第2話 向かう先


元気な子ども達の笑い声が聞こえてくる。


暑い夏も落ち着き、夕方自由に外で遊ぶ保育園の子ども達の姿を見ると自分とは真反対のキレイな世界が見える様な気がした。

キレイな世界に入る事で汚い自分も誤魔化せる様な気持ちになった。


「せんせー!こっちきてー!」

自分の手を引きながら無邪気に誘ってくれる園児達。

専門学校には通っていたが、

『こんなクズな自分には務まらないかもしれない…』

と、始めは消極的だった保育の仕事もすでに10年以上続いている。

続ける事で、子ども達の成長を見守るやりがいも見つけられた。


相変わらず醜い自分が顔を出す度に誰でも良いから関係を持っていた。

ただ、保育園には迷惑をかけ無い様に身なりや体調には自分なりに気をつけていた。

専門時代には転々としていた夜職も、5年程前からバーのマスターのご好意で不定期に働かせてもらっている。

昼間も働き、夜も働いていた事で突発的に体調を崩した際、普段は優しいマスターにとても叱られ、何故そんなに働くのか理由を聞かれた。

本当の事は言えず『母子家庭で貧しかった生活の事』を話すと、「わかった。でも無理だけはしないで。」

と、不定期でも働かせてもらえる様になった。

他人に心配してもらったのは恋人以来。

久しぶりの事で素直に嬉しかった。

バーも自分にとって特別な場所になっていた。


・・・・


今日はバー勤務の日。

「ツキー。そっちのお客様お願いなー」

と、マスターから指示が飛ぶ。


「はい、わかりました。」

頷いてからお客様が座るカウンターの前に立ち、注文を受けて提供する。

すでにほろ酔いの客に「君、可愛いねー。男の子?女の子?」と声を掛けられた。

少し照明を落とした店内と、自分の中性的な顔立ちに客はパッと見どちらか判断がつかないらしい。


「おとこ、、です…」


「そっかーお肌が綺麗だから女の子かと思ったよー」


「ありがとうございます…」

すぐに連れと話し始める客にホッとした。

性別の事はいつもどちらか聞かれているので慣れている。

悪気がない事は客の話し方や雰囲気で伝わっていたので手短かに返事だけした。

愛想が無くてもあまり気にされないのはバーの良いところでもある。

マスターが陽属性なので変に絡まれるとすぐに助け舟を出してくれるのも働きやすい理由だった。


・・・・


「おつかれー。気をつけて帰ってねー。」

「お疲れ様でした。」

今日も営業が終わったバーを後にした。

営業時間後でも夜の時間が少し長く感じてしまう。

店の裏口から出て、急に肌寒くなった夜風に当たりながら帰る。

「(この肌寒さも)案外嫌いじゃないな…」

ポツリと呟いて上着のポッケに両手を突っ込んで歩きながら空を見上げ、それでもやはり急な肌寒さに寂しい気持ちになった。

歩いているとタイミングよくスマホのメッセージが鳴る。

『終わったら来れる?』

『行く』

と返信して、そのままセフレの元へ向かった。

 これが僕の日常。

 これが普通なんだ。

 誰かにこれが正解かを聞いても意味の無い事。

 これが僕の正解。

 寂しいよ。独りは寂しい。だから自分以外の誰かが僕には必要なんだ…。

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