影踏み

@riiiiii77

影踏み

私はアイツのことが嫌いだ。


 同じクラスにシンという男の子がいた。その子は女子に対して愛想が悪い。顔は悪くないけど気に食わない。そんな理由でクラスの女子に嫌われていた。もちろん私にも。


 日本には影踏みという遊びがある。鬼役が子役の影を踏み、踏まれた子役は鬼役になるシンプルな遊び。私は昼休みに友達とよく影踏みをして遊んでいた。そんな頃にある噂を聞いた。


「頭の影を踏まれた人は死ぬらしい。」


 ファンタジーの世界ですら無理があるような設定だけど私はそれを信じてしまった。そして私は大嫌いなアイツで試したいと思った。


 ある日の昼休み、私はいつものように友達と校庭で鬼ごっこをしていた。私は足がそこそこ速かったから捕まることはほとんどなかった。だから、つまんないなと思いながら歩いていると昇降口からアイッが出てくるのが見えた。今日の花の水やり当番はアイツだったかな。

 今日は今年一番の快晴。私はアイツの影を踏みに行った。

 水やりに集中していたからそっと忍び寄り、両足でアイツの頭の影を思いっきり踏んでやった。花壇の周りの地面はコンクリートだったから大きく、ドンと音がした。その音を聞いてアイツは振り返った。私はアイツを本気で殺しにいったからアイツを睨みつけたが、アイツは私に気づくとニヤニヤ笑いだした。私の真剣さをバカにされたようでイライラした。


 それからというもの、昼休みにアイツを見かければ思いっきり影を踏んでやった。いつも私は睨みつけるけど、アイツはいつもニヤニヤしていた。そんなことを飽きずに二ヶ月続けていると放課後にアイツに呼ばれた。

 場所は図書室。図書室には放課後誰もいないから私はてっきりタイマンをするんじゃないかと思って、鉛筆を数本尖らせてポケットに入れた。

 図書室に行くと中央にアイツがいた。私はポケットに手を添えたまま近寄るといきなり頭を下げてきた。


「付き合ってください!」


 あまりにも不意打ちだった。まさか私が殺そうとしていた相手に告られるなんて。しかも初めて告られたから驚きと恥ずかしさのあまりなにも考えることができなくなっていた。恥ずかしいのは相手の方だというのに。

 アイツはずっと頭を下げ続けてなんだか私が申し訳ない気持ちになった。

 ずっとモジモジしているとあることに気がついた。


(付き合えばいつでも影を踏める!)


 この天才的なひらめきによってアイツが私に殺されるまで臨時の彼女になることにした。



 中学校に上がっても私はアイツの彼女であり続けた。私もここまでこの関係が続くことはないだろうと思っていたが案の定続いてしまった。理由は一緒にいても飽きないから。

 私はアイツの影を踏むために毎日一緒に登校し、お互いに部活のない日は一緒に帰った。そんな私達をみて冷やかしをする人もいたが私は別に構わなかった。だってアイツらは、私が彼女でいる理由を知らないんだから。


 中学二年生になると人生二度目の告白をされた。相手は同じクラスの男子。女子の間ではイケメンと騒がれていて確かにイケメンであったが特に気にはしていなかったがまさか告られるなんて思っていなかった。

 イケメンに告られるなんて幸せ者だ。

 でも私は丁寧に断った。私には影を踏むために隣にいなければならない人がいるんだから。

 

 中学三年になり進路を決める時期になった。私とアイツは違う高校に進むことになった。

 受験勉強が山場を迎える時期になると私はアイツの家に行って一緒に勉強をするようになった。もちろん集中することはできなかったがアイツの親が家にいたから遊びまくるということはしなかった。

 

 合格発表の日、私たちはそれぞれの志望校に合格したからお祝いでカフェに行った。カフェでは中学校時代の思い出を語り合い、私は塾に行かなければいけないから早めに切り上げて解散した。

 この時も別々の高校に行くことに何も感じて無くどうせいつでも会えるでしょ、そう思っていた。



 高校生になるとお互い部活が忙しくなり、土日すらも会えなくなってきていた。会えないとどんどん寂しさが増してくる。学校には友達がいるけどその寂しさは友達では埋められない。私はどうしようもなくなり夏休み中にアイツを家に呼んだ。


 アイツも寂しかったのか私の顔をみるとすぐに笑顔になった。その後、中学生のときに一緒にやったゲームをしてだんだんお互い中学生の頃を思い出してきた。そして中学生のように勢いのままにベッドに入りセックスをした。

 それが終わりお互いひとしきり休んでいると私は高校の寂しさを再び思い出した。隣にいるアイツをみるとさらに寂しさが増してくる。必死に抑えようとしても抑えられない。私はアイツの前で泣いてしまった。


 その後話を聞いてくれ自分も同じ気持ちだったと話してくれた。お互いに気持ちがつながった気がする。意識するとさらに泣いてしまった。そんな私を隣から大きな腕で抱きしめてくれた。体温が直に伝わり私を安心感で包んでくれた。寂しさは時間とともに消えていった。


 夕方になりアイツは帰る時間になった。

 私は見送りをしたがもう寂しさは消えていた。

 これからお互いに忙しくなって会えなくなるかもしれない、でももう大丈夫。


 玄関から出ると太陽がこっちを照らしていた。そして今日は今年一番の快晴だった。

 私はサヨナラの代わりにアイツの影を踏んでやった。それに気づいたアイツに私は笑顔を送り、アイツも私に笑顔を見せてくれた。



 私はアイツのことが好きだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

影踏み @riiiiii77

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ