第4話 すれ違っていたお互いの想い
「どうして私を助けたのですか?私を逃がせば、あなた様もただではすみませんわ。それなのに、どうして…」
「ガスディアノ公爵は、ジョーンに陥れられたのだよ。僕を王太子から引きずり下ろすためにね。僕さえいなければ、君も君の父上も、こんな思いをする事はなかった。だからせめて、君だけでも、そう思ったのだよ」
「そんな、確かに父はジョーン殿下に陥れられ、無実の罪を着せられました。ですがそれは、ジョーン殿下のせいであって、ダーウィン様のせいではありませんわ。ダーウィン様、助けていただき、ありがとうございました。実は私、既に死を覚悟しておりましたの。まさかこんな風に、助けていただけるだなんて」
「僕にお礼を言う必要はないよ。君がジョーンの誘いを断った事は聞いたよ。最後までガスディアノ公爵令嬢としての誇りを、プライドを守るために、自ら死を選んだと…正直驚いた。君は賢くて聡明なジョーンに惹かれているのではないかと思っていたから…」
「私がジョーン殿下をですか?それはあり得ませんわ。私はジョーン殿下の腹黒くて卑怯なところが、大嫌いでしたの。お父様もジョーン殿下を警戒しておりましたし。私はあんな腹黒よりも、不器用だけれどいつも一生懸命なダーウィン様の方が、ずっと魅力的だと思っておりますわ」
「僕がジョーンより、魅力的だって?」
「ええ、そうですわ。ただ、あなた様は私の事を避けていらっしゃる様だったので…」
「僕は君を避けてなんて…と言いたいところだけれど、美しくて聡明で、いつも凛としている君の隣に、僕の様な愚かな男が並んではいけない、ずっとそう思っていた。君はあまりにも美しくて、眩しくて。君は、父親の命令でイヤイヤ僕の婚約者になった、だから僕となるべく関わりたくはない、そう思ってあえて君に近づかない様にしていたのだよ」
「そんな、私はそんな立派な人間ではありませんわ。確かに私とダーウィン様の婚約は、父の希望でした。ですが私は、ダーウィン様の事がもっと知りたい、もっと仲良くなりたいと、ずっと思っておりました。私たちは、縁あって婚約者同士になったのですもの。相手の事を、もっと知りたいと思って当然ですわ」
「それは本当かい?僕が君を助けたから、そう思っているだけではないのかい?」
「先ほども申し上げましたが、私はずっと、ダーウィン様と仲良くしたいと思っておりました。まさかこんな形で、私の長年の願いが叶うだなんて、皮肉なものですね」
お父様が無実の罪で殺され、今私は逃げる様にこの国を出ようとしている。そんな中で、まさかダーウィン様とこんな話をするだなんて。
「すまない…僕はてっきり君に嫌われているものとばかり思っていた。まさか君が、こんな風に僕の事を考えていてくれただなんて」
「私たち、今日初めて、沢山お話をしましたね。ダーウィン様、私はこれからもっとあなた様の事を知りたいです。とはいえ、私は犯罪者の娘、かたやあなた様は王族。ですが、あの腹黒のジョーン殿下が、あなた様をこのまま王族として生かしておくとは思いませんわ。どうか私と一緒に、マーラル王国に行きませんか?そして2人で、暮らしませんか?」
「僕と君が、一緒に?確かに僕には、もう居場所がない。僕はもう、王太子の座を降り、ジョーンに王太子の座を譲る事に決まったし。こんな僕と一緒にいても、君には何のメリットもないよ」
「あら、メリットならありますわ。ダーウィン様が傍にいて下さるだけで、心強いのです。それに私は、もっとダーウィン様の事が知りたいですわ。それとも、ダーウィン様は私との生活は嫌ですか?」
「嫌だなんて、とんでもない。ただ、君の様な美しくて聡明な女性の傍に、僕なんかがいてもいいのかと思って…」
「そんな言い方をしないで下さい。私は、ダーウィン様の傍にいたいのです。今まですれ違ってきた分、これからゆっくりその穴を埋められたら、そう考えておりますわ」
「ありがとう、こんな僕だけれど、よろしくお願いします」
ダーウィン様が涙を流して、頭を下げたのだ。お礼を言うのは私の方なのだが…
それにしても、まさかダーウィン様が私の事を、そんな風に思ってくれていただなんて。その上、危険を冒してまで、私を逃がしてくださった。せっかくダーウィン様が与えてくれたチャンスを、大切にしたい。
「それで、今後の事ですが、このままマーラル王国を目指すのですよね?」
「ああ、そのつもりだよ。ただ、マーラル王国までは1週間かかるから、出来るだけ人目を避けながら進もうと思っている。本来なら休憩を挟みつつ、ゆっくり行きたいところなのだが、追手が来ることを考えると、出来るだけ休憩なしで進みたいと考えている。君には負担をかける形になってしまい、申し訳ないが…」
「私は大丈夫ですわ。私が逃げたことが分かれば、きっと追手が来るでしょう。出来るだけ早く、マーラル王国に向かいましょう」
王都を既に出ているとはいえ、ゆっくりしている時間はない。犯罪者の娘の私が逃げ出したのだ。きっと国を挙げて、捜索が行われるだろう。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ただ、今の君の格好では目立ちすぎるから、後でこのワンピースに着替えてくれるかい?すまない、君は公爵令嬢なのに…」
「もう私は、公爵令嬢ではありませんわ。我がガスディアノ公爵家は取り潰されることが決まりましたし。私はもう、ただのシャレルです。それにしても、素敵なワンピースですね。ダーウィン様が準備してくださったのですか?」
「まあ…でも君の様な華やかな女性には、少し地味だったかな?」
「いいえ、とても素敵ですわ。私の為に、ありがとうございます」
ダーウィン様が私の為に選んでくれたワンピース。早くこのワンピースが着たいわ。
次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません @karamimi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきませんの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。