第3話
転生してから15年。それは、いつもと同じように平和な日々が続くと思っていた日のことだった。
静かな里に突如として響き渡った叫び声と金属の音。それが異変の始まりだった。何事かと外に出ると、遠くで黒煙が上がり、里のいたるところで燃え上がっているのが見えた。里の皆が鎧を着た人間たちに追いかけられ、叫び声を上げながら逃げ回っている。里の穏やかな景色が一瞬で地獄絵図と化していた。
「スピロ!」
母親が泣き叫びながら、俺に駆け寄る。その表情は恐怖で歪んでいた。何が起こっているのか分からない。ただ、空気を切り裂くような剣戟の音と、至る所で燃え広がる火の熱気が、すべてを語っていた。
「母さん、父さんは!?」
「お父さんは……向こうに……。私たちはいいからゾーイちゃんを助けに行きなさい!」
「わかった。絶対2人は逃げてね。」
ゾーイを探さなきゃ。
燃えさかる里の中を、俺はゾーイを探して走った。家々が炎に飲まれ、人々の悲鳴が耳を刺す。何人かの顔見知りが地面に倒れているのを見つけたが、立ち止まることはできなかった。息が苦しくなるほど煙が喉に絡みつき、それでも足を止めるわけにはいかなかった。
「ゾーイ! どこだ、返事してくれ!」
必死に名前を叫びながら、俺は里の外れに向かって走る。彼女はいつも何かがあるとそこに逃げ込む癖があった。だが、途中で一人の人間が剣を振りかざして現れた。
「お前、異種族だな!」
見知らぬ男の声が響く。金属の光が一閃し、俺は咄嗟に身を引いた。
「待て、俺はただ……!」
言葉を紡ぐ暇もなく、再び振り下ろされる剣。それを避けて走り出した。相手が追いかけてくる足音が背後から迫り、俺は全速力で逃げた。道が狭まり、目の前に崖が現れるまで。
「もう逃げ場はないぞ。」
追い詰められた。目の前には剣を持った兵士、背後は暗闇へと続く崖。このままでは――その思いが頭をよぎった瞬間、兵士の剣が俺の体を切り裂いた。
激痛とともに体が後ろに倒れ込む。崖の縁に足を踏み外し、俺の体は宙を舞った。
次に意識を取り戻したとき、俺は川の中にいた。冷たい水流が体を包み、どこかへと流されていく。全身の力が抜けていき、このまま沈んでいくのだと思った瞬間、誰かが俺を引き上げた。
「おい、生きてるのか?」
耳に届いたのは粗い男の声。瞼を開けると、濡れた髪の隙間から見えたのはたくましい体つきの中年の男だった。彼の腕が俺の体をしっかりと支え、岸へと引き上げてくれていた。
「……誰……?」
「俺の名前はリカイオス。お前は運がいいな、死んでてもおかしくなかった。」
リカイオスと名乗るその男は、火のそばで俺の傷を手当てしながら話しかけてきた。
「お前、一体どうしてこんな状態で川に流れてた?」
「俺の里が……襲われたんだ……。ゾーイを、家族を助けなきゃ……!」
俺は痛みに耐えながら胸の奥に手を当てた。アニモスが震えている。死んだ繋ぐ者のアニモスはビブリスに収められる――そのことを思い出し、リカイオスに支えられながら、ビブリスにアクセスした。
ビブリスの中に入ると、そこには新たに収められた本がいくつも並んでいた。その背表紙に刻まれた名前を一つ一つ読み上げる。
「父さん……母さん……」
二人の名前が記された本を見つけた瞬間、足がすくみそうになった。涙が次々と溢れ、言葉にならない嗚咽が口から漏れる。俺の家族が……もういない。それでも、必死で目を凝らし、ゾーイの名前を探したが――見つからなかった。
「生きてる……ゾーイはまだ生きてる!」
全身の痛みに耐えながら、俺は一人で里に戻る決意をした。リカイオスは止めようとしたが、聞き入れるわけにはいかなかった。
里に戻ると、そこにはもう誰もいなかった。家々は焼け落ち、黒く焦げた瓦礫が地面に散らばる。そこに漂うのは、死と炎の名残を示す匂いだけだった。
「……誰か、いないのか……」
声を上げても応答はなく、足元の瓦礫を掻き分けても生存者の気配はない。だが、胸の奥のアニモスに手を当てる。ゾーイの名前は、まだビブリスに収められていなかった。
「ゾーイ……必ず見つける……」
里を後にすると、リカイオスが腕を組んで待っていた。
「お前、本気でそのゾーイって奴を助けたいのか?」
「当たり前だ。」
その言葉に、リカイオスはしばらく沈黙した後、小さく笑った。
「なら、俺の弟子になれ。戦い方を教えてやる。その代わり、俺と一緒に旅をするんだ。そうすれば、いずれゾーイに繋がる道も見つかるかもしれない。」
その提案を聞き、俺は息を呑んだ。リカイオスの目には確かな信念と何かの覚悟が宿っているように見えた。
「……本当に、ゾーイを探せるのか?」
「探せるかどうかは、お前の覚悟次第だ。」
俺は歯を食いしばりながら頷いた。家族を失った悲しみ、ゾーイを助けたいという願い、そして里を襲った人間への怒り。それらすべてが俺を突き動かしていた。
「分かった……弟子になる。戦い方を教えてくれ。」
こうして俺の新たな旅が始まった。ゾーイを探し出すための道のりが、ここから動き出したのだ。
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