66 冬②

 そういえば、そろそろクリスマスだよな。

 また大きいイベント来るなんて……、彼女ができるといろいろ考えないといけないことがたくさんできてしまうからちょっと難しい。そして相手がお金持ちの花美だから、何をすれば喜ぶのかよく分からない。花美なら普通に喜んでくれると思うけど、それでも俺には難しいことだった。


 一応、恋人だからさ。


「ナナくん、あーん」

「あーん」


 お昼、さりげなくおかずを食べさせてくれる花美に隣にいる二人が笑みを浮かべていた。俺におかずを食べさせてくれるこの癖は多分……卒業するまで直らないと思う。なんで毎回「あーん」って言っているのか分からない。


 俺は子供じゃないのにな。


「笑うな……。蓮」

「痛っ!」

「そういえば、花美ちゃんその腕輪可愛い!」

「ああ、これはナナくんにもらったの」

「やるじゃん〜。星七くん。そしてめっちゃ似合うよ! それ」

「ありがと〜」


 くすくすと笑うひまりに恥ずかしくてお弁当を食べていた。


「私も可愛い腕輪ほしいな〜。そういえば、そろそろクリスマスだね!」

「そうだね」

「花美ちゃんは何するの?」

「クリスマスね……。ねえ、ナナくん私たち何するの?」

「なんで俺に聞くんだよぉ」

「彼氏だから?」

「それはそうだな。えっと……、水族館はどう? 行ったことないけど」

「いいね! 水族館!」


 子供の頃にテレビで見たことあるけど、実際行ったことはないから少し気になる。

 でも、クリスマスに水族館に行ってもいいのか? もっといい場所があるんじゃないのかとじっと机を見つめながら考えていた。


 やっぱり、自分で考えるのは難しいことだな。


「そうだ。私。今日花美ちゃんを借りていい?」

「えっ? あっ、どうぞ」

「そういう時はダメって言うんだよぉ!!!!! このバカ!!!!!」


 そう言いながら頬をつねる花美。

 たまに女子同士で遊ぶのもいいことだと思っただけなのに、なぜかめっちゃ怒られた。

 それにちょっと痛い……。


「おいおい、星七。その言い方はやめた方がいいぞ?」

「そ、そうか……。早く言ってくれ」

「いや、まさかすぐどうぞとか言うとは思わなかったからさ」

「…………」

「ひまりちゃん! どこ行く?」

「久しぶりにショッピングしない? 女子同士で」

「いいね! ショッピング。そして今日はナナくんと一緒に帰らないからね!」

「あっ、はい……」


 怒ってる……。


「ああ、星七どうする? 瑠璃川を怒らせたぞ?」

「蓮はちょっと静かにしてくれ!」

「あはははっ、二人は相変わらず面白い」

「はあ……」


 そしてこっちを睨む花美が今度は反対側の頬をつねった。

 なんでさっきから頬をつねるのか分からない。俺は静かにお昼を食べていただけなのに……。


「ごめんって……。たまにはひまりと遊ぶのもいいことだと思っただけ! それだけだよぉ」

「ふん!」

「怒ってる花美ちゃんも可愛い!」

「えっ!? これが可愛いのか? ひまり」

「そうよ〜。花美ちゃんは嫉妬深い女の子だからね」

「私嫉妬なんかしてないよ! ひまりちゃん」

「ええ……」


 仲良くお昼を食べた後、俺は一人で自販機のところに来た。

 最近、よく花美に怒られるけど、女子経験がないから仕方がないことだとそう思っている。ずっと他人に合わせるだけの人生を送っていたし、相手のために何をすればいいのかよく分からないからさ。


 教科書で学んだ知識みたいに、それ以外のことはよく分からない俺だった。

 てか、今度は蓮が俺についてくるのか。


「今度は蓮かよ」

「えっ? 俺、なんかしたのか?」

「いや、なんでもない。なんか、普通の学校生活にまだ慣れてないっていうか」

「はあ? いきなり? まあ、それも無理ではないか。変な女の子と付き合ってたからさ。星七は」

「そうだな」

「そういえば、星七知ってるのか? 星宮、学校に来てるぞ」

「そうか。まあ、もう俺とは関係ない人だから何をしても気にしない」


 とはいえ、あの星宮だから気になるのは仕方がないことだった。

 でも、北斗がいない時点で一人で何ができるんだ? 無視すればいい。

 どうせ、協力してくれる友達もいないはずだから。


「じゃあ、俺たちも久しぶりに男同士でパフェとか食べる?」

「男同士でパフェ……? マジかよ」

「他にやりたいことあるのか? 星七」

「パフェ以外ならなんでもいい」

「ええ、美味しいところ知ってるから行こう! 星七」

「蓮……。最近、ひまりとずっとカフェに行ったよな? 確かにそうだった気がするけど」

「そう……。週に4回……、俺たちはパフェを食べた…………」

「本能がやばいと叫んでいる。俺は降りる! さようなら!」

「俺は星七に教えてあげたいだけだ! パフェの味を!!!!! そして今度一緒にパフェを食べるんだよ! 星七!」

「知るか! 他にもあるだろ!」

「しらねぇよ! そんなの」


 ……


 結局、蓮とパフェを食べに来てしまった。

 なんでだ。他にもたくさんあるのに、なんでパフェなんだろう。

 しかも、男二人でめっちゃ大きいいちごパフェを注文した。それもあるけど、周りに女の子しかいないからめっちゃ目立つ。花美と一緒に行った時はこんな視線気にしていなかったけど、今はめっちゃ気になる。


 なんでここなんだよぉ、なんでひまりと一緒に行きそうなカフェなんだよぉ。


「美味しそうだな」

「まあ、そうだな」

「それと俺星七に聞きたいことがある」

「何?」

「キスのやり方を教えてくれ!」

「ケホッ……! ケホッ……! はあ? いきなり、キスのやり方?」

「そう! 大人のキス!」


 今度はキスかよ。

 そっか。ひまりとどうやってキスをすればいいのか、それで悩んでいたのか。蓮。そういうことか!


「ちなみに……、手は繋いだぞ?」

「ああ、そうか。頑張ったな」

「なんだ。その……、なんでそんな当然なことを言っているのかみたいな表情は」

「いや、なんでもない。てか、まだキス……してないんだ。蓮」

「星七は大人のキスをしたよな? そうだよな?」

「まあ……」


 すると、持っていたスプーンを落とす蓮。

 なんでショックを受けたような顔をしているんだろう。

 恋人なら普通にできることだと思うけど、蓮には無理だったのか? それに俺たちをずっとからかってたくせに、そっちはキスもしてないのかよ。まあ、こっちも花美に一方的にやられただけだけど、それでもちゃんとやったから。


 なぜか、ドヤ顔をする俺だった。


「なんだ、その顔。気持ち悪い」

「いや、そんな意味のないことで悩む蓮が可哀想だからさ」

「はあ?」

「キスがしたいなら普通にしたいって言えば? 簡単だろ?」

「おいおい……、星七。そんなことはカッコいい星七にしかできない言葉だよ」

「それとカッコいいこととどんな関係あるんだ? 好きならキスしたいって言えよ。それしかないだろ? ずっと悩んでみても結局キスしたいという気持ちは変わらないはずだし」

「それはそうだけど……」


 そんなことで悩まなくてもいいと思うけど、ひまりもきっとキスしたいと思っているはずだし、特にあのひまりなら……。

 いや、ひまりは花美と違うだろう。多分……。


 それにプレゼントで悩んでいた俺に勇気をくれたやつが、キスという言葉にビビっているなんて。


「とにかく……、悩むな! どうやってキスの流れを作ればいいのか分からないなら、お家デートをする時にこっそり話してみたら? 正直、好きだから付き合ったんだろう? そういう時は話すのが一番早いと思う」

「確かに、そうだな」

「そう」

「そうだ、星七は瑠璃川とどこまでやった?」

「俺は……」


 いや、ここで寸前まで行ったとは言わない方がいいよな。

 うん、どう考えてもそれはよくないと思う。その後のことは俺にも上手く説明できないから。


「俺もキスまでやった」

「そうなんだ。そうかそうか!」

「じゃあ、そろそろ帰ろう。キスの話を一時間くらいしたような気がする」

「あはははっ、そうだな」


 そして蓮と一緒に帰る時、俺は向こうのファミレスでご飯を食べている二人に気づいた。


「蓮、ちょっと待って」

「うん? どうした?」


 ちょうど外が見える良い席に座っていたから、俺はスマホで取り出して花美に伝える言葉を打った。すると、こっちを見て手を振ってくれる花美とひまり。蓮がひまりの方を見てニヤニヤしていた。


「てか、何してるんだ? 星七。入らないのか?」

「いや、俺はこれを見せてあげた後、すぐここから逃げる」

「はあ?」


 そのまま花美にスマホの画面を見せてあげた。


「行こう! 蓮!」

「え、えっ!? なんだ? えっ? 瑠璃川怒ってたけど、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫。ちょっとからかっただけだからさ」

「何を見せたんだ? 瑠璃川に」

「ううん……、なんだろう。よく分からない」

「はあ?」


 そんなに食べたら太りますって打ったけどぉ。

 なんか、子供っぽくて蓮には言わないことにした。


 そしてその腕輪すごく似合う、花美。


(花美) 家で待ってて、私もすぐ行くから。


「あ」

「どうした?」


 そういえば、俺たち同居してたよな。


「…………」

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