第18話 その奇跡の名は

 ルミナリア半島。一年を通して花々が咲き乱れる、まさに『永遠の春』と呼ぶにふさわしい場所だ。太陽の光を浴びて輝く、宝石のように美しい花々が、町全体を彩り、甘い香りで満たしている。


「この町、本当に素敵ね!」


 カーラが目を輝かせて言う。この町の香りに暖かな日差し、そして幸せなこの時間、全てを満喫しているようだった。


「ふふ、君はそれ以上に素敵だよ」

「やだっ、スタンレーったら!」


 様々な店が並ぶ石畳の大通り。カーラとスタンレーは腕を組み、揃って歩いている。その後ろを少し恥ずかしそうに歩くカサンドラ。


「あなたたち、一体いつからそんな仲になったのよ?」

「いいじゃない、別に! あんたこそ、一体いつになったらピエールとくっつくのかしら?」


 呆れたように言うカサンドラに対し、カーラはいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「ど、どうしてそこでピエールが出てくるのよ」

「だってピエール、ああ見えてやるときはやるし、しかも可愛いでしょ?」

「まあ、確かに可愛い顔だとは思ってるけど……」


 カサンドラは言い淀む。確かにピエールは優しく穏やかで、時には勇敢で、何より魅力的だった。しかしカサンドラにはずっと隠してきた秘密がある。自身の父にすら、適当な嘘をついてはぐらかしていたことだ。


「やっぱり、私にはそういうのは無理だと思うの」

「何言ってんのよ! 心に潤いがなければ、人生に虹はかからない。ピエール以上にあんたを幸せにできる子なんていないわ。断言する!」


 決して二人を信頼していないわけではないが、カーラが『魔女』と呼ばれることに恐怖を感じていたように、カサンドラもまた、それを知られてしまうことに底知れない恐怖を感じているのだ。だが、そんなカサンドラをよそに、カーラは続ける。


「幸せになるために、誰かの許可なんて要らないのよ? それにね、ピエールにはある秘密があるの。まあ皆知ってることなんだけどね、ピエールって、実は――」

「いや、でも――」


 両手を激しく振って拒否のジェスチャーをしようとするカサンドラに、カーラはそっと耳打ちした。


「えっ――」


 あまりの衝撃にカサンドラが言葉を失う。カーラに、からだ。


「な――」


 だが、考えてみれば当然のことだ。カーラは透視の魔女からカサンドラのことを聞き、その上でカサンドラの味方をしている。つまり、カーラは初めから全てを知っていながら、カサンドラに『幸せになれ』と言っていたのだ。


「なんですって!」


 そして少しの沈黙の後、ようやく驚きの声を上げた頃には、もうそこに二人の姿はなかった。どうやらどこかの店に入ったらしい。カサンドラは一人、取り残された。


「え、えっ?」


 様々な感情が入り混じり、気持ちの整理が追いついていない様子のカサンドラ。ふと空を見上げると、雨後でもないのに虹がかかっている――紛れもなく予兆視だ。だがそれは、決してありえないと言われていた、幸せの予兆だった。


≪例え貴女に特別な力がなかったとしても、僕は貴女を守ります!≫

≪い、今の言葉は忘れてください!≫


 ピエールの、あの時の言葉、あの時の表情。小柄な体型に、黄金色に輝く髪。


≪おうピエール、俺たちはあっちに行ってくるから、ちゃんとカサンドラ様をお守りしろよ≫


 今までの出来事が、今起きていることのように鮮明に、次々と蘇ってくる。


≪ピエール……お前はカサンドラ様の側にいてやれ≫

≪カサンドラ様に、生きて幸せになってもらうことが、僕の幸せなんだ!≫


 ピエールを時にからかい、時に後押しする、ジャンとレオナルドの言葉。


「……まさか、そんな」


 それらは全て、ピエールの幸せを願う『祈り』だったのだ。そしてその祈りは確かに届いている。カサンドラの耳の中では、先ほどカーラから耳打ちされた言葉が、今もなお、飽和するように反響し続けていた。


≪ピエールって、実は女なのよ≫

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エンド・オブ・ネクロマンシー -古の邪術の秘密- 植木 浄 @seraph36

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