ハムエッグ

仕事帰り、疲れ切った俺はいつもの居酒屋でハイボールを頼んだ。隣にはスーツ姿の中年男。見るからにくたびれた顔で、彼も同じものを注文した。


「こんな日には、うまいハムでもあればなぁ」と彼がぽつりと言う。俺は笑いながら答えた。

「俺も明日、朝食にハムエッグでも作ろうかな。」


すると、男は妙に真剣な顔で俺を見つめた。

「明日があると思うなよ。」


その言葉に動揺していると、男はポケットから名刺を差し出した。見ると、それは生命保険の営業マンだった。


「人生、何があるかわからない。今のうちに備えをね。」


あまりに自然な流れに苦笑しつつも、つい資料をもらってしまった俺は、結局ハムエッグのためにスーパーへ行くのを忘れた。翌朝、朝食はインスタントラーメンだった。

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