第2話
転生してから12年。気づけば、俺もこの世界でそれなりに馴染んでいた。もちろん、俺の外見は普通の人間の12歳と変わらない。だが、内心ではこの世界の住人として生きる覚悟ができていた。家族や里の人たち、そして何より――ゾーイがいてくれたから。
ゾーイとはいつだって一緒だった。里の仕事を手伝うときも、森に木の実を拾いに行くときも、川で遊ぶときも、彼女の笑顔はいつも俺の隣にあった。あの初めて出会った日から、彼女の存在は俺の心を穏やかにし、時に支えとなっていた。
ある日、俺は決意を固めた。この気持ちを言葉にして伝えたい。そう思ったのだ。
「ゾーイ、今日、ちょっと話があるんだけど……いい?」
里の外れにある高台で、俺は彼女を誘った。ここはよく二人で来る場所だ。草原が広がり、その先には森が見える。夕方になれば沈む太陽が美しい景色を作り出す、俺たちの特別な場所だった。
ゾーイは首をかしげながら俺の方を見ていた。その表情に少し緊張しながらも、俺は胸に手を当て、深呼吸をする。これまでどんなに考えても、この言葉以外にふさわしいものはなかった。
「俺……ゾーイのことが好きだ。」
その瞬間、俺の胸の奥でアニモスが軽く震えた気がした。魂の奥に刻まれたこの言葉が、いつかどんな形で記されるのだろうか――そんなことが一瞬頭をよぎる。
ゾーイは一瞬目を見開いた後、ふっと笑みを浮かべた。その笑顔はいつも通りの無邪気なものではなく、どこか大人びた温かさがあった。
「私も、スピロのことが好きだよ。」
その答えに、俺は思わず息を呑んだ。心臓が跳ねるような鼓動を感じながら、彼女の顔を見つめる。俺の手が無意識に伸びたとき、ゾーイもそっとその手を握ってくれた。
その夜、俺とゾーイの両家が集まり、家族に報告することになった。ゾーイの家は里でも一際目立つ大きな石造りの家で、彼女の父ビオンと母ヴァネッサ、そして祖母クロロスが一緒に暮らしている。俺の両親も招かれ、一緒に祝福の場に参加した。
家の扉をノックすると、ビオンが穏やかな笑顔で俺たちを出迎えた。彼は俺を見て、すぐに何かを察したようだった。
「スピロ、何か大事な話があるんだろう?」
俺は緊張で少し震えながら、ゾーイと結ばれたことを報告した。ビオンとヴァネッサは一瞬目を合わせ、それから柔らかい笑みを浮かべた。
「そうか、ゾーイが選んだ相手が君でよかったよ。」
ビオンの言葉は驚くほど温かく、俺の緊張を少し和らげてくれた。
「スピロ、これからもゾーイを支えてあげてね。あの子はしっかりしているけれど、時々すごく無茶をするから。」
ヴァネッサがそう言って微笑む。
祖母のクロロスはじっと俺を見つめた後、少し不服そうに言う。
「長命種族としてはまだ、早い気もしますがゾーイが選んだというなら仕方ありませんが認めましょう。」
俺の父は少し照れくさそうに笑いながら、
「スピロ、お前がこんなに大事な人を見つけるなんてな。これからも俺たち家族で支え合おう。」と言ってくれた。
母は涙ぐみながら
「ゾーイちゃん、これからは私たちもあなたの家族よ。何かあったらいつでも頼ってね。」
と優しく手を握った。
その後、家族全員でささやかな祝いの晩餐が始まった。ビオンが用意してくれた香ばしい肉料理や、ヴァネッサが焼いた柔らかいパンの香りが食卓を彩る。クロロスが特別に開けたという果実酒も並べられていた、多分、クロロスさんはツンデレだと思う。
「乾杯!」
全員が杯を掲げ、笑い声が響く。ゾーイが隣で幸せそうに笑っているのを見て、俺の胸は温かさで満たされていた。
その後もゾーイとの日々は、さらに穏やかで心地よいものになった。里の人々も祝福してくれ、俺たちの関係を微笑ましく見守ってくれた。
夕暮れ、ゾーイと手を繋ぎながら里に戻る道で、空にはオレンジ色の光が差し込み、二人の影を長く伸ばしていた。その光景は、まるで俺たちの未来を祝福しているかのようだった。
こうして、俺たちは周囲の温かい祝福に包まれながら、幸せな日々を過ごしていった。
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