高校入学式で再会した君は俺を覚えていなかった

月影 零

第1話 『再会は突然』

桜の花びらが舞う公園の一角。そこには2人の幼い男女の笑い声が響いていた。


「逸希くん、もっとこっち!」


茶髪の元気な少女―柚葉ゆずはは逸希の手を引いて公園を走る。

逸希はそんな無邪気に笑う柚葉に対してふと問いかけた。


「ゆずちゃん、明日も遊べる?」


「もちろん! 明日もたっくさん遊ぼうね!」


満面の笑みをした少女が逸希の手をぎゅっと握る。その温もりを感じながら彼も笑みを浮かべ頷いた。

しかし次の瞬間、逸希の手をぎゅっと握っていた柚葉の手が消えた。


「ゆずちゃん…?」


その声は響かず、返事もない。公園の景色が霧のように遠ざかり逸希は立ち止まるしか無かった。

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「う…ゆずちゃ…ん……うわっ!!」


逸希ははっと目を覚ました。目の前には自分の部屋の天井が見える。


「…またあの夢か…。ったく…今日から高校生だってのに、あんな昔のことまだ忘れられないのか俺は…ゆずちゃん、どうしてるんだろうな…」


逸希がそうつぶやくと部屋のドアが思いっきり開けられる。


「ん?」


「おっはよーお兄ちゃん! 今日から高校生だってのに寝坊したらダメだよ? あたしはもう準備終わったんだからお兄ちゃんも早くしてよー」


そう言って逸希を急かすのは彼の双子の妹である琴音だ。今この家には2人だけで住んでいる。両親は転勤の多い仕事なので離れて暮らしている。


「そこまで準備出来てたんなら俺を起こしに来てくれて良かったのに」


「えぇーめんどくさい!」


そう言うが実際は毎日ご飯を作ってくれたり馬鹿みたいに一緒に過ごしてくれる可愛い妹だ。


「準備するから待ってろ」


「はーい」

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「…緊張するな」


学校の校門をくぐった2人は掲示板でクラス発表を確認した。


「お、やった! あたしたちまた同じクラスだよ! 1回も離れたことなくて嬉しいよー」


琴音は逸希の肩に手を回す。その光景は周りから見れば恋人に見えるだろう。


「ああ。って…」


逸希はまじまじと自分のクラスにいる人達の名前を確認する。


「ん?どうしたのお兄ちゃん?」


「七瀬…柚葉…」


「あー! お兄ちゃんが小学生の時公園で出会って仲良くなった女の子? 偶然高校で出会うなんて〜もしかして運命ってやつ?」


琴音は逸希をからかうように肘打ちをする。


「いやいやそんなわけ。同姓同名の人の可能性もあるし…」


そんな事を呟きながら2人は教室に入る。既に10数人はクラスにいるようだ。

2人は前後になった自分達の席に座りコソコソと雑談を行う。


「で、お兄ちゃんは柚葉ちゃんを見つけられた?」


「いやいねえよ。どうせただの人違…い…」


逸希だけでなく、教室にいた数十人もドアから入ってきた1人の女子に釘付けになっていた。綺麗な茶髪のロングと茶色の瞳、背丈や体型は変わっているが目に映る彼女は彼の知る柚葉によく似ていた。


「ゆず…ちゃん…?」

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それからしばらくして先生が来てクラスで自己紹介をする時間が始まった。

名前順に数人自己紹介していき、ついに俺の番が来た。


「初めまして。早乙女逸希です。趣味は友達と遊ぶことです。1年間よろしくお願いします」


ぱちぱちぱちと拍手を浴び、席に着く。

次は琴音の自己紹介の番がやってきた。


「初めまして、早乙女琴音です。私の趣味はお出かけしたりすることです。1年間よろしくお願いします。仲良くしてください」


こちらもぱちぱちと拍手を浴び席に着く。そこから更に数人の自己紹介が終え、遂に柚葉の番になった。


「…初めまして。七瀬柚葉です。仲良くしてくれると嬉しいです。1年間よろしくお願いします」

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入学式が終わってもなお、俺は先程の柚葉に違和感を感じていた。柚葉はいつも明るく、いつも俺の腕を引っ張っていってくれた。しかし先ほどの柚葉はその時の欠片もなかった。今日、柚葉はずっと1人で誰とも話していなかった。

俺が知る柚葉は…公園で出会った柚葉は誰にも仲良く話しかけられる人物だった。俺が公園で怪我をした時はまっさきに手を差し伸べてくれた。

そんな違和感を抱きつつ、俺は教室に戻る。すると―


「あっ…」


思わず声が出てしまった。なぜなら誰もいない教室で柚葉が机に伏せているのが見えたからだ。それに気づいた柚葉もこちらを見てくる。俺はドキッとしながらも柚葉に喋りかけることを決めた。


「えっと…久しぶりだね。何年ぶり? よく公園で遊んでたよね。君が引っ越してから俺はもう会うことができないと思ってたけど…まさかこんな形で会えるなんて…」


「あ、あの!!」


急に言葉を遮ってきた柚葉を見つめる。なんだか嫌な予感がするも気にせずに問いかける。


「どうしたの?」


「あ、あの…ごめんなさい…私あなたのこと知りません。人違いじゃないですか? 私、あなたと公園で遊んだ覚えもありません。すみません…」


…は…?

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