第4話 初めての街散歩

 さて、やってきました新惑星の街!

 衛兵さんの話から「王都ドラグーン」という街らしい。

 つまり、王国の首都という訳だ。


 僕らが通った城門はいわゆる大手門のようで、まっすぐ伸びた大通りの先にお城が見える。

 さっきヘリから見たあれだ。


 大通りは中央の馬車道と両側の歩道に分かれていて機能的。

 歩道は多くの人々が行き来して活気がある。


「髪とか瞳がカラフルな以外は、地球の人間とあまり変わらないね」

「ですが、今のところ適合率99%未満がほとんどです。 先程の衛兵など98.2%でした」


 パンドラが言う適合率とは地球人と比べた遺伝子の相同性を指す。

 例えば、チンパンジーの場合は適合率98.8%、つまり衛兵のオッサンは遺伝的に猿以下ということになる。


 一概には言えないが。


「環境の違いが数値に現れてるのかな?」

「検討が必要かと。 幸い実験体は確保しておりますので」

「あの女の子に変なことしちゃ駄目だよ」

「・・了解です」


 間が不穏だ。


 ――――

 ―――

 ――

 ‐


「串焼き1本ちょうだい」

「はいよ、銅貨3枚ね」


 門からしばらく歩いた広場には露店がいくつも並んでいる。

 折角なので謎肉の串焼きを買ってみた。


 うん、美味そう!


「念のため申し上げれば」

「あ~ん?」


 ところが、かぶりつこうとする横からパンドラのがかかる。


「その串には大腸菌に類似した細菌が大量に付着してます」

「うげ」

「21世紀の日本の衛生基準の3000倍ほど」

「・・・。」


 露店のオッサン、トイレの後に手を洗わないタイプなのかな。


「安心してください。 T-SRはあらゆる細菌やウイルスに対する免疫、生物毒への耐性を獲得しております」

「・・・。」

「どうぞ、お召し上がりください」

「・・もう食欲が失せちゃったよ」


 そんな、「私が作りました」みたいにドヤ顔されても。


 ――――

 ―――

 ――

 ‐


 気を取り直して散策を再開すると。

 にわかに辺りが騒がしくなってきた。


 見れば、大手通り(仮)の先、お城の方で群衆が歓声をあげている。


「なにか催しかな? 行ってみよう」

「了解です」


 少し移動すると、歓声の大本が見えてきた。


「「「「「王太子殿下おめでとーう! ミリアナ様おめでとーう!」」」」」


 6頭の白馬が引くオープン馬車に街の人々が歓声と花弁を投げている。

 結婚式? いや、王太子妃って呼びかけがないから婚約かな。


 数分後、件の馬車は僕らの前を通過していった。


「天皇陛下と雅子さまみたいだったな」

「令和天皇夫妻の結婚パレードですか」


 中学生の頃だったか、テレビで観たんだよね。


 パンドラには前世の記憶について話してある。

 しかし、彼女の解釈としては、インストールされた映像資料を脳が記憶と混同しているのではないか、とのことだった。


 確かに、その解釈であれば僕の身体が前世の自分と瓜二つな理由も説明がつく・・気がする。


 納得はしてない。



     *****



 ミリアナside


 最高だわ!

 沿道を埋め尽くす市民が私を祝福している。


 恋愛趣味レーションゲーム『マジカルきゅんきゅん学園』のヒロインに転生して5年、第1章は苦労の末に『逆ハー・エンド』であがった。

 全てシナリオ通り。

 今頃、悪役令嬢ベアトリスはゴブリンの巣かしら。


 ふふっ


 騎士団に凌辱された後、ゴブリンにも犯されるなんて、ざまぁを通り越して少し引くわ。

 まあ、闇落ちして魔王軍参謀になる彼女には、必要なプロセスなのよね。

 ご愁傷様。


 少し気になるのは、ベアトリスが追放された日の


 男達は「魔王復活の狼煙だ!」とか「邪神の凶星だ!」とか騒いでいるけど、あんな演出あったかしら?


「どうしたミリアナ? 下々の相手は負担だったかな」

「ちょっとぉジークハルト殿下! 市民の皆様を悪く言っては、いけませんわぁ」

「ふっ 君には敵わないな」


 この王子様、男爵令嬢ミリアナを婚約者にしながら特権意識というか差別意識が全く抜けないのよね。


「路端の石にも心を砕くミリアナは王国の花だ」

「無礼な奴は俺が斬ってやるぜ!」

「や、やはりミリアナは姉上とは違う・・と、尊い」

「取るに足らない虫にも慈悲を与えるとは君は心も美しい」


 左右の騎馬から他の攻略対象が声を掛けてくる。

 彼らの思想もちょっと問題だ。


 これって私のせい?

 好感度稼ぎの為とはいえ持ち上げ過ぎたかしら。



     *****



 ベアトリスside


 暖かい・・。

 まるで、ぬるま湯に浸かっているかのようだ。


 目を開けると視界がぼやけた桃色に染まる。

 桃色・・いや赤い湯の中に私は浮いているのか。


 湯の中でも呼吸が出来るのは、口元に嵌められたマスクのおかげだろう。

 喉まで挿さった管から空気が流し込まれている。


 実に高度な魔道具だ。


「・・・。」


 意識がはっきりする程に忌々しい記憶を取り戻してきた。


 私はクソビッチと馬鹿5人に嵌められて、魔の森に追放された。

 騎士の風上にも置けない狼藉者に純潔を奪われそうになって、抵抗して・・その先が思い出せない。

 おそらく、意識を失った私はあの男達の玩具にされたのだろう。


 魔封じのかせさえ無ければ、あんな雑兵に後れを取らなかったのに。

 視界の通らない中、恨めしいかせに手を伸ばす・・と。


 魔封じのかせが無い。


 下腹部に力を入れ、魔力を練り上げる。

 いつも通り・・いや、過去に経験したことがない程に調子がいい。


 水の魔法を身体の周囲に展開して、渦のように激しくかき回す。

 魔力を注ぐほどに渦は膨張して。


 バリ―ン! バッシャーン!


 私を包んでいた入れ物が弾け飛んだ。

 そして、おぼろげに辺りが見えてくる。


 ここは・・どこ?

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