第17話


温泉街「ラザリア」の宿に到着したアーサーたちは、旅の疲れを癒すため、それぞれ湯殿へ向かった。男性陣が男湯に向かう中、シンリーとフェルミアールは女湯へと足を運んだ。


湯けむりの中のひととき


「はぁ……やっぱり温泉は最高ね。」

湯船にゆっくり浸かりながら、シンリーはため息交じりに呟いた。湯けむりがふわりと漂い、静かな湯殿は心地よい静寂に包まれている。


「確かに。こうして体を癒せる場所は貴重だ。」

フェルミアールも少しだけ表情を緩めながら湯に肩まで浸かる。


「フェルミアール、あなたって、何をしてても冷静よね。いつも淡々としてるけど、たまには感情を爆発させたりしないの?」

シンリーが首を傾げて尋ねる。


「爆発……そんなこと、ないわけではない。ただ、必要がないと思っているだけ。」

フェルミアールは淡々と答えるが、その瞳には少しだけ遠い記憶の色が浮かんでいた。


「ふーん、でもさ、アルトみたいなタイプが近くにいると、イライラしたりしない?あの自信満々な態度、私には理解できないわ。」

シンリーがクスリと笑いながら言う。


「彼は……悪い人間ではない。ただ、少々考える前に行動する癖があるだけだ。」

フェルミアールも微かに笑いを漏らした。「あなたはどう?アーサーについて何か思うところは?」



「アーサー?」

シンリーは少し考え込んでから答えた。「うーん、なんて言うのかしら……頼りになるけど、たまに無理しすぎるところが心配ね。」


「そうね。彼はリーダーとしての責任を感じすぎている。」

フェルミアールも頷く。「でも、彼がいるから私たちがまとまっているとも思う。」


「そうね……。でも、リーダーだからって何でも背負わなくてもいいのにって思うわ。もっと私たちに頼ればいいのにね。」

シンリーは少し真剣な表情で湯面を見つめた。



「そういえば、シンリー。」

フェルミアールが突然話題を変えた。「あなた、意外と可愛いものが好きだろう?」


「えっ?」

不意を突かれたシンリーは慌てた表情を浮かべる。「な、何のこと?」


「この間、町で小さなぬいぐるみを手に取っていたのを見たわ。」

フェルミアールが冷静に指摘すると、シンリーの顔がみるみる赤くなる。


「そ、それは……ただの興味本位よ!別に好きとか、そういうんじゃ……!」

しどろもどろになるシンリーを見て、フェルミアールは珍しく声を立てて笑った。


「そういうところも悪くないわね。」

その一言に、シンリーはさらに赤面した。



「ところで、シンリー。」

フェルミアールが少し真剣な表情で尋ねる。「あなた、自分の体型についてどう思っている?」


「えっ、体型?」

シンリーは驚きながら自分の体を見下ろす。「特に気にしたことはないけど……どうして?」


「いや、ただ……あなたの胸は控えめだけど、全体的にバランスが取れていて美しいと思うわ。」

フェルミアールが率直に言うと、シンリーは再び顔を赤らめた。


「そ、そんなこと……フェルミアールの方がスタイルいいじゃない。特にお尻とか……羨ましいわ。」

シンリーが恥ずかしそうに返す。


「そうかしら?エルフの体型は人間と少し違うから、あまり比較したことはなかったわ。」

フェルミアールは自分の体を見つめながら答える。


「でも、女性同士でこういう話をするのも、たまには悪くないわね。」

シンリーが微笑むと、フェルミアールも柔らかく笑った。



「こうしてお風呂で話すのも悪くないわね。」

湯から上がり、シンリーが静かに呟いた。

「普段あまり話さないけど、こういうときにお互いのことを知れるのは良いことだ。」

フェルミアールも髪をタオルで拭きながら答える。


「でも、次は私がフェルミアールの秘密を暴いてみせるから。」

シンリーは微笑みながら言った。


「そう簡単にはいかないわ。」

フェルミアールも負けじと微笑み返した。


こうして、温泉でのひとときは、二人の距離を少しだけ近づけるものとなった。癒しの湯けむりの中、彼女たちの絆は静かに深まっていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る