ラブコメ漫画のサブキャラになったので、主人公をアシストしようとしたらなぜかヒロインたちに好かれていました 終

さとうがし

新しい一年の始まり編

1.年明け。それから

「……」


 俺はとんでもない夢を見ていた気がする。現在、一月一日の四時。初夢……ではないが、大晦日から元日にかけて見てしまった夢はかなり肝を冷やした気がする。


 目覚めた今では、具体的にどんな夢で何があったのかわからない。

 ただ一つ憶えていることは、二度と同じ夢を見たくないということだ。


 俺の部屋では高橋がベッドの下でスヤスヤと眠っている。

 女性陣は一階のリビングで好きなように寝ているはずだ。


「はぁ……」


 俺は二度寝しようとしたが眠気が全くしないので、他の奴らを起こさないように着替えて外に散歩しに行くことにした。


 元日の早朝。寒気もきていると予報されていた通り、体の芯まで凍てつくような寒さが襲ってきた。外はまだ暗い。そしてわかってはいたが、年末年始ということもあって外に人の気配が感じられない。


 俺はまるでゾンビの世界で一人生き残ってしまった人間の気分になりながら街中を歩いた。顔面と耳が寒さで痛む。吐く息が真っ白で呼吸をするたびに肺が冷えてしまう。


「先に初詣行っておくか……」


 近所に小さな神社があったはず。そこは公園が併設されていることもあって、小さい頃はよくお世話になった。もちろん、俺は神社に失礼なことは全くしたことがないが、バカなやつはちょっとした悪戯をしていたっけ。罰当たれ。


 なんという神社かわからないが到着すると、早朝ということもあって誰もいなかった。日付が跨ぐような時間帯はきっと初詣で人が溢れていたと思うが、こんな時間になるとみんな帰ってしまったんだろう。


「ご縁がありますように……って、俺はいらねぇけど」


 お賽銭箱に五円玉を入れて鈴を鳴らす。それから二拝・二拍手をし合唱をして祈る。最後に一礼して終わりだ。ちなみに俺の願いはただ一つ。平穏。


「コンビニくらいしかやってないか」


 どこか温まれるところで時間を潰そうと考えたが、最近は年末年始を休む店も増えてきた。年がら年中仕事とか、いくらなんでも誰もやりたくねぇもんな。

 どうせみんな家の中でダラダラ過ごすか、実家に帰省するか。もしくは親戚のお家にお邪魔するか。


 どっちにしろ年末年始にどっかに行くこと自体、俺からすると正気かと思ってしまう。こんないつも以上にぐうたらしても誰にも文句言われないんだ。


 少しくらいは休んだらどうだろうか。ただでさえ働き過ぎだし、命を削ってもいいことなんてこれっぽっちもない。


 俺は適当なコンビニに入った。暖房がきいていて一気に心も体も温まった気がする。店内をプラプラと歩き回り、結局長居できなかったので温かいお茶を買って退店。


「はぁ……」


 そっか。白雪先輩は卒業しちゃうんだっけか。それに俺たち二年生も三年に進級。今年は受験に向けて多くの人が受験勉強に頭を悩ませることだろう。


 俺はすでに今年……いや去年になっちまったのか。去年の夏から目星をつけていた予備校の体験会に参加して準備をしてきた。特に問題ない。


 ただ……あいつらはどうなるんだろうか。

 受験の話はちょくちょく出てくるが、まだ先の話ということもあって漠然とした話しかしていない。


 綾瀬と櫛引と柊の三人はまだ何も決まっていない。高橋と長谷部は何か考えているような口ぶりだった。俺は……もう決まっている。それなりの私立大学に目を付けている。ただ、将来何になろうかという目標が全くないし、これを学びたいということもない。


 ただ漠然とこの大学なら合格する確率が高く、それなりの偏差値だからいいんじゃねぇかという、無責任かつ適当に決めてしまった。果たしてこれでいいのか。


「ま、あいつらがどんな選択しようが俺には関係ねぇしな」


 この関係も高校を卒業してしまえば終わってしまう。

 大学生活、もしくは短大・専門・就職・その他の選択をすれば、それぞれ新しい道へ進む。そこでは新しい環境、新しい人間関係、大人の世界が広がっている。


 十八歳となり、高校を卒業すれば今は立派な成人となる。

 守られる立場から守る側に。自己責任の世界になる。同時に腐った大人の世界に一歩足を踏み入れることになる。


 お酒・たばこ・性。嫌でもそれらを経験することになる。

 普通に考えたら、それおかしいんじゃねぇの? ということも向こうの世界では当たり前だったりする。要はぶっ壊れている。倫理が。常識が。正義が。


 偉い人が正しい。上の人に逆らえない。正しいことをする人は間違っている。

 そんな反吐が出るような世界にまた俺たちは進んでいる。


 クソみたいな。唾棄すべき世界は否定されるべきだ。

 俺は変わりたくなり。大人になりたくない、ということではない。

 そんな吐き気を催す邪悪なナニカからの感染を防ぎ、今も将来も変わらず橘千隼でありたい。


「……」


 自宅について寝ているあいつらを起こさないように忍び足で洗面所に駆け込んだ。

 ここなら一人でゆっくりできる。冷凍庫みたいにキンキンに室内が冷えているが。


「今年は何も起こりませんように……」


 俺はそう願いながら横になると、なぜか睡魔に襲われて夢の中にダイブしてしまうのだった。あけましておめでとう。今年もよろしくな、俺。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラブコメ漫画のサブキャラになったので、主人公をアシストしようとしたらなぜかヒロインたちに好かれていました 終 さとうがし @satogashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ