第3話 ジュリ
慢性的な寝不足は自覚していたが眠る事が怖かった。
バーでの仕事終わりでもそのまま帰る事が不安になり、呼ばれるとセフレの元へ行った。タイミング次第では家に呼ぶ事も多かった。
セフレが掴まらなければ出会い系の飲み屋に行き、ボーッと待つ。
無表情で不思議な雰囲気のツキは逆に目立つらしく、声を掛けてきたワンナイトの相手とただ夢を見ない為だけのセックスをした。
他人に対して無関心なツキは性別では男女関係なく寝る。
男なら抱かれ、女なら抱ける。
ツキからするとこんな行為はただ少しでも気持ちよく眠る為の『運動』でしかなかった。
『どうでも良い…。』
いつもそう思いながら、ある程度疲れると
『あと少し…』
と、一日のタスクをこなす為に相手を探した。
相手の気持ちも自分の気持ちもどうでも良かった。
・・・・
「おつかれー。待ってたよー♡」
セフレのジュリが満面の笑みで出迎えてくれた。
「うん。」
それなりに働いた疲れもあり、少しボーッとしながらも明らかにオシャレなマンションの室内へ入っていく。
広々としたリビングに荷物を置いてからジュリを抱きしめた。
ジュリとの付き合いは二年になる。
裏表が無く、サバサバした性格のジュリは夜職のキャバ嬢。
同伴で立ち寄ったバーにいたツキに興味を持って声をかけて来た。
その時は同伴そっちのけでツキへ質問責めをするジュリに押され、いつもは客に対して無関心なツキも同伴客を可哀想に思う程だった。
それ以来ヒマさえあればバーへ来るキャバ嬢の巧みな話術で、上手く眠れない事をジュリへ話してしまっていた。
内心、『この子すごく売れてるだろうな…』と思った。
本命は別にいるにも関わらず、ツキへ猛アタックのジュリ。
ツキ自身も眠れなくなってから来るもの拒まずな事もあり、同情なのか、ただの好奇心なのか、ジュリの提案ですぐにセフレになった。
ジュリは気まぐれにマンションへ呼びつける。
でも他の人と被ってしまっても怒らないので、一番付き合いの長いセフレになった。
ジュリは出会ってから殆どツキへの態度が変わらない。
ただ少し変わった事というと、ツキを愛玩ペットの様に扱う。
裏表の無い小悪魔なジュリとも身体の関係を持ちつつも、ツキにとっては珍しく、最近では聞かれた事に対しては比較的素直に気持ちを話せる相手になった。
それでもセフレとの時間にはほぼ思考が停止している為、ツキの口数は極端に少ない。
それでもいつもにこにこ出迎えてくれるジュリの事は嫌いではなかった。
「ツキー早くやろっ♡」
いつも明るくノリノリのジュリ。無反応なツキを気にする事も無く嬉しそうだ。
軽くシャワーをしてから、すぐにベットで2人の時間を過ごす。
ジュリの反応に合わせて動く。
そこでやっと体力と意識の限界が来て、果てると同時に気絶する様にツキは眠りについた。
「今日もお疲れ様。」
いつもの様に既にツキの寝息が聞こえる。
ベットの上で全裸のツキが丸く縮まって猫の様に眠り始めた。
ジュリはそっと起き上がり、身体にローブを着てからふわふわな毛布を掛け直してあげると優しくツキの頭を撫でた。
翌朝、ツキの意識が戻ると隣には寝息を立てながらすやすや眠るジュリがいた。
夢を見ずに眠れた事に安堵する。
のっそり起き上がるとそのままシャワーへ行く。
着替え終わり気持ち良さそうに眠るジュリから視線を外すと静かに部屋を後にした。
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