第6話 魔王と邪神

 魔法少女ことベアトリスちゃんが仲間に加わった。

 数えで17歳というから満16歳・・JK1だ。


 森で倒れていた経緯について僕は遠慮していたのだが、パンドラが「説明しなさい」と命令すると「はっ」とか言って教えてくれた。


 シンプルに表現するなら彼女は悪役令嬢だ。

 ドラゴ王国 ―ドラグーンはドラゴ王国の首都らしい― の侯爵令嬢で王太子の婚約者。

 それも、実は優しくて真面目なのに陥れられた・・とかではなく、タカ派の悪役令嬢だったらしい。


「暗殺者を送ったらバレたのよ」


 はい、擁護の余地はございません。


 で、国を追放されて魔の森 ―と呼ばれているらしい― に捨てられたところ、護送にあたった兵士にレイプされたそうだ。

 かなり重い話なのだが本人はケロっとしている。


 虚勢かもしれない。


 ともあれ、パンドラ曰く妊娠も性病もないとのこと。

 僕が口にしていいセリフではないが、「不幸中の幸い」と本人が語っていた。


 若くて前向きなことは良いことだ。

 良いと思うのだが。


「起きなさい! ティーエスアール」

「マサルと呼んで」

「さあ、稽古に行くわよ」


 元気過ぎるのも困りものだ。


 ベティ ―ベアトリスの愛称― は次期王太子妃としての教育に加え炎と水の魔法や剣術なんかも修めていて、学ぶべきことは非常に多い。

 新規の知識や技能はギューンとインストール出来ないので、一から学ばねばならない。


 あたり前のことですが。


 という訳で、暫くは稽古と勉強の日々となった。


「剣は引き切るのではなく叩きつける」

「はい!」

「ほらまた、そんなんじゃ骨は砕けないわよ」

「はい!」


 パンドラは地球の知識と文化の全てを記録している訳ではない。

 暗黒矮星あんこくわいせいの衝撃は地球全土を破壊したが、被害の程度に差があり、それが継承される情報をモザイクにした。


 僕の中にインストールされている剣技は、フェンシングや剣道といった競技化された物がベースとなっている。

 それしか情報が拾えなかったのだ。

 だから実戦用に昇華させるにあたって、刀や細剣を使った剣技が僕の知る全てとなった。


 しかし、ベティの剣技は鋳造されたロングソードを使う。

 切れ味が悪い代わりに重量があって、斬るより叩きつけるイメージで振る・・らしい。


 中世ヨーロッパでおそらくスタンダードだったであろうスタイルが、情報が残らなかった為に継承できていないのだ。


 さて、午後からはお待ちかね魔法の訓練だ。


 ――――

 ―――

 ――

 ―


「本来ならば聖堂で魔力属性を調べる必要があるのだけど」

「ベティは火と水だっけ」

「そうよ、得意な属性を確認して伸ばすのが普通なの」

「なるほど、もう一度ドラグーンに行かなきゃか」


 とはいえ、ベティは追放者で僕は余所者。


「ま、その辺はおいおい。 今日のところは無属性魔法から始めるわよ」

「おぉ、無属性」


 亜空間収納とか重力魔法みたいなのか。


「何が「おぉ」なのか知らないけど、俗にいう身体強化魔法のことね」

「・・そっか」


 身体強化かぁ。

 もう僕の身体は魔改造されて人外レベルなんだよなぁ。


「重い物を持ち上げたり素早く動くだけじゃなく、魔力次第で遥か遠くまで見渡すことも出来るのよ」

「・・すごいですね」


 パンドラや静止軌道上のノアとリンクすれば、大陸全体から細菌までんだよな。


「反応悪いわね。 とにかく、まずは魔力を練るわよ」

「はい」


 まあ、要不要はともかく魔法という未知の体験を楽しもう。


 ――――

 ―――

 ――

 ―


「きゃああああぁ!!! ばっばば化け物ぉ!!!」

「はい?」


 失礼なヒトだな。


 僕はベティに倣ってお腹の下の方、いわゆる丹田の辺りに力を集約するイメージで瞑想した。

 すると、何とも言えない手応えを感じて続けていたら、突然ベティさんが叫びだしたのだ。


「僕なにかしちゃいました?」


 あ・・異世界っぽいセリフ。

 意識してないのにスルッと出てしまった。


「召喚勇者みたいなこと言わないで」

「・・・。」

「それより、その状態でぜっ・・・たいに魔法使っちゃ駄目よ! 身体強化も含めて絶対よ」


 勇者召喚あるんだ。


「使ったらどうなります?」

「少なくとも、その状態で身体強化なんてしたら吹っ飛ぶわね」

「吹っ飛ぶ?」

「身体が粉々に吹っ飛ぶ、きっと骨も残らないわ」

「うげ」


 なんか知らんがヤバい。

 丹田でグルグルしてるモノを外に出さなきゃ。


「いやああぁぁ!!! 漏れてるぅ!!! 禍々しい魔力が漏れ出てくるぅ!!!」


 じゃあどうしろってんだ。

 漏らしたみたいに言わんで欲しい。


「濃い魔力に酔って・・うぷっ」


 もう知らん。

 取り敢えず全部出してしまえ。


 ――――

 ―――

 ――

 ―


「魔王は貴方だったのね」

「違います」

「では、パンドラ様の奥から感じるあの強大な力は・・邪神?」


 全部出してスッキリしたのか、ベティの妄想が止まらない。


 まあ、パンドラが邪神というのは、あながち妄想でもない。 彼女は人類の英知の化身のような存在。

 よこしまかみとは言い得て妙だ。


 とにかく、僕が魔法を習得するのは無期限でペンディングとなった。

 聖堂に行って属性の検査だけでも受けたいと言ったら「魔王認定されたいの?」だってさ。


 納得いかない。

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