第7話 冒険者

 新惑星FP-919に着陸して1か月が過ぎた。

 森を切り開いて更地を造成、そこに各種モジュールが続々と建築されつつある。


 追放されたベティに気兼ねして、ドラグーンの街にはあれ以来行ってない。

 暫く現地文明には不干渉の方針でいたのだが、そうも言ってられない問題が発生した。


「用とは何ですか? 魔王ティーエスアール」

「マサルな、もしくはクロド・マサル」

「クロード・マーシャル?」

「絶対わざと間違えてるだろ!」


 でも、チョットかっこいいな。


「まあいい、この映像を見てもらいたいんだ」

「どれ」


 当初は現代利器を見せるたび「キャーキャー」うるさかったベティも、今ではスマホ(ぽい端末)を巧みに使いこなしている。


 JK1の順応力は全宇宙共通らしい。


『ワタシハ、フロンティア・ノア ショゾク・・。』

『噂の四つ足ゴーレムだ。 ぶち壊せ!』

『タタカウイシハアリマセン。 ハナシヲ・・。』

『こいつ1体で金貨10枚だ。 ヒャッハー!!』


 スマホの画面に映し出されたのは4足歩行型ドローンに襲いかかる蛮族(?)の集団。

 人間に危害を加えないよう厳命した結果。

 今週だけで3機が半壊、とうとう1機が鹵獲される事態となった。


「ふむ、間違いなくドラグーン所属の冒険者だ。 ギルドの銀章を付けてる」

「では、犯罪者ではないと」

「だろうな、紙一重ではあるが」


 となると敵対はよろしくない。


「過ぎた平和主義は日本の二の舞ですよ」

「さもあろうが、う~ん」


 情報でしか知らないけど、僕が死んだ後の日本で大変なことがあったらしい。


「そもそも、魔の森はどの国の領土でもない。 魔王ティーエスアールが領有を宣言すればいいではないか」

「ベアトリスもたまには良いことを言いますね」

「恐悦至極に存じますパンドラ様」


 お嬢様方は今宵も過激に平常運転です。


「説得に応じる冒険者もいるんじゃないかな」

「それは難しいでしょうね」

「そうなの?」

「そういえば、ベアトリスもドローンの呼びかけに全く答えませんでしたね。 何故です?」


 僕も不思議に思ってた。

 あの時のベティは問答無用というより、ドロイドの言葉をまるっと無視してる印象だった。


「人語を解す魔物は言葉で人を惑わすと言われている。 魔物の言葉に耳を貸すなとは子供の頃から習うのだ」

「なるほどな」


 平和主義も限界なのだろうか。


「抜本的な対策はともかく、防衛ラインの設定は急務です」

「むぅ」

「それとも1軍を率いてドラグーンに侵攻しますか?」

「流石はパンドラ様」


 ベアトリス嬢は祖国にリベンジする気満々だ。

 やらせませんよ。


「解った」

「了解。 フォトンを中心に半径100キロメートルを防衛ラインに設定。 ポイントA1~Z1に汎用戦闘型ドロイドBD1-Mk3、ポイントA2~F2 に狙撃型ドローンSD-X、配備完了。 哨戒機も飛ばしますか?」

「やってくれ」

「35番ハッチ オープン。 ハミングバード発艦します」


 艦長T-SRの許可を取る形こそ崩さないものの、煮え切らない僕を他所に全てはパンドラ主導で進行していく。


 有難いけど納得はない。



     *****



 冒険者ケントside


 Bランクの冒険者パーティー『モヒカン兄貴』が噂の四つ足ゴーレム討伐に成功したらしい。

 なんでも、未知の素材が多く含まれていて、討伐報酬とは別に金貨100枚で買い取られたって話だ。


 この状況に焦った俺達は準備もそこそこに魔の森に潜っている。


「おい、ケント! 本当にこの方角で合っているのか?」

「間違いない。 少なくとも中層以上まで潜らないと出現しないって話だ。 焦る必要はない」


 リーダーで魔法剣士のレインは加減を知らない火力馬鹿で、俺のバフがないと2分でガス欠になる。


「不遇職のゴミがマップを読み間違えたんじゃない?」


 魔法使いのドロシーはレインの彼女で、俺のバフがないと詠唱に1分も掛かる。


「ありえる、魔物に舐められる無能ビーストテイマーだからな」


 盾使いのダンカンは自分の防御力を過信していて、俺のバフを自分の回復能力と勘違いしている。


「・・ゴミが」


 無口な弓使いカリンはダンカンの彼女で、俺のバフが無いと5メートル先の的も外すノーコン。


 俺を含めた以上5人がAランクパーティー『嘆きのパトラッシュ』のメンバーである。

 こいつらは俺のサポートに気付くことなく増長した。


 俺の計画通りに。


 魔の森に謎の凶星が落ちて以来、狂ったシナリオもこれで修正されるだろう。


 今、俺が馬鹿どもを案内してるのは、原作でオークジェネラルに遭遇するとされる地点。

 馬鹿どもは俺を囮にして逃げ、俺は美少女フェンリルをテイムしてオークジェネラルを討伐する・・予定だ。


 よし、この薮を抜けた先に・・。


「フリーズ。 コレヨリサキハシンニュウキンシダ」

「なっ・・なな何だ!?」


 ジェネラルオークがいる予定の丘に巨大なゴーレム・・いや、ロボが鎮座している。

 両腕のガドリング砲が回転を始めた。

 あれは絶対やばい・・異世界にSFロボの設定は反則だ。


「こいつは大物だ。 行くぞみんな!」

「「「おう!(ええ!)」」」


 バカヤロー!


 レインとダンカンはロボに向かって走り出し、こんな時に限ってドロシーの詠唱は早いし、カリンの放った矢も正確にロボを捉える。


 バフかけてないのに!


「テキタイコウドウヲカクニン。 ハイジョシマス」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド


 左右のガドリング砲が唸り強力無比な弾幕が俺達を襲う。

 馬鹿どもの身体が千々に千切れて血煙を上げる。


 最後の瞬間、視界に捉えたのはロボの肩で欠伸あくびをする子犬の姿だった。

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