◆ある日の――

 ――ある日の休み時間

「クジラやイルカもそうなんですけど、シャチにも方言があるんですよ」

「ある地域でしか聞けない鳴き声が聞けるとか」

「鳴き始めは同じなのに終わりだけ違うとか」

「鳴き声は同じなのに半音上がってるとか下がってるとか」

「歌も唄ったりするらしいです。しかもみんなで」

「しかも流行り廃りがあるという研究結果も出ています」

「同じ哺乳類、海に住んでるか陸に住んでるかの違いだけで」

「私達とシャチ達はあんまり変わらないですね」

「あ、友達から聞きましたが、カラスもそういうのがあるらしいですよ」

「歌といえば次の授業は音楽室ですね、一緒に行きましょう」




 ――ある日の昼休憩

「一部の虫や鳥にもあるんですけど」

「基本的に肉食のシャチですが、結構グルメで味の好みがあるみたいなんです」

「クジラの舌しか食べない、サメのヒレしか食べない」

「内臓しか食べない、ある動物しか食べない、などなど」

「食べ物を買う場所も、保存する方法もない動物が取る行動とは思えませんよね」

「つまり、私がブロッコリーを食べれないのもそういう事なんです」




 ――ある日の図書館

「シャチの学名を知ってますか」

「Orcinus orca(オルキヌス・オルカ)」

「意味は『冥界から来た悪魔』」

「素晴らしくかっこいいですよね」

「しかも名前負けしてないくらい大きくて重くて速くて、強いんです」

「体長は平均で6メートル。体重は5トン」

「身体を形成する太い骨とたくましい筋肉」

「それらを使い、海の中を時速50キロで泳ぐ」

「海において人間以外の天敵が存在しない」

「そんなに強いのにチームを組んで獲物を追い込んだりするんですよ」

「波を起こして氷上の上にいるアザラシを落としたり」

「魚を追い込んで、その先で待ち伏せしてたり」」

「アザラシには申し訳ないですけど、あの絵は圧巻です」

「前に話したシャチがグルメな理由も関係してるかもですね」

「それだけ強くて、いつでも獲物をとれるから食事を選り好みできるのかもしれません」

「……あ、すみません。少し声が大きくなってしまいました……」




 ――ある日の猫カフェ

「え? 別にシャチ以外の動物も好きですよ?」

「あっ!」

「……猫がいっちゃいました」

「猫以外の名前を出したので怒ってしまったんですかね」

「…………」

「偶然で離れただけ、ですか?」

「知らないんですか。動物も嫉妬するんですよ」

「ぬいぐるみに嫉妬する犬の動画知りませんか?」

「怖くて可愛いですよ」

「もちろんシャチも嫉妬したりします」

「水族館で飼育員がイルカに構っていたら」

「シャチが寄ってきて撫でるのをおねだりした」

「みたいな話もありますからね」

「逆にサービス精神も旺盛で」

「お客さんの盛り上がり次第ではいつもよりはしゃぐ様子も見られるんです」

「あ、さっきの猫がまた来ましたね」

「……私ではなく藤森さんの方へ」

「ま、まぁ。偶然で来ただけですよ、絶対」

「…………」

「そんな……また猫が、さらに猫が、もっと猫が藤森さんの身体にまとわりつくように……っ」

「…………」

「はい、私ももちろん嫉妬しますよ」

「猫に好かれる藤森さんへ、メラメラです」




 ――ある日の映画館

「シャチは動物には珍しく仲間や家族を意識する動物なんです」

「『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』みたいな話がありますけど」

「ライオンだけに限らずほとんどの動物は子供をある程度育てて、その後すぐ独り立ちです」

「その中でシャチは子供を守るようにガードしたり、食べやすい獲物を与えたり」

「亡くなってしまった我が子にずっと寄り添ったり」

「悲しみ、慈しむように周りを回ったりする様子が見られます」

「私はこういうのを知ると、下手な人間よりも人間らしいと思ってしまう時があります」

「ただ、人である私が、感じた結果なんですけど」

「本当は、シャチにはそんな感情はないかもしれないのに」

「…………」

「……あ、部屋が暗くなってきました。もうすぐ始まりますね」

「ダメですよ、本編にないかもしれないシーンや見どころだけ集めた予告だからと言ってちゃんと見なくては」

「その部分も含めて映画なんですから」

「あと」

「ポップコーンを取る時、間違えて私の手を握っても一度だけは偶然と思いますから、気にせずに」

「それでは映画、楽しみましょう」

「ずっと楽しみにしていた、過去や未来に行く映画のパート4です」




 ――ある日の水族館

「シャチは誰もが知ってるメジャーな動物ですけど」

「リアルで見られる水族館は日本で3つだけなんです」

「千葉と愛知と兵庫。ここでは見られません」

「代わりにここでしか見られない96本の足を持つタコの標本を堪能していきましょう」

「『あ、96本の足ってそんな感じなんだ』って思われるかもしれませんが」

「見てみると結構迫力ありますよ」




 ――ある日の藤森の部屋

「シャチはオシャレなの知ってます?」

「これはシャチ好きとしては有名な話なんですが」

「なんと、サケの帽子を被って泳ぐんです」

「もちろん本当に帽子みたいにするんじゃないですよ」

「動かなくなったサケを頭に乗せてるだけなんですけどね」

「一部では『非常食用に運んでるだけ』と言ってる人もいますけど」

「それなら普段からしてるはずです」

「ですけどサケの帽子を被ってるのを最初に観測されたのは1980年代」

「その後めっきりなくなって」

「2024年にまた確認されたとの報告があります」

「歌の時にも話しましたけど、シャチにも人間と同じように流行り廃りがあります」

「時代によって恋愛ソングが流行ったり、悲しい歌が流行ったり」

「同じようにファッションもありますよね。昔の服装が今また流行ったり」

「だからそれと同じでシャチにもあるんですよ、ファッションが」

「私達がそれに気づいてないだけ」

「コバンザメをポシェットのように腰につけたり」

「ワカメをまつ毛みたいにアイパッチまわり乗せたり」

「ヤドカリみたいにお気に入りの貝を歯にかぶせたりしてるかもしれません」

「藤森さんも一度、シャチの事を調べてみたらどうでしょう」

「あ、もうこんな時間ですね」

「テスト勉強もここまで」

「ではまた明日、学校で」

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