緒に寝よう。チョコ、チョコ……。
だから、ぼくはあなたに、全部をあげてもちっとも惜しく無い。
あなたの為なら、なんでもできる。あなたの喜びが、ぼくの喜びなんだから。
ふわりと大好きな匂いが流れてきた。
身体が軽くなる、「…………コ」
薄っすらと目を開けた、そこには世界で一番大好きな人間がいて、世界で一番大好きな言葉を言った。
「チョコ!」
ああ、本当に、嬉しくて堪らない。
着慣れないスーツに、ネクタイを締めた。
鏡を見ながら、自分の姿を確認する。
我ながらピシッと決まっている。俺は、今日から大学生になる。
今思い返すと、チョコが亡くなったあの日の事件。家に飛来物が落ちたあの事件。
夢では無かったのかと思う時がある。
人の記憶とは儚いものだ。
あんなに大きなニュースになったのに。しばらくうちの周りはヘリコプターだらけで、うんざりしたものだった。
今では家の跡地も静かなものだ。親父の話だと、あの場所でまた建て替えるらしい。
時計を見る。そろそろいかないとな。
「チョコ、行ってきます」
そう言って、ぱたんと自室の扉を閉める。
机の上のチョコの写真立て、それが僅かに動いたように見えた。
等価交換と死に神 えるす @els_kakuyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます