第5話 狂乱の魔法少女
王子様の行列を見送ったあと、少し人混みが引いたドラグーンの街をぶらぶらした。
雑貨店に衣服店、武器屋なんかを冷やかすと、この国の技術や文化が見えてくる。
「何かあった?」
「少々お待ちを」
彼女が即答しないのは珍しいことだ。
「森で拾った雌猿が目を覚ましたようです」
「言い方! 酷くなってる」
「画像をご覧になりますか?」
僕の指摘は華麗にスルーされた訳だが。
「女性の寝室を覗く趣味はない。 でも、早く帰った方が良さそうだね」
「了解です」
名残惜しいが、また来ればいい。
「急ぎましょう。 刻一刻と被害が拡大しております」
「・・はい?」
スーパーなAIを搭載している割に報告が雑だと言いたい。
――――
―――
――
‐
フォトン艦内の映像に驚きを隠せない。
粉々の医療ポッド、立ち上がる
「蹴らなくてもドアは開きますのに、雌猿は野蛮ですね」
「ツッコむとこ違うと思うよ」
あの細い身体の
「この子、
「出てますね」
騒ぎを聞きつけ集まった看護ドロイドに火の玉(?)を投げつけているのだ。
それも、ただの炎ではなく接触と同時に破裂する。
「少なくともグレネード弾並みの威力はありそうです」
「これ無傷で制圧できる?」
「戦闘用ドロイドが捕縛用ネットとゴム弾を装備して待機しております。 ゴーサインを頂ければいつでも」
「そっか、なるべく武力制圧は避けたい。 刺激しないよう様子を見よう」
「了解です」
諸々の相談をしながら街の外に出た僕らは、無音ステルス戦闘ヘリ・ハミングバードを離陸させた。
――――
―――
――
‐
僕らがフォトンに戻るまでの間、少女はそれはもう大暴れした。
落ち着くよう説得するドロイドを千切っては投げの大立ち回り。
乱れ飛ぶ火の玉は、見ものではあった。
他人事であれば。
さて現在、僕とパンドラはフォトンの前で少女と対峙している。
彼女は白いシーツをローマ人みたいに左肩から巻き付けていて、その姿は何処か神々しい。
そして、困ったのは。
「とうとう魔王軍幹部のお出ましかしら?」
「なにか勘違いされてるようですね」
「ふざけないで! こんな大量のゴーレムを使役して、誤魔化せると思っているの」
頭が固いというか、取り付く島もないのだ。
「私は決して屈しない。 たとえ、この命 燃え尽きようとも!」
くっころの振りかな。
「貴方も魔王軍の幹部ならば、私と一騎打ちで勝負しなさい」
「T-SR、ご使命です」
「やだよ」
なんだよ一騎打ちって。
パンドラ女史も面白がってないで何とか説得してくれ。
彼女は貴重な適合率99.8%の少女なのだから。
「ふぅ 仕方がないですね。 聞きなさい雌猿」
「は? ダークエルフ如きが何の用」
ここで、やっとパンドラ女史が動いた。
二人とも口が悪いなぁ。
「吠えるな子猿。そんなに戦いたくば相手になるわ・・BD1-Mk3来なさい」
パンドラに応える形で包囲していた汎用型戦闘ドロイドBD1-Mk3が1機 進み出てきた。
因みに、パンドラとBD1-Mk3はネットワークで繋がっているので、口頭で命令する必要はない。
一種のパフォーマンスだ。
「この機体を10分以内に破壊出来たら貴女の勝ちでいいわ。 ドラグーンに送り届けてあげる」
「私が負けたら?」
「この男の
「なっ!?」
最後に声を漏らしたのは僕である。
「なに勝手に・・。」
「いいわ! 但し、送り届ける前にその男の命も貰う」
「結構」
「おーい」
負けないとは思うけどさぁ。
勝手に人の命をチップにギャンブルしないで欲しい。
――――
―――
――
-
これは認めるしかない。
彼女は魔法使いだ。
そうかもなぁと思いつつ敢えて口にしなかった『魔法』の2文字、未来に転生したかと思いきや異世界転生だったようだ。
「我が敵を貫け! 『ファイアランス』」
ほら、かっこいい口上と飛び出す炎の槍。
「残り1分」
「こうなったら奥の手よ。 焼き尽くせ! 『ファイアストーム』」
出ました大技!
炎の旋風とか実際に見ると凄い迫力だ。
これで決まるか?
「そんな・・まったく無傷だなんて」
いやいや、そう気を落とすこと無いと思う。
全長3メートル重量1トンはあろうBD1-Mk3がちょっと浮いたし、装甲が剥がれたり、関節から軋み音が出たり結構ヒヤヒヤさせられた。
「タイムアップ」
「くっ・・殺せ」
「殺さないわよ。 BD1-Mk3! 方位1-2-0、20ミリ弾斉射・・ってぇ!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
「こ・・これは」
「方位そのまま、100ミリ砲3連射・・ってぇ!」
ドン ドン ドン
「やめてくれ」
「続けて肩部ロケット弾よーい・・ってぇ!」
パシュッ ・・ドゴーン
「すまなかった。 身の程知らずだった」
「結構」
えげつない。
方位1-2-0、フォトンの北側の森が瓦礫の山と化してる。
少女の心が折れてないと見て、圧倒的な火力を見せつけ止めを刺したのだろう。
最初からデモンストレーションを見せれば良かった気もするけど。
「力を出し切らせるべきと判断しました」
「なるほどね」
パンドラって無感情なようで僕を乗せるの上手かったりするんだよな。
「魔王様に我が忠誠を捧げます」
「励みなさい」
「ちょっと待って! 僕ら魔王軍じゃないから」
「従者は控えよ」
「そうですよT-SR]
あれ? 僕が1番下っ端なの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます